都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「デルヴォー展スライドレクチャー」 府中市美術館
いよいよ府中市美術館へと巡回してきたポール・デルヴォー展。
早速、私も出向いてきましたが、デルヴォー好きの私にとってはまさに夢見心地の世界で終始うっとりと。
もちろんそれだけではなく珍しい初期作やモチーフ毎の展開比較など、見応えのある内容となっていました。
さて感想はまた後日に挙げるとして、このエントリでは取り急ぎスライドレクチャーの様子を。
講師は本展ご担当の学芸員、音ゆみこ氏。正味20分ほどでしたが、展覧会の準拠しつつ、デルヴォーの芸術について触れていく密度の濃い内容でした。
はじめは展覧会の概要から。日本人にも人気のデルヴォー、作品を見る機会は決して少なくない画家ですが、国内での本格的な回顧展としては約10年ぶりだとか。そして章立てについての紹介があり、いくつかの作品をスライドに写しながら、デルヴォーについての解説が行われました。
さてまず面白いのが、比較的紹介されることのない画業初期の作品も展示されていること。ベルギーの典型的なブルジョワ一家に生まれたデルヴォーは画家を志しながらも両親の反対にあい、一度は建築家を目指します。
しかしながらそこでは数学の点数が足りずに挫折。ところが偶然知り合った王室の画家がデルヴォーの水彩画を激賞。ひょんなことから画家の道が切り開かれることになりました。
当初のデルヴォーはまさしく印象派風。目に見える通りの景色を有り体に描きます。
ところが30代になると一変、いわゆる『模索の時代』に突入し、表現主義からセザンヌにピカソと、多様な画家の表現を試行錯誤に取り込んでいきます。
この「若き娘のトルソ」(1925年)などピカソ風。
それに風景画「ボワフォールの風景」(1925年)などはセザンヌにも学んでいます。
またベルギーのペルネークという画家にも強い影響を受け、いわゆる印象派的な表現から脱出することに成功しました。
ちなみにこの時代のデルヴォーは私生活でも挫折。後に将来の伴侶となるタムに出会うも、再び両親の反対のために結婚は叶いません。彼に特徴的な裸婦のモチーフはこの時代から描かれますが、これはタムと母のイメージが複雑に入り交じっているという説もあるとのことでした。
さてそのようなデルヴォーが自身の確固たる道を開いたのがシュルレアリスムとの出会いです。
1934年、37歳の時にデルヴォーはブリュッセルでシュルレアリスムの展覧会を見て、その新奇でかつ強いイメージに衝撃を受けます。(但しシュルレアリスムに影響を受けたとはいえ、背景にある理論や思想には興味を示さなかったそうです。)
その一例が「レースの行列」(1936年)。本展では習作が出ていますが、女性からランプが門に向かってあたかも行進するような光景は、どこか現実にはありえないような夢の世界だと言えるのではないでしょうか。
そして時代は飛びますが、この「行列」(1963年)も同様。数多く登場する女性たちは皆、似通った様子で、表情がよく分かりません。そしてこの女性こそデルヴォーが追い求め、結局は再会して結婚したタム(駆け落ちだったとか!)とのことでしたが、まさに彼女こそデルヴォーの制作の大きな力の源泉になっていたのかもしれません。
さてデルヴォーといえばもう一つは汽車のモチーフ。ギリシャ神話の物語に主題をとった「エペソスの集い」(1973年)にも描かれています。
そしてこの古代神話、特にオデュッセイアの叙事詩と、汽車、とりわけ路面電車こそ、デルヴォーが子どもの頃から好きであったものなのです。
何とデルヴォーが子ども時代に暮らした家の窓から路面電車が見えていたとのこと。
こうした物語的な要素、そして子どもの時から見ていた現実の事物(例えば汽車や建築。)、さらには最愛の女性タムといった多様なイメージを組み合わせ、全体を幻想で包み込んだ世界こそ、デルヴォーが確立した絵画表現であるというわけでした。
ラストにはデルヴォーが89歳の時に描いた「カリュプソー」(1986年)も登場。ちなみにこの作品はベルギーから出たのが今回が初めてです。
デルヴォーの夢の世界、スライドレクチャーでも堪能することが出来ました。
さてスライドレクチャーは会期中、以下の日程で行われます。
「デルヴォー展 20分スライドレクチャー」
日程:9月16日(日)、9月22日(土)、9月30日(日)、10月6日(土)、10月14日(日)、10月20日(土)、10月28日(日)、11月3日(土)、11月11日(日)
時間:午後2時と3時の2回(内容は同一。)
会場:講座室
費用:無料
なお一度、会場内へ入ってしまった後も、受付の方に申し出れば途中で退出してレクチャーを聞くことが出来ます。
さらに展覧会講座も予定されています。
[デルヴォー展 展覧会講座]
「デルヴォー前夜 ベルギー象徴主義絵画」
日時:10月21日(日)
講師:井出洋一郎(府中市美術館館長)
「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」
日時:11月4日(日曜日)
講師:音ゆみ子(府中市美術館学芸員)
ともにいずれも午後2時から講座室にて、予約不要で無料です。館長と音学芸員の二本立て。象徴派からデルヴォーへの流れをチェック出来るまたとない機会になるのではないでしょうか。私も是非伺いたいと思います。
それではデルヴォー展についてはまた別エントリでまとめたいと思います。
「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」 府中市美術館
会期:9月12日(水)~11月11日(日)
休館:月曜日(但し9月17日、10月8日を除く。)、9月18日(火)、10月9日(火)。
時間:11:00~17:00
料金:一般900(720)円、高校生・大学生450(360)円、小学生・中学生200(160)円。
*( )内は20人以上の団体料金。
住所:府中市浅間町1-3
