「トスカーナと近代絵画」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「フィレンツェ ピッティ宮近代美術館コレクション トスカーナと近代絵画 もうひとつのルネサンス」
9/7-11/10



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「トスカーナと近代絵画」展へ行ってきました。

13世紀末から15世紀にかけてイタリアを発端にヨーロッパを席巻したルネサンス。再生や復興をも意味する芸術活動、その意味で実はイタリアにはもう一つのルネサンスがあったことをご存知でしょうか。

時代は下ること数百年、国の統一を果たした19世紀の後半です。以降、20世紀前半までにおいて、イタリアでは様々な芸術の活動が沸き起こりました。

そのもう一つのルネサンスがテーマです。主にトスカーナ地方に焦点を当てながら、19世紀より20世紀に至るイタリアの近代絵画の潮流を紹介しています。

ではまず前史から。ロマン主義の影響です。19世紀になるとルネサンスに倣った理想的な美と、自然を有り体に捉えた美を合わせたロマン主義絵画が人気を集めます。


ガエターノ・サパテッリ「チマブーエとジョット」1847年頃

サバテッリの「チマブーエとジョット」は言うまでもなくルネサンス絵画の生みの親でもあるジョットをモチーフとした作品。少年時代の彼が羊の絵を描いているのを画家チマブーエが見出したというエピソードを歴史画として表しています。

お雇い外国人教師として日本人に洋画を指導したフォンタネージもこの時代の画家です。「サンタ・トリニタ橋付近のアルノ川」の豊かな叙情性と言ったら比類がありません。


アントニオ・フォンタネージ「サンタ・トリニタ橋付近のアルノ川」1867年

現在のトスカーナの州都でかのルネサンスの興ったフィレンツェの夕景を描いた一枚。朱色に染まるアルノ川。川面には小舟が浮かんでいる。広がる空と陽の光を反射する川の対比。石の実感を巧みに引き出した建物の描写も細やかでした。

2010年に東京都庭園美術館で開催されたマッキアイオーリ展を覚えておられる方も多いかもしれません。

イタリアの印象派ことマッキアイオーリ。1850年頃、イタリア統一運動のリソルジメントの動向とも重なり、いわゆる『進歩的』な画家たちが、アカデミズム絵画から脱却しようと取り組みはじめます。

自然の移ろう姿を素早く描くため、形態を大まかな色班、「マッキア」で捉えようとした画法。元々、16世紀のヴェネツィアで用いられていましたが、それをまた新たに甦らせたわけでした。


ラファエッロ・セルネージ「麦打ち場」1865年

マッキアイオーリの画家たちが描いたのは自然の理想的な姿です。小品ながらも地平線を望む広大な空間の広がるセルネージの「麦打ち場」はまさに見事の一言。白い雲の浮かぶ明るい空色と積みわら。そして作品を強く印象付ける物干し。鶏と犬の動きのある描写も目を引きます。


クリスティアーノ・バンティ「夕焼け」1870~80年頃

どこかバルビゾン派を思わせるバンティの「夕焼け」も美しいものです。素早い筆致で描かれた農村の女性。木立も草もセピア色に染まっています。手前の会話する二人の女性と右奥の少女。縦長の構図も効果的でした。

さて1871年にイタリア王国の首都がフィレンツェからローマへかわると、新たな芸術運動の中心はローマやミラノに移ります。

以降、20世紀へ至るイタリア近代絵画は実に多様。一言で表すことは出来ません。例えばギーリアの「貝殻のある静物」はどうでしょうか。


オスカル・ギーリア「貝殻のある静物」1925年頃

藍色を帯びた深いブルーとワインレッドのカーテン。前にはピンク色の貝殻と透明なガラスの器が置かれている。確かに静物画ではありますが、その佇まいは何やら神秘的です。


オットーネ・ロザイ「山と農家」1944年

ロザイの「山と農家」も不思議な印象を与えます。表題の如く水辺越しの山と家屋が描かれていますが、筆致は重く、何やら暗鬱。ちなみに彼は未来派に共感しつつ、セザンヌにも影響を受けていたそうです。

20世紀のイタリアはファシスト政権の支配下に入ります。ムッソリーニを首班とするかの政権、芸術に関しては復古的ながらも、ある程度の多様性は認めていたそうです。また展覧会や作品の販売制度を整備することにも積極的でした。その結果、例えば美術品の流通規模が10年間で10倍になります。議論はあるかもしれませんが、かの政権下の時代、一概に芸術活動が下火となったとは言えないようです。


ジョルジョ・デ・キリコ「南イタリアの歌」1930年頃

キリコの「南イタリアの歌」はルノアールに魅せられていた頃の作品です。また彼の弟にあたるシローニの絵画も展示されています。

いわゆる名画ばかりでもなく、小品も多数。決して華やかな展覧会とは言えません。しかしながらあまり着目されないイタリアの近代絵画を時に社会や歴史からも紐解く企画。興味深いものはありました。

オペラファンには嬉しい一枚、ロッシーニの肖像画に目が止まりました。画家の名はダンコーナ。クールべやコローとも親交のあったという人物です。横目でやや赤らんだ顔で笑うロッシーニ。人間味があります。作曲家として成功した彼の姿が巧みに捉えられていました。

11月10日まで開催されています。

「フィレンツェ ピッティ宮近代美術館コレクション トスカーナと近代絵画 もうひとつのルネサンス」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:9月7日(土)~11月10日(日)
休館:月曜日。但し9/16、23、10/14、11/4は開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日は20時まで。(入館は閉館30分前まで)
料金:一般1000円(800)円、大・高校生600(500)円、65歳以上800円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *10月1日(火)はお客様感謝デーで無料。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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