都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「稲垣仲静・稔次郎兄弟展」 練馬区立美術館
練馬区立美術館(練馬区貫井1-36-16)
「稲垣仲静・稔次郎兄弟展」
9/14-10/24
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大正と昭和に生きた、京都生まれの芸術家兄弟の業績を回顧します。練馬区立美術館で開催中の「稲垣仲静+稔次郎 兄弟展」のプレスプレビューに参加してきました。
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稲垣仲静「自画像」(1921)
兄仲静(1897~1922)は日本画、そして弟稔次郎(1902~1963)は染色作家として名を馳せたというこの兄弟ですが、ともかく私が強烈な印象を受けたのは時にグロテスクなまでの画風を展開した仲静です。会場には素描の小品を含めると約100点近くにも及ぶ仲静の作品が展示されていました。
1 デロリの仲静
大正期の京都画壇というとデロリという言葉でくくられるような妖しげな絵画を見かけることがありますが、仲静でそれを挙げるなら「太夫」(1921)の一点でも十分かもしれません。
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稲垣仲静「太夫」(1921) 京都国立近代美術館
金の混じる闇に浮かび上がるのは、グレーの肌を露としたまるで妖怪かなにかのように微笑む人物の姿です。仲静は細密な表現を得意ともしましたが、ここではどこか乱雑なまでの力強いタッチでその頭部などを象っています。以前、同時代の岡本神草の「挙の舞妓」を見て仰け反ったことがありましたが、この作品はさらに衝撃的でした。
2 草花や小動物への温かな眼差し
その一方、仲静は身近な草花や動物を数多く写生しています。そうしたいわゆる花鳥画類の小品もまた見所の一つではないでしょうか。
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稲垣仲静「十二支之図」(1922) 星野画廊
小さな雛や雀はどれも可愛らしいものですが、それこそ応挙犬級に愛くるしい子犬たちからは仲静の動物に対する優しげな心持ちを感じました。
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左下、稲垣仲静「土瓶と湯呑」(1912) 星野画廊
また家庭の身の回りにある日用品を表した「土瓶と湯呑」(1912)なども、的確なデッサン力に感心させられます。その巧みな表面の質感表現からは、劉生や御舟の静物画を連想しました。
3 猫と軍鶏 擬人化された動物たち
単なる花鳥画を超え、動物たちに意思と魂を吹き込んでいったのも仲静画の大きな特徴です。
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右、稲垣仲静「猫」(1919) 個人蔵
チラシにも挙げられた「猫」(1919)における取り澄ました表情の奥には、何かじっと人を見つめてその心を見抜くような意思を感じてなりません。
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左、稲垣仲静「軍鶏」(1919) 京都国立近代美術館
また擬人化と言えばこれまた代表作の「軍鶏」(1919)も忘れられません。鶏冠をぴんと立て、まるで風に靡くような羽を振りかざして敢然と起立する様には畏怖の念すら覚えてしまいます。たとえ倒れようとも気概を失うまいというような凄みがありました。
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左、稲垣仲静「鶏頭」(1919) 京都国立近代美術館
最後に一点、ぐっと心を捉えられた「鶏頭」(1919)を挙げておかないわけにはいきません。あたかも身震いして断末魔の叫びを放つように枯れていく鶏頭は、どこか人の死と重なりあって見えてなりませんでした。もちろん作品とは関係ありませんが、仲静はこの数年後、腸チフスのために25歳の若さで亡くなってしまいます。
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さて一方、染色家として活躍した稔次郎の作品も会場の半分を占めていました。
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雅やかなデザインによる着物や羽織、また帯などは見るも鮮やかです。また京都出身と言うことで、四条や京都駅、また祇園祭などをモチーフにした作品が多く作られていました。
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実は仲静も祇園祭の長刀鉾を描いていますが、逆に稔次郎の手による猫や鶏頭など、相互に同じ主題の作品を見比べていくのも楽しいのではないでしょうか。
京都国立近代美術館からの巡回展です。スペースの広い京近美の展示がどういった内容だったのか不明ですが、ともかくも仲静という特異な画家の作品をまとめて見ることが出来て感激しました。
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甲斐庄楠音「裸婦」(1921) 京都国立近代美術館
また一部、例えば甲斐庄楠音などの同時代の画家が紹介されているのも見逃せないポイントです。そうした作品を踏まえることで、仲静の生きた時代の表現の潮流が伝わる内容となっていました。実は私自身、行く前は池大雅を目的にしていたところがありましたが、美術館を出る頃には頭の中がすっかり仲静一色になっていたことを付け加えておきます。
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弟稔次郎は早逝した兄を尊敬し、いつか二人展を開きたいと語っていたことがあったそうです。それが今回、大きく時代を超えて初めて実現しました。なお仲静の回顧展の開催は遺作展以来、約90年ぶりだそうです。
10月24日まで開催されています。強くおすすめします。
*関連エントリ(同時開催中)
「初公開!池大雅の水墨山水画」 練馬区立美術館
注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