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
早速、私も出向いてきましたが、デルヴォー好きの私にとってはまさに夢見心地の世界で終始うっとりと。
もちろんそれだけではなく珍しい初期作やモチーフ毎の展開比較など、見応えのある内容となっていました。
さて感想はまた後日に挙げるとして、このエントリでは取り急ぎスライドレクチャーの様子を。
講師は本展ご担当の学芸員、音ゆみこ氏。正味20分ほどでしたが、展覧会の準拠しつつ、デルヴォーの芸術について触れていく密度の濃い内容でした。
はじめは展覧会の概要から。日本人にも人気のデルヴォー、作品を見る機会は決して少なくない画家ですが、国内での本格的な回顧展としては約10年ぶりだとか。そして章立てについての紹介があり、いくつかの作品をスライドに写しながら、デルヴォーについての解説が行われました。
さてまず面白いのが、比較的紹介されることのない画業初期の作品も展示されていること。ベルギーの典型的なブルジョワ一家に生まれたデルヴォーは画家を志しながらも両親の反対にあい、一度は建築家を目指します。
しかしながらそこでは数学の点数が足りずに挫折。ところが偶然知り合った王室の画家がデルヴォーの水彩画を激賞。ひょんなことから画家の道が切り開かれることになりました。
当初のデルヴォーはまさしく印象派風。目に見える通りの景色を有り体に描きます。
ところが30代になると一変、いわゆる『模索の時代』に突入し、表現主義からセザンヌにピカソと、多様な画家の表現を試行錯誤に取り込んでいきます。
この「若き娘のトルソ」(1925年)などピカソ風。
それに風景画「ボワフォールの風景」(1925年)などはセザンヌにも学んでいます。
またベルギーのペルネークという画家にも強い影響を受け、いわゆる印象派的な表現から脱出することに成功しました。
ちなみにこの時代のデルヴォーは私生活でも挫折。後に将来の伴侶となるタムに出会うも、再び両親の反対のために結婚は叶いません。彼に特徴的な裸婦のモチーフはこの時代から描かれますが、これはタムと母のイメージが複雑に入り交じっているという説もあるとのことでした。
さてそのようなデルヴォーが自身の確固たる道を開いたのがシュルレアリスムとの出会いです。
1934年、37歳の時にデルヴォーはブリュッセルでシュルレアリスムの展覧会を見て、その新奇でかつ強いイメージに衝撃を受けます。(但しシュルレアリスムに影響を受けたとはいえ、背景にある理論や思想には興味を示さなかったそうです。)
その一例が「レースの行列」(1936年)。本展では習作が出ていますが、女性からランプが門に向かってあたかも行進するような光景は、どこか現実にはありえないような夢の世界だと言えるのではないでしょうか。
そして時代は飛びますが、この「行列」(1963年)も同様。数多く登場する女性たちは皆、似通った様子で、表情がよく分かりません。そしてこの女性こそデルヴォーが追い求め、結局は再会して結婚したタム(駆け落ちだったとか!)とのことでしたが、まさに彼女こそデルヴォーの制作の大きな力の源泉になっていたのかもしれません。
さてデルヴォーといえばもう一つは汽車のモチーフ。ギリシャ神話の物語に主題をとった「エペソスの集い」(1973年)にも描かれています。
そしてこの古代神話、特にオデュッセイアの叙事詩と、汽車、とりわけ路面電車こそ、デルヴォーが子どもの頃から好きであったものなのです。
何とデルヴォーが子ども時代に暮らした家の窓から路面電車が見えていたとのこと。
こうした物語的な要素、そして子どもの時から見ていた現実の事物(例えば汽車や建築。)、さらには最愛の女性タムといった多様なイメージを組み合わせ、全体を幻想で包み込んだ世界こそ、デルヴォーが確立した絵画表現であるというわけでした。
ラストにはデルヴォーが89歳の時に描いた「カリュプソー」(1986年)も登場。ちなみにこの作品はベルギーから出たのが今回が初めてです。
デルヴォーの夢の世界、スライドレクチャーでも堪能することが出来ました。
さてスライドレクチャーは会期中、以下の日程で行われます。
「デルヴォー展 20分スライドレクチャー」
日程:9月16日(日)、9月22日(土)、9月30日(日)、10月6日(土)、10月14日(日)、10月20日(土)、10月28日(日)、11月3日(土)、11月11日(日)
時間:午後2時と3時の2回(内容は同一。)
会場:講座室
費用:無料
なお一度、会場内へ入ってしまった後も、受付の方に申し出れば途中で退出してレクチャーを聞くことが出来ます。
さらに展覧会講座も予定されています。
[デルヴォー展 展覧会講座]
「デルヴォー前夜 ベルギー象徴主義絵画」
日時:10月21日(日)
講師:井出洋一郎(府中市美術館館長)
「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」
日時:11月4日(日曜日)
講師:音ゆみ子(府中市美術館学芸員)
ともにいずれも午後2時から講座室にて、予約不要で無料です。館長と音学芸員の二本立て。象徴派からデルヴォーへの流れをチェック出来るまたとない機会になるのではないでしょうか。私も是非伺いたいと思います。
それではデルヴォー展についてはまた別エントリでまとめたいと思います。
「ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅」 府中市美術館
会期:9月12日(水)~11月11日(日)
休館:月曜日(但し9月17日、10月8日を除く。)、9月18日(火)、10月9日(火)。
時間:11:00~17:00
料金:一般900(720)円、高校生・大学生450(360)円、小学生・中学生200(160)円。
*( )内は20人以上の団体料金。
住所:府中市浅間町1-3
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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