「磯江毅展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「磯江毅=グスタボ・イソエ マドリード・リアリズムの異才」
7/12-10/2



マドリード・リアリズムの俊英画家として認められた磯江毅(1954-2007)の画業を展観します。練馬区立美術館で開催中の「磯江毅=グスタボ・イソエ マドリード・リアリズムの異才」の特別内覧会に参加してきました。

10代の頃に単身でスペインに渡り、彼の地でキャリアを重ねた磯江ですが、2007年に53歳の若さで急逝した後は、なかなか国内でまとまった形で紹介されることはありませんでした。



そもそも磯江は非常に作品が少なく、30数年の画業の間に描いた絵画は僅か130点ほどに過ぎませんが、今回はスペインに残した30点を除く約80点の作品が一堂に会しています。

まさに没後初、そしてかつてない規模での磯江毅の回顧展です。画業初期の作品からデッサン、素描、また関連資料、さらには制作の核心となる中期以降のリアリズム表現の絵画などがずらりと勢揃いしていました。



冒頭、まず階段下の展示室で紹介されているのは、磯江がスペインに渡る前、つまりは生誕の地である大阪時代に描いたデッサンや油絵などです。この時点ではまだ後の神秘的とさえ言えるリアリズムの領域に達している面は薄いかもしれませんが、晩年へと続く磯江のモチーフへの真摯な態度は伺い知ることが出来るかもしれません。

大阪の工芸高校を卒業後、磯江は単身でシベリアを経由し、スペインへと向かいます。これが彼の本格的な画業の始まりです。西洋の伝統的な技法に則ったような静物画の数々は、早くも独特な深みと静謐感をたたえてぐっと胸に響いてきました。



そして2階へあがると磯江の達した孤高の境地が待ち構えています。美術館の公式サイトにもあるように、磯江は単なるリアリズムではなく、半ば対象を超えた精神など追求しますが、乾いた果実やどこか朽ちた鳥の巣を描いた作品などからは、確かにそうした面を感じることが出来るのではないでしょうか。

それこそリンゴなどはモノとしてではなく、あたかも何かへ向かって語りかけるように存在していました。



またとりわけ磯江で印象深いのは「白」の作品です。モノクロームの世界に沈みこんでは浮かぶ魚や貝殻などは、どこか虚無的で、言い換えれば西洋の静物で語られることの多いヴァニタスを強く喚起させてきます。儚さを通り越した死の世界を垣間見ているかのようでした。



2000年代より最後の7年間に入ると、これまでにはない構図上の変化が生まれます。それがちらし表紙の「鰯」にあるように上からお皿をのぞき込んだ作品です。ここでは細やかに表された野菜や魚などが皿の縁を沿うように並べられています。その精緻な描きこみの一方、不思議と事物の存在感は希薄となり、捉え難い浮遊感までが漂ってきました。写実の向こうにある彼岸を探ろうとしているのかもしれません。



また磯江は人物表現にも果敢に挑戦します。私自身は静物の方が好きですが、会場には多数の人物スケッチなども紹介されていました。



ところで本展にあわせ、練馬区立美術館では新開発のLEDスポットライトが用いられています。この照明は都内の公立美術館では初めての導入とのことでした。

磯江毅展より高性能LED照明を導入しました(練馬区立美術館ブログ)

「磯江毅 写実考─Gustavo ISOE's Works 1974-2007/美術出版社」

また会期中、アーティストトークも予定されています。(申込不要。要観覧券。各15時から。)

水野暁 8月6日(土曜)
諏訪敦 8月20日(土曜)
石黒賢一郎 9月3日(土曜)


ロングランの展覧会です。10月2日までの開催です。*東京展終了後、奈良県立美術館(10/22~12/18)へと巡回。

「磯江毅=グスタボ・イソエ マドリード・リアリズムの異才」 練馬区立美術館
会期:7月12日(火)~10月2日(日)
休館:月曜日、ただし7月18日と9月19日は開館、翌日休館。
時間:10:00~18:00
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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