「田中武 ー隠/暗ー展」 日本橋高島屋美術画廊X

日本橋高島屋美術画廊X
「田中武 ー隠/暗ー展」
9/19-10/8



日本橋高島屋美術画廊Xで開催中の田中武個展、「ー隠/暗ー」へ行ってきました。

不純であろうがなかろうが、人が必ず持っている欲望。

時に向き合うことすら避けて、あたかもないものとして隠そうとしながも、やはり心の中には終始ふつふつと沸き起こっている、そんな言い方も出来るかもしれません。

1982年生まれの画家、田中武は、そうした邪な欲望や恥を、日本画の伝統に則りながら、それでいてどこかシュールなイメージで描き起こしています。

まず目に飛び込んで来るのは、「十六恥漢図」シリーズの5点、言うまでもなく十六羅漢図になぞらえた作品ですが、そこには悟りではなく、女性の姿を借りた人間の煩悩が表されています。


「初紅 十六恥漢図シリーズ」(2012)

ともかくまず驚かされるのは、その精緻な描写による女性のリアルな表情ですが、細部に目を凝らすと、例えばスカートから茸が生えていたりするなど、奇妙な姿をとっていることが分かるのではないでしょうか。

また重要なのはモザイクのモチーフです。時に性的で、はしたないとも受け取れる行為は、まさに他者に接している時には決して見せられないようなものばかり。

その前に立つと、今度はこちら側の方がむしろ恥ずかしくなってしまう、言わば見てはならないものを見てしまったような印象すら与えられます。


「霞 十六恥漢図シリーズ」(2012)

さらにいずれの女性も手には印の結びがあり、時にはその結びのまま顔のパックを取っているという様子も。

身近な例を挙げれるとすれば、電車内で化粧をしている女性を前にすると、目のやり場に困ることがありますが、そうした感覚に近いものもあるのではないでしょうか。

恥を感じつつ、何かつい見てしまうような世界。立ち去りたいような居心地の悪さと、その一方でモザイクの向こうを想像して覗きたくなる気持ちの同居する、実に奇異な感覚を覚えました。

さて突如、会場内に現れた「煩悩襖」を開けると一転、今度は細かく白い石の敷き詰められた暗がりの空間が待ち構えています。

その向こうで聳えるのが、縦横おおそよ横2メートルにも及ぶ大作、「Return of a desire」(2012)です。


「Return of a desire」(2012年)

前景には写真のネガに写り込んだような青白い人物が大きく表され、そのたもとには葉ならぬおみくじを付けた大きな木が、さらに彼方にはゴジラによって炎上する国会議事堂が描かれています。

この国会議事堂こそ、権力という、ある意味での欲望の頂点に君臨するものに他なりませんが、それを第五福竜丸事件、つまりは放射能汚染にも由来するゴジラが破壊する様は、まさに震災後の日本の状況とも重なり合うのではないでしょうか。

またここで興味深いのは前景の人々です。

いずれも事件に関与することなく、そまた有効な手立てを打つこともなく、おみくじにすがりながら、傍観者に成り切っています。

果たして今、我々はこの傍観者であって良いのか、そうしたことも問いただしているのではないのかと思いました。

さて動物をモチーフにした何点かの迫力ある作品も忘れられません。


「何も見えていない」(2012年)

その一つが白内障の馬を描いたという「何も見えていない」(2012)ですが、白眼を剥いてこちらを見やる姿には思わず後ずさりしてしまいます。

また血管の浮き出た身体の表面の細かな描きこみも目を見張るばかり。

元々、田中は応挙に魅せられ、そこから若冲などの江戸絵画、また源流となる宋元期の中国絵画を経由して、このような表現に至ったそうですが、それを裏打ちする高い画力もまた注目すべきポイントだと言えそうです。


「香鳥図」(2011年)

先の「十六恥漢図」は狩野派の粉本から、また「Return of a desire」は釈迦をモチーフにした下村観山の「闍維」を下敷きにしています。

伝統的な日本画表現の中へ現代にも渦巻く欲望を介在させた絵画世界、非常に錯綜していますが、久しぶりにただならぬものを感じました。

途中の襖の存在など、建築家、佐野文彦に依頼したという空間自体も見るべきものがあります。

会期中にトークイベントも行われます。

「ギャラリートーク」
野地耕一郎(練馬区立美術館主任学芸員)×田中武 9/23(日)15:00~
小金沢智(世田谷美術館学芸員)×佐竹龍蔵(美術家)×田中武 9/30(日)15:00~


田中の東京初個展、お見逃しなきようおすすめします。10月8日までの開催です。

「田中武 ー隠/暗ー展」 日本橋高島屋美術画廊X(アッと@ART
会期:9月19日(水)~10月8日(月・祝)
休廊:会期中無休。
時間:10:00~20:00
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋6階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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