「空海と密教美術展」中編(法灯) 東京国立博物館

東京国立博物館
「空海と密教美術展」
7/20-9/25



「前編」(第一会場)に続きます。東京国立博物館で開催中の「空海と密教美術展」のプレスプレビューに参加して来ました。



さて前半部は主に空海の業績を書や絵画などで追っていましたが、第二会場の第4章「法灯」では、ゆかりの寺院の仏像が怒涛のように登場します。この後半の濃厚さは最近の東博では久々かもしれません。

空海の教えはいわゆる十大弟子などに受け継がれましたが、その中心の寺院として位置づけられるのが東寺や金剛峯寺、または醍醐寺です。


「大日如来坐像」 平安時代 和歌山・金剛峯寺

第二会場冒頭にはその一つである金剛峯寺より出品された「大日如来坐像」が鎮座しています。 これがまた大変な名品です。密教の中心的存在でもある大日如来の姿は、キャプションにある力強さというよりもむしろ神秘的で、その眼差しを前にするとなかなか次へ移ることが出来ませんでした。

彩色の曼荼羅としては現存最古であるという「西院曼荼羅」は思いの外に状態も良好です。唐で描かれたとも言われる作品ですが、やや桃色がかった各像の姿はどこか親しみすら覚えます。うっとりとした眼差しを持つ像など、それぞれの生き生きとした表情も印象に残りました。


「業用虚空蔵菩薩坐像」/「蓮華虚空蔵菩薩坐像」 平安時代 京都・神護寺

さてそろそろ続々と仏様のお出ましです。その冒頭を飾るのが神護寺の二像、「業用虚空蔵菩薩坐像」と「蓮華虚空蔵菩薩坐像」です。端正な表情をしながら、どっしりとした安定感を醸し出しながら構える様子は威厳にも満ち溢れていました。

その端正さとはいささか異なった表情をとるのが、大阪・獅子窟寺の「薬師如来坐像」です。ややつり上がった瞳に少し笑みをたたえたような口元は独特で、流れような衣の襞もまた魅力が感じられます。


左「千手観音菩薩立像」 平安時代 香川・聖通寺

一方、香川の聖通寺からの「千手観音菩薩立像」はどこか憂いをたたえたような表情が心にとまります。その無数にのびる手とは裏腹に、あまり動きを感じさせない仏像ですが、そのお顔の温和な様子には癒されるものがありました。


上「天蓋」(西院所用) 平安時代 京都・東寺 下「大壇」(西院安置) 平安時代 京都・東寺

一際目立つ東寺の「天蓋」と「大壇」にも圧倒された方も多いのではないでしょうか。とりわけ天蓋に描かれた細やかな彩絵には思わず目を引かれます。やや剥落も多く、肉眼では厳しいものもありましたが、パネルでも拡大された飛ぶ菩薩の姿は何とも流麗でした。

さてこの天蓋を経由すると、これまでの展示とは趣きを変え、さながら仏像インスタレーションというべき展覧会の一つのハイライトへと到達します。



どこか女性的な表情にも見える仁和寺の阿弥陀如来を基点に、東寺の菩薩坐像、そして不動明王に薬師如来を中心とする醍醐寺の仏像がこれ見よがしに登場します。その濃密な空間には、一歩足を踏み入れた途端、思わず息をのんでしまいました。

和様彫刻の息吹も伝える仁和寺の「阿弥陀如来および両脇侍像」はどこか母性的な印象も感じられますが、それとは一転してやや特異とも言うべき表現をとるのが東寺の「法界虚空蔵菩薩坐像」と「蓮華虚空蔵菩薩坐像」です。


「法界虚空蔵菩薩坐像」/「蓮華虚空蔵菩薩坐像」 唐時代 京都・東寺(観智院)

法界菩薩は馬、蓮華菩薩は孔雀を座にするという両仏像ですが、そのいずれもが極めて面長でまた細く、他の像にはあまり見られない表情をしています。また座はいずれも簡潔な造形で表されていましたが、それでも例えばピンと羽を伸ばした孔雀の様子などからは力強さも感じました。


「薬師如来および両脇侍像」  平安時代 京都・醍醐寺

醍醐寺から出品の仏像群がこれまた見逃せません。大きな目を見開き、まさに見る者を威圧するように立つ「五大明王像」を筆頭に、奥には醍醐寺薬師堂の本尊である「薬師如来および両脇侍像」が堂々と鎮座しています。

恰幅のよい体躯の中尊の重厚感といったら並大抵ではありません。いささか険しい表情をした姿からは威厳を感じます。また一方で両脇侍像はややほっそりした体が印象的です。あたかも奈良時代の仏像のようでした。


「如意輪観音菩薩坐像」 平安時代 京都・醍醐寺

醍醐寺からはもう一体、「如意輪観音菩薩坐像」も必見の仏様です。いかにも如意観音らしいリラックスしたような流麗な表現には惹かれた方も多いのではないでしょうか。ほっそりとした腕や指、また繊細な装身具までもが実に優雅でした。


手前「五大明王像」 平安時代 京都・醍醐寺

第4章「法灯」だけでも展覧会が成り立つほどの密度と言えるかもしれませんが、これに続くのが最大の見せ場である東寺の仏像曼荼羅です。(以下の後編にまとめてあります。)

「空海と密教美術展」前編(第一会場)
「空海と密教美術展」後編(東寺・仏像曼荼羅)

なお第4章に出品の仏像の展示替えはありません。(出品リスト)ただし会場内はやや混み合ったつくりです。やはり混雑する前に早めに出かけられた方が良いのではないでしょうか。

9月25日まで開催されています。

「空海と密教美術展」 東京国立博物館・平成館
会期:7月20日(水)~9月25日(日)
休館:月曜日 *8月15日(月)、9月19日(月)は開館。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) *会期中の金曜日は20:00まで、土・日・祝日は18:00まで開館。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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