「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」 国立新美術館

国立新美術館
「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」
6/8-9/5



アメリカ・ワシントンの誇る珠玉の印象派コレクションを展観します。国立新美術館で開催中の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」のプレスプレビューへ参加してきました。



震災の影響などで出品を中止する海外の美術館も少なくない中、ここワシントン・ナショナル・ギャラリーは全く別と言っても差し支えありません。当初の予定通り、改装中の同美術館より出品されたのは、普段は滅多に公開されることのない常設作品9点を含む、全83点の印象派・ポスト印象派絵画でした。

展覧会の構成は以下の通りです。

第1章「印象派登場まで」
第2章「印象派」
第3章「紙の上の印象派」
第4章「ポスト印象派以降」


途中に紙の作品、つまりは素描や版画などを挟んだ上にて、主に印象派絵画を時系列に展示していました。



点数は新美にしてはやや少なめですが、要所要所に思わず息をのんでしまうような名画があるのがまた心憎いところです。まさに誰しもがお気に入りの作品を何枚も見つけられるような展覧会ですが、ここは思い切って私の特に惹かれた5つの作品を挙げてみました。

1.エドゥアール・マネ「鉄道」


エドゥアール・マネ「鉄道」1873年 油彩・カンヴァス

鉄道の描かれていない「鉄道」として有名な一枚ですが、日常のさり気ない一コマを切り取るマネならではの作品と言えるかもしれません。こちらを見やる女性と後ろを向いて駅の方を見やる少女の関係は明らかではありませんが、そこから開かれるドラマを想像するのもまた楽しいのではないでしょうか。

また人物の立ち位置や蒸気に隠れる汽車など、一見、絵画としては謎めいた印象をあたえながらも、実際の光景としては何ら違和感がない点も興味深く思いました。

2.メアリー・カサット「青い肘掛け椅子の少女」


メアリー・カサット「青いひじ掛け椅子の少女」1878年 油彩・カンヴァス

今回はカサットがかなり多く出ていますが、やはり一際目立っているのがこの「青い肘掛け椅子」です。力強く、また動的なタッチの絵具の質感は極めて豊かで、斜めを向いて横たわる少女の生命感とソファの重厚感がひしひしと伝わってきます。そしてこの深いブルーの色味の美しさに魅せられた方も多いのではないでしょうか。目に滲みいりました。

3.ポール・セザンヌ「ゼラニウム」


ポール・セザンヌ「ゼラニウム」1888-1890年 水彩・黒鉛・賽の目紙

「紙の上の印象派」の一角に潜む名作です。ゼラニウムという身近な植物をモチーフにしながらも、デッサン、そして陰影の効果は的確で、葉を覆う緑の色彩もまた軽やかで瑞々しさが感じられます。ここは思わず立ち止まって見惚れてしまいました。

4.ポール・セザンヌ「赤いチョッキの少年」


ポール・セザンヌ「赤いチョッキの少年」1888-1890年 油彩・カンヴァス

この展覧会の始まる前から一番期待していた作品ですが、実際に接してもその思いは全く裏切られることはありませんでした。やや腕の長い少年のポーズの他、奥行き感のある構図などはセザンヌならではの表現と言えそうですが、最も驚いたのはその豊かな色彩感です。図版で見るよりもはるかに塗り込まれたタッチは、作品に稀な重厚感を与えています。色は単純な面を超えて、言わば空間までを巧みに作り出していました。

5.フィンセント・ファン・ゴッホ「薔薇」


フィンセント・ファン・ゴッホ「薔薇」1890年 油彩・カンヴァス

展覧会のラストを飾る一枚です。いわゆる療養院時代の作品ですが、薔薇のむせ返るような生命感はあまり暗鬱な気配を感じさせません。ゴッホ特有のうねるようなタッチはともかくも、その明るい色彩、何よりも輝かしき花の様子には素直に惹かれるものがありました。



如何でしょうか。またこれら以外にもバジールやドガ、ピサロの他、「日傘の女性」をはじめとしたルノワールの充実したコレクションもお目見えしています。ただやはり今回の展覧会の主役は紛れもなく一番にセザンヌです。そして次にカサット、またマネではないでしょうか。



とりわけハイライトを飾るセザンヌの大作6点の並ぶスペースには心をぐっとつかまれました。あの場所だけでも一つの展覧会が成り立ちます。



なお全83点、うち約25点超が紙の小品ということで、会場内にはかなり余裕があります。会期中盤に入って若干混雑し始めたとも聞きますが、ゆったりとした空間で楽しめるのもこの展覧会の魅力かもしれません。

もちろん混雑を避けるのであれば毎週金曜の夜間開館(20時まで)が狙い目です。私もそろそろあの「赤いチョッキ」に会いにもう一度行きたいと思います。

ロングランの展覧会です。9月5日まで開催されています。*東京展終了後、京都市美術館(9/13~11/27)へと巡回します。

「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展 印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション」 国立新美術館
会期:6月8日(水)~9月5日(月)
休館:火曜日
時間:10:00~18:00 *金曜日は20:00まで。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)会場の写真撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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