「稲垣仲静・稔次郎兄弟展」
9/14-10/24
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大正と昭和に生きた、京都生まれの芸術家兄弟の業績を回顧します。練馬区立美術館で開催中の「稲垣仲静+稔次郎 兄弟展」のプレスプレビューに参加してきました。
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稲垣仲静「自画像」(1921)
兄仲静(1897~1922)は日本画、そして弟稔次郎(1902~1963)は染色作家として名を馳せたというこの兄弟ですが、ともかく私が強烈な印象を受けたのは時にグロテスクなまでの画風を展開した仲静です。会場には素描の小品を含めると約100点近くにも及ぶ仲静の作品が展示されていました。
1 デロリの仲静
大正期の京都画壇というとデロリという言葉でくくられるような妖しげな絵画を見かけることがありますが、仲静でそれを挙げるなら「太夫」(1921)の一点でも十分かもしれません。
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稲垣仲静「太夫」(1921) 京都国立近代美術館
金の混じる闇に浮かび上がるのは、グレーの肌を露としたまるで妖怪かなにかのように微笑む人物の姿です。仲静は細密な表現を得意ともしましたが、ここではどこか乱雑なまでの力強いタッチでその頭部などを象っています。以前、同時代の岡本神草の「挙の舞妓」を見て仰け反ったことがありましたが、この作品はさらに衝撃的でした。
2 草花や小動物への温かな眼差し
その一方、仲静は身近な草花や動物を数多く写生しています。そうしたいわゆる花鳥画類の小品もまた見所の一つではないでしょうか。
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稲垣仲静「十二支之図」(1922) 星野画廊
小さな雛や雀はどれも可愛らしいものですが、それこそ応挙犬級に愛くるしい子犬たちからは仲静の動物に対する優しげな心持ちを感じました。
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左下、稲垣仲静「土瓶と湯呑」(1912) 星野画廊
また家庭の身の回りにある日用品を表した「土瓶と湯呑」(1912)なども、的確なデッサン力に感心させられます。その巧みな表面の質感表現からは、劉生や御舟の静物画を連想しました。
3 猫と軍鶏 擬人化された動物たち
単なる花鳥画を超え、動物たちに意思と魂を吹き込んでいったのも仲静画の大きな特徴です。
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右、稲垣仲静「猫」(1919) 個人蔵
チラシにも挙げられた「猫」(1919)における取り澄ました表情の奥には、何かじっと人を見つめてその心を見抜くような意思を感じてなりません。
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左、稲垣仲静「軍鶏」(1919) 京都国立近代美術館
また擬人化と言えばこれまた代表作の「軍鶏」(1919)も忘れられません。鶏冠をぴんと立て、まるで風に靡くような羽を振りかざして敢然と起立する様には畏怖の念すら覚えてしまいます。たとえ倒れようとも気概を失うまいというような凄みがありました。
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左、稲垣仲静「鶏頭」(1919) 京都国立近代美術館
最後に一点、ぐっと心を捉えられた「鶏頭」(1919)を挙げておかないわけにはいきません。あたかも身震いして断末魔の叫びを放つように枯れていく鶏頭は、どこか人の死と重なりあって見えてなりませんでした。もちろん作品とは関係ありませんが、仲静はこの数年後、腸チフスのために25歳の若さで亡くなってしまいます。
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さて一方、染色家として活躍した稔次郎の作品も会場の半分を占めていました。
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雅やかなデザインによる着物や羽織、また帯などは見るも鮮やかです。また京都出身と言うことで、四条や京都駅、また祇園祭などをモチーフにした作品が多く作られていました。
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実は仲静も祇園祭の長刀鉾を描いていますが、逆に稔次郎の手による猫や鶏頭など、相互に同じ主題の作品を見比べていくのも楽しいのではないでしょうか。
京都国立近代美術館からの巡回展です。スペースの広い京近美の展示がどういった内容だったのか不明ですが、ともかくも仲静という特異な画家の作品をまとめて見ることが出来て感激しました。
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甲斐庄楠音「裸婦」(1921) 京都国立近代美術館
また一部、例えば甲斐庄楠音などの同時代の画家が紹介されているのも見逃せないポイントです。そうした作品を踏まえることで、仲静の生きた時代の表現の潮流が伝わる内容となっていました。実は私自身、行く前は池大雅を目的にしていたところがありましたが、美術館を出る頃には頭の中がすっかり仲静一色になっていたことを付け加えておきます。
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弟稔次郎は早逝した兄を尊敬し、いつか二人展を開きたいと語っていたことがあったそうです。それが今回、大きく時代を超えて初めて実現しました。なお仲静の回顧展の開催は遺作展以来、約90年ぶりだそうです。
10月24日まで開催されています。強くおすすめします。
*関連エントリ(同時開催中)
「初公開!池大雅の水墨山水画」 練馬区立美術館
注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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