都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「印象派と世紀末美術」 三菱一号館美術館
三菱一号館美術館
「三菱一号館美術館 名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」
2013/10/5-2014/1/5
三菱一号館美術館で開催中の「名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」展のプレスプレビューに参加してきました。
2010年4月の開館以来、今回を含めて13本の展覧会を行ってきた三菱一号館美術館。これまでにも「もてなす悦び」やロートレック展の他、ルドン展などにおいても所蔵のコレクションを公開してきました。
しかしながら意外や意外。何らかのテーマの元、西洋美術の平面コレクションのみにスポットを当てた展覧会はありませんでした。
というわけで今回が初企画です。出品は同館所蔵の西洋美術コレクションから149点。1点を除き全て平面作品です。また40点は過去の展覧会に出品済ですが、残りの109点はほぼ初公開。表題の如く印象派をはじめ、象徴主義やナビ派ら画家の作品などが展示されていました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「長い髪をした若い娘」1884年 油彩 三菱一号館美術館寄託
さてまずはチラシ表紙、大きく掲げられたのはルノワールの「長い髪をした若い娘」。画家の印象派時代の最後を飾る一点とも呼べる名作ですが、ともかくこのチラシのビジュアルを見ると、さも会場には印象派の油彩画ばかりがあるように思ってしまうかもしれません。
「三菱一号館美術館 名品選2013」展示室風景
あえて申し上げます。本展、主役は油彩画ではなく版画です。それもロートレックやドニ、ルドン、そしてヴァロットンらといった世紀末の画家によるものです。
そしてこれらの版画が大変に見応えがある。ロートレックこそ見知ってはいましたが、まさか一号館にこれほど充実した版画コレクションがあるとは思いませんでした。
前置きが長くなりました。それではいくつか興味深い版画をご紹介しましょう。
右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「メイ・ミルトン」1895年 リトグラフ 三菱一号館美術館
左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「メイ・ベルフォール」1895年 リトグラフ 三菱一号館美術館
このロートレックの2枚、「メイ・ベルフォール」と「メイ・ミルトン」。ともに1895年制作のリトグラフ、アイルランドの歌手ベルフォールと、イギリスの踊り子ミルトンをモチーフにした作品ですが、色彩なり構図なりが対照的に表されていることがお分かりいただけるでしょうか。
背景の白と黒、題字の上と下、そして衣装の赤と白、またそもそも歌と踊りという静と動。何でもこの二人、恋人同士だったそうです。それを知っていたロートレックがあえて対になるように描きました。心憎い演出です。
アンドレ・マルティという人物もポイントです。彼は19世紀末の出版人。芸術雑誌や創作版画集などの刊行を手がけました。
うち極めて独創的だとされる「レスタンプ・オリジナル」は重要です。当時、最新の技法でもあったカラー・リトグラフを用いたシリーズ。ピサロ、ルドン、シャヴァンヌらを起用して版画集を取りまとめます。
アレクサンドル・シャンパンティエ「レスタンプ・オリジナル ヴァイオリンを弾く少女」1894年 リトグラフ 三菱一号館美術館
シャンパンティエの「ヴァイオリンを弾く少女」、ともかくよく近づいてご覧になって下さい。浮世絵の空刷りと言われる技術を多色リトグラフとあわせた作品。確かに浮き上がっていることがわかります。
右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「レスタンプ・オリジナル アンバサドゥールにて」1893年 リトグラフ 三菱一号館美術館
左:ジュール・シェレ「レスタンプ・オリジナル ダンス」1893年 リトグラフ 三菱一号館美術館
また幻想的な作風のシェレの「ダンス」にも心惹かれました。ちなみに写真画像上の右の作はロートレックによるもの。マルティはロートレックを重用しながら、ナビ派の画家を見出した目利きでもあります。
さて本展で最も印象的な作家とは誰か。フェリックス・ヴァロットンではないでしょうか。
フェリックス・ヴァロットン「息づく街パリ 事故」1893年 ジンコグラフィ 他 三菱一号館美術館
ヴァロットンといえば来年、同館で注目の回顧展が開催されるスイス生まれの画家。「外国人のナビ」とも称され、独特な構図感や時に神秘的な印象を与える油画を残しましたが、そのエッセンスは版画でもよく見て取ることが出来ます。
フェリックス・ヴァロットン「可愛い天使たち」1894年 木版 三菱一号館美術館
