「棚田康司 たちのぼる。展」 練馬区立美術館

練馬区立美術館
「棚田康司 たちのぼる。展」
9/16-11/25



練馬区立美術館で開催中の「棚田康司 たちのぼる。展」の特別鑑賞会に参加してきました。

ミヅマアートギャラリーの個展の他、スパイラルでの「○と一(らせんとえんてい)」など、このところ意欲的に展示を続けている彫刻家、棚田康司。

人間、特に最近ではどこか中性的な子どもを象った木彫、またその潤んだ瞳などに心つかまされる方も多いかもしれません。


手前:「生える少年」2011年 樟材の一木造りに彩色

そうした棚田康司の東京では初めてとなる大規模な個展です。

出品は旧作から最新作の木彫の他、スケッチなども多数。棚田の制作の今と昔、言わば全貌を知ることの出来る展示となっていました。

さてエントランスからして意表を突かれた方も多いのではないでしょうか。

天井から吊るされたロープに絡まり、すらっとした身体をあたかも無重力空間において靡かせているような作品こそが、今回のタイトルにもなった「たちのぼる 少年の場合」。


「たちのぼる 少年の場合」2012年 樟材の一木造りに彩色、晒、絹糸

まさに煙のようにたちのぼる、その子どもから大人へとなっていくイメージを表したそうですが、単に上へ向かっているのではなく、あくまでも反対になっている点も興味深いポイントです。

上昇と下降、その動きを思考や人生とも重ね合わせたという本作からは、棚田の子どもへの視点はもとより、制作全般に対するデリケートな意識を感じてなりませんでした。

さて展覧会全体が一つのインスタレーションとして完成している点も重要です。

例えば明と暗、ようは明るく白い空間と、暗くまた黒い空間を作り、そこへ様々な彫刻を緊張感をもって配置しています。


左:「現れた少年」2011年 樟材の一木造りに彩色、絹糸

この作品同士の関係、言ってしまえば「場所性」や「共鳴」も大きなキーワードです。


右:「少年」2006年 樟材の一木造りに彩色、毛糸

強い意思を放つかのように上目遣いで彼方を見やり、また時に物憂げに、さらには無邪気に面持ちで視線を多方に向ける子どもたち。

そうした視線はまさに見えない糸のように作品同士を繋ぎあわせていますが、さらにそこへ我々の視線が加わることで、作品と鑑賞者の見る見られる関係が曖昧、ようはより対等で近しい関係に変化してはいないでしょうか。


右:「父を待つ少年」2004年 樟材の一木造りに彩色

こうした作品との近い距離感、全体の一体感こそ、この展覧会の大きな魅力でした。

また一体と言えば、作品と素材の木との関係も重要なところ。「たかおかみ」と「くらおかみ」では巨木がそのまま作品と合わせ重なり、木の圧倒的な物質感と正気溢れる作品の存在感が互いにぶつかって昇華しています。


手前:「ナギ」、「ナミ」2011年 樟材の一木造りに彩色
奥:「たかおかみ」、「くらおかみ」2012年 樟材の一木造りに彩色


また最近の救済を思わせるイメージの作品とは一転、初期の言わば荒削りで時に激しく暴力的な彫刻があるのも見入るポイントです。


右手前:「Go Go」2000年 木

終始、一木造りに拘って木へ魂を吹き込み、人間と向き合ってきた棚田の表現の変遷も伺わせる展示となっていました。

なお本展にあわせて作品集も刊行されました。図版に付けられた棚田のテキストが簡潔ながらも心に響きます。こちらも是非お手にとってご覧ください。

「棚田康司作品集 たちのぼる。/青幻舎」

会期中、棚田さんのトーク他、ワークショップも開催されます。

「アーティスト・トーク」:棚田氏によるギャラリー・トーク
日時:9月22日(土)、10月27日(土) 午後3時から1時間程度。申込不要。
*10月27日はミヅマアートギャラリーのディレクター三潴末雄氏との対談。
            
「ワークショップ」:棚田氏と一緒に木彫に挑戦!
日時:10月20日(土)、10月21日(日) 午前10時30分から午後4時
料金:1500円(材料費)
対象:2日間とも参加可能な小学5年生~大人
定員:15名。
申込:往復ハガキで10月5日(金曜)必着。もしくは美術館へEメールにて。


特別内覧時に挨拶される棚田さん。右は若林館長。

11月25日までの開催です。おすすめします。

「棚田康司 たちのぼる。展」 練馬区立美術館
会期:9月16日(日)~11月25日(日)
休館:月曜日 *但し9月17日、10月8日は開館、翌日は休館。
時間:10:00~18:00
料金:大人500円、大・高校生・64~74歳300円、中学生以下・75歳以上無料。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。

注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )