「フランダースの光」(Vol.2・全体の印象) Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム渋谷区道玄坂2-24-1
「フランダースの光 ベルギーの美しき村を描いて」
9/4-10/24



出展作の中でも異色のウーステイヌについてまとめたVol.1のエントリに続きます。ベルギーのとある小さな村に集った画家たちは個性派揃いでした。

まずは展示の構成です。19世紀末のベルギー北部、フランダース地方のラーテム村で活動した芸術家たちを三章立てで紹介していました。

第1章 精神的なものを追い求めて:最初期のラーテム村。都市から移り住んできた画家たちなど。象徴主義的傾向。
第2章 移ろいゆく光を追い求めて:田園風景を印象主義的に表現。いわゆる第二世代。
第3章 新たな造形を追い求めて:第二世代の画家たちの転向。表現主義やキュビズム的表現。

それにしても19世紀末のベルギーでこのような芸術運動があったとは全く知りませんでした。時代こそ異なりますが、そのイメージはフランスの田園地帯で絵画制作活動を続けたバルビゾン派にも重なるかもしれません。


ヴァレリウス・ド・サードレール「フランダースの農家」1914年 油彩・キャンヴァス 個人蔵

さてVol.1でまとめたウーステイヌに続き、もう一人個性的な画家として挙げたいのが同じく象徴主義の影響を受けていたヴァレリウス・ド・サードレールです。彼は元々、印象派のスタイルをとっていましたが、後に転向して象徴的な絵画を次々と制作しました。セピア色の空の下に木々が寒々しく立ち並ぶ「冬の果樹園」(1908)や寂寥感の漂う農家を描いた「フランダースの農家」(1914)などは見所の一つではないでしょうか。

なおこのサードレールしかり、今回の展覧会では画家数を絞り込むかわりに個々の画家の作品が多く出品されています。芸術運動の全体の流れを追いつつ、個別の画家の作風の変遷を楽しめるのもまた重要なポイントでした。

タイトルの「フランダースの光」というタイトルをそのままイメージさせるのは第2章、リュミニスム(光輝主義)と呼ばれる画家たちです。それは文字通り、光の表現を追求した画家のグループですが、中でも重要なのはエミール・クラウスでした。


エミール・クラウス「ピクニック風景」1887年頃 油彩・キャンヴァス ベルギー王室コレクション

点描風のタッチに光を織り込んだ明るい画面には、まさしくラーテム村の美しい田園風景を呼び覚ますものがあります。水辺にて人々がくつろぐ「ピクニック風景」(1887)は眩しいほどに光が満ちあふれていました。


児島虎次郎「黒い帽子の女」1908年 油彩・キャンヴァス ゲント美術館蔵

ところで驚くべきことにクラウスの家に二人の日本人画家が数年間ほど滞在していたことをご存知でしょうか。この二人とは児島虎次郎と太田喜二郎のことですが、展示では彼の作品もあわせて紹介されています。その明朗な画風はまさにクラウスと瓜二つと言えるかもしれません。まさかラーテムに日本人が関わっているとは思いませんでした。


ギュスターヴ・ド・スメット「花咲く果樹園」1910年 油彩・キャンヴァス 個人蔵

こうした光の画家たちを経由すると突然現れるのがドイツ表現主義やキュビズム風の作品です。一転して暗くまた重い画風にはやや面食らってしまう部分もありますが、ここで画家の名前にも十分に注意してください。実はこれらは一次大戦のために疎開し、各地で様々な美術の影響を受けて戻ってきたリュミニズムの光の画家たちでした。


ギュスターヴ・ド・スメット「青いソファー」1928年 油彩・キャンヴァス 個人蔵

よってここでは二章にも出ていたスメットやベルグらがガラリと作風を変えて登場しています。このスメットの2点を並べて見ても同じ作家とは思えないのではないでしょうか。結果的に1885年頃に始まったラーテムの芸術の潮流は、戦後の1920年過ぎに終焉を迎えました。

ベルギー美術の展覧会というと、実は同じ渋谷区内のオペラシティでも「アントワープ王立美術館コレクション展」を開催中ですが、そちらがもっと総体的だとすると、文化村はラーテム村の芸術潮流のみに焦点を当てた密度の濃い内容だと言えるかもしれません。一部重なる画家もいるので相互の関連を追いながら楽しめました。

ところで最後に一つだけ公式サイトに出ていたお得な情報をお知らせします。この展覧会の半券を持っていくと下記のベルギービール全店でグラスビール一杯が無料になるそうです。ビール好きの私にも嬉しい特典なので近いうちに飲みに行きたいと思います。

ベルギービール専門店とのタイアップキャンペーン決定!

10月24日まで開催されています。

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