例えば「可愛い天使たち」、警官が男性を連行する姿を描いていますが、それを子どもたちがはやし立てている。また「動揺」では男女における緊張感を、さらに「難局」では人の死に対する何とも言い難い恐怖感などを表している。風刺的でもあり、それでいて社会の人たちの生き様を冷静に見つめたヴァロットン。平面的な構成からは浮世絵を巧みに消化したことも分かります。
フェリックス・ヴァロットン「女の子たち」1893年 木版 三菱一号館美術館
本展ではヴァロットンの木版画を「アカデミー・フランセーズ会員」や「息づく街」シリーズなど25点を出品。まさに来るべきヴァロットン展の先取りとも言うべき展示となっていました。
モーリス・ドニ「アムール 青白い銀の長椅子の上で」1899年 リトグラフ 三菱一号館美術館
版画といえばルドンにボナールの作品も数多く登場。またセザンヌなどの有力な画商として知られるヴォラールについての紹介もあります。ヴェルレーヌの「平行して」は彼の刊行した詩集。挿絵はボナールです。それに同じくヴォラールの刊行したドニの「アムール」の淡い色彩と幻想的な雰囲気も魅力的でした。
オディロン・ルドン「グラン・ブーケ(大きな花束)」1901年 パステル 三菱一号館美術館
版画を離れてのハイライトはやはりルドンの「グラン・ブーケ」です。まさにこの作品のために作られた空間での展示。引き立つ花の色の乱舞。その渦にのみ込まれます。
「三菱一号館美術館 名品選2013」展示室風景
19世紀末から20世紀初頭の西洋美術の潮流を平面作品から辿る。ともかく出品の大多数を占める新出の版画が魅せてくれます。
三菱一号館美術館2014~2015展覧会スケジュール
上記リンク先での記事でもご紹介しましたが、本展にも準拠する「まるごと三菱一号館美術館」が実に良く出来ています。おすすめです。
「まるごと三菱一号館美術館/東京美術」
ロングランの展覧会です。2014年1月5日まで開催されています。
「三菱一号館美術館 名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」 三菱一号館美術館
会期:2013年10月5日(土)~2014年1月5日(日)
休館:毎週月曜。但し祝日の場合は翌火曜休館。12月24日は18時まで開館。年末年始(12/28~1/1)。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日(祝日除く)は20時まで。
料金:大人1200円、高校・大学生800円、小・中学生400円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「三菱一号館美術館 名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」
2013/10/5-2014/1/5
三菱一号館美術館で開催中の「名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」展のプレスプレビューに参加してきました。
2010年4月の開館以来、今回を含めて13本の展覧会を行ってきた三菱一号館美術館。これまでにも「もてなす悦び」やロートレック展の他、ルドン展などにおいても所蔵のコレクションを公開してきました。
しかしながら意外や意外。何らかのテーマの元、西洋美術の平面コレクションのみにスポットを当てた展覧会はありませんでした。
というわけで今回が初企画です。出品は同館所蔵の西洋美術コレクションから149点。1点を除き全て平面作品です。また40点は過去の展覧会に出品済ですが、残りの109点はほぼ初公開。表題の如く印象派をはじめ、象徴主義やナビ派ら画家の作品などが展示されていました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「長い髪をした若い娘」1884年 油彩 三菱一号館美術館寄託
さてまずはチラシ表紙、大きく掲げられたのはルノワールの「長い髪をした若い娘」。画家の印象派時代の最後を飾る一点とも呼べる名作ですが、ともかくこのチラシのビジュアルを見ると、さも会場には印象派の油彩画ばかりがあるように思ってしまうかもしれません。
「三菱一号館美術館 名品選2013」展示室風景
あえて申し上げます。本展、主役は油彩画ではなく版画です。それもロートレックやドニ、ルドン、そしてヴァロットンらといった世紀末の画家によるものです。
そしてこれらの版画が大変に見応えがある。ロートレックこそ見知ってはいましたが、まさか一号館にこれほど充実した版画コレクションがあるとは思いませんでした。
前置きが長くなりました。それではいくつか興味深い版画をご紹介しましょう。
右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「メイ・ミルトン」1895年 リトグラフ 三菱一号館美術館
左:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「メイ・ベルフォール」1895年 リトグラフ 三菱一号館美術館
このロートレックの2枚、「メイ・ベルフォール」と「メイ・ミルトン」。ともに1895年制作のリトグラフ、アイルランドの歌手ベルフォールと、イギリスの踊り子ミルトンをモチーフにした作品ですが、色彩なり構図なりが対照的に表されていることがお分かりいただけるでしょうか。
背景の白と黒、題字の上と下、そして衣装の赤と白、またそもそも歌と踊りという静と動。何でもこの二人、恋人同士だったそうです。それを知っていたロートレックがあえて対になるように描きました。心憎い演出です。
アンドレ・マルティという人物もポイントです。彼は19世紀末の出版人。芸術雑誌や創作版画集などの刊行を手がけました。
うち極めて独創的だとされる「レスタンプ・オリジナル」は重要です。当時、最新の技法でもあったカラー・リトグラフを用いたシリーズ。ピサロ、ルドン、シャヴァンヌらを起用して版画集を取りまとめます。
アレクサンドル・シャンパンティエ「レスタンプ・オリジナル ヴァイオリンを弾く少女」1894年 リトグラフ 三菱一号館美術館
シャンパンティエの「ヴァイオリンを弾く少女」、ともかくよく近づいてご覧になって下さい。浮世絵の空刷りと言われる技術を多色リトグラフとあわせた作品。確かに浮き上がっていることがわかります。
右:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「レスタンプ・オリジナル アンバサドゥールにて」1893年 リトグラフ 三菱一号館美術館
左:ジュール・シェレ「レスタンプ・オリジナル ダンス」1893年 リトグラフ 三菱一号館美術館
また幻想的な作風のシェレの「ダンス」にも心惹かれました。ちなみに写真画像上の右の作はロートレックによるもの。マルティはロートレックを重用しながら、ナビ派の画家を見出した目利きでもあります。
さて本展で最も印象的な作家とは誰か。フェリックス・ヴァロットンではないでしょうか。
フェリックス・ヴァロットン「息づく街パリ 事故」1893年 ジンコグラフィ 他 三菱一号館美術館
ヴァロットンといえば来年、同館で注目の回顧展が開催されるスイス生まれの画家。「外国人のナビ」とも称され、独特な構図感や時に神秘的な印象を与える油画を残しましたが、そのエッセンスは版画でもよく見て取ることが出来ます。
フェリックス・ヴァロットン「可愛い天使たち」1894年 木版 三菱一号館美術館
例えば「可愛い天使たち」、警官が男性を連行する姿を描いていますが、それを子どもたちがはやし立てている。また「動揺」では男女における緊張感を、さらに「難局」では人の死に対する何とも言い難い恐怖感などを表している。風刺的でもあり、それでいて社会の人たちの生き様を冷静に見つめたヴァロットン。平面的な構成からは浮世絵を巧みに消化したことも分かります。
フェリックス・ヴァロットン「女の子たち」1893年 木版 三菱一号館美術館
本展ではヴァロットンの木版画を「アカデミー・フランセーズ会員」や「息づく街」シリーズなど25点を出品。まさに来るべきヴァロットン展の先取りとも言うべき展示となっていました。
モーリス・ドニ「アムール 青白い銀の長椅子の上で」1899年 リトグラフ 三菱一号館美術館
版画といえばルドンにボナールの作品も数多く登場。またセザンヌなどの有力な画商として知られるヴォラールについての紹介もあります。ヴェルレーヌの「平行して」は彼の刊行した詩集。挿絵はボナールです。それに同じくヴォラールの刊行したドニの「アムール」の淡い色彩と幻想的な雰囲気も魅力的でした。
オディロン・ルドン「グラン・ブーケ(大きな花束)」1901年 パステル 三菱一号館美術館
版画を離れてのハイライトはやはりルドンの「グラン・ブーケ」です。まさにこの作品のために作られた空間での展示。引き立つ花の色の乱舞。その渦にのみ込まれます。
「三菱一号館美術館 名品選2013」展示室風景
19世紀末から20世紀初頭の西洋美術の潮流を平面作品から辿る。ともかく出品の大多数を占める新出の版画が魅せてくれます。
三菱一号館美術館2014~2015展覧会スケジュール
上記リンク先での記事でもご紹介しましたが、本展にも準拠する「まるごと三菱一号館美術館」が実に良く出来ています。おすすめです。
「まるごと三菱一号館美術館/東京美術」
ロングランの展覧会です。2014年1月5日まで開催されています。
「三菱一号館美術館 名品選2013ー近代への眼差し 印象派と世紀末美術」 三菱一号館美術館
会期:2013年10月5日(土)~2014年1月5日(日)
休館:毎週月曜。但し祝日の場合は翌火曜休館。12月24日は18時まで開館。年末年始(12/28~1/1)。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日(祝日除く)は20時まで。
料金:大人1200円、高校・大学生800円、小・中学生400円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )