「ジョルジュ・ルオー展/現代美術と祈り」 千葉市美術館

千葉市美術館
「ジョルジュ・ルオー展/現代美術と祈り」 
10/1-11/17



千葉市美術館で開催中の「ジョルジュ・ルオー展」(同時開催:現代美術と祈り)へ行ってきました。

「本国フランスを除けば、(略)最も多くのルオー展が開かれているのが日本である。」(リーフレットより引用)確かにルオーの展示を目にする機会が少なくないのも事実。あながち誇張だとは言えないかもしれません。

そもそもルオーは日本人の画家やコレクターと交流した人物でもあります。最初にルオーの作品を購入したのは画家の梅原龍三郎だと言われていますが、ともかく白樺派しかり、他の文人や画家たちにも影響を与えました。日本は比較的早い段階でルオーを受容してきたわけです。

日本のルオーで良く知られるのは出光美術館のコレクションです。かの出光佐三が連作版画集「受難」を購入したことが切っ掛けに始められた収集活動。結果的に現在では400点ものルオー作品を収蔵するに至りました。

またルオーと言えばもう一つ忘れてはならないのがパナソニック汐留ミュージアム。まさに現在、ルオーの名を冠した「モローとルオー」展を開催中ですが、ここでも出光と並んで充実したルオー作品を所蔵しています。

前置きが長くなりました。本展はそうした日本国内にあるルオー作品を展観。とりわけルオーの人物表現に注目し、どのようにして「人間洞察」(チラシより引用)を行っていたのかに迫っていきます。


ジョルジュ・ルオー「曲馬団の娘」1905年頃 出光美術館

出品元は出光美術館にパナソニック汐留ミュージアムの他、清春白樺美術館や群馬県立美術館、そして富山県立美術館など。全84点です。またいわゆる回顧展形式ではなく、例えば道化師やピエロにキリストといったモチーフ毎に作品が並んでいるのも特徴。ルオーを言わば横軸で読み解いています。

さて冒頭はサーカス。ルオーが少年時代から没頭し、終生描き続けたモチーフです。


ジョルジュ・ルオー「小さな家族」1932年 出光美術館

登場するのは曲馬師や道化師たち。一見、華やかなサーカスという舞台ながらも、ルオーの描くそれはどこか孤独でもある。「正面を向いた道化師」(1939年)はどうでしょう。正面とありながらも、視線はうつむき加減で、疲れた様子を見せている。またサーカス団の一家を描いたであろう「小さな家族」(1932年)はまるで聖家族です。画家の独特の眼差しが伺えます。

ルオーはサーカスに出演する人々、そして何よりも彼ら生き様なり境遇に関心がありました。またそれは貧しい労働者や避難民といった人々を積極的に取り上げたことにも繋がります。


「ミセレーレより『自分の顔をつくらぬ者があろうか?」1923年 富山県立近代美術館

版画集「ミセレーレ」もハイライトの一つです。熱心なカトリック教徒であったルオーは、受難や戦争をテーマにして、この連作に取り組みました。

ここでは版画と並びヴァリアント作がいくつか展示されているのもポイントです。例えばミセレーレの10巻、「悩みの果てぬ古き場末で」(1923年)では、同じモチーフによる油彩画をあわせて紹介。昼と夜か。油画では太陽も輝き、色彩にも満ちた光景が示される一方、版画では陽も沈み、モノクロームの闇に包まれた景色が描かれている。印象は大きく変わります。


ジョルジュ・ルオー「聖顔」1939年 パナソニック汐留ミュージアム

キリストもルオーが描き続けた重要なモチーフの一つです。イコン、ヴェロニカの布などを彷彿させる「聖顔」(1939年)などが目を引きます。

またユビュおじさんのシリーズなど、風刺的、戯画的な作品があるのもルオーの興味深いところ。人の内面をどう捉えるのか。それにルオーは裁判にも関心を抱き、法廷に立つ人の姿も描きました。


ジョルジュ・ルオー「優しい女」1939年 出光美術館

展示は千葉市美術館の二つのフロアのうちの8階部分のみ。出品数も80点余。ともすると量でも攻める同館にしてはやや少なめですが、ルオー好きにはたまらない展示だと言えそうです。

さてもう一つのフロア、7階部分では何か行われているのか。それが所蔵作品展の「現代美術の祈り」です。ここでは村上友晴、宮島達男、松尾藤代の三名の現代作家を紹介。大作のペイントに大掛かりなインスタレーションが中心のため、点数こそ多くありませんが、「祈り」をキーワードにしての三者の邂逅。実に個性的な展覧会となっています。


宮島達男「地の天」1996 年 千葉市美術館

宮島達男の「地の天」(1996年)は久々のお目見えではないでしょうか。暗室に沈むプールの中の星空。直径は同館所蔵の作品でも最大級の10mです。デジタルカウンターこと青色LEDダイオードで変わりゆく1~9の数字。その瞬きはまさに星の煌めきを連想させます。星へ祈る人々の願い。そうしたイメージも浮かび上がるかもしれません。

一方で村上友晴では「無題」と題した4点の絵画の存在感が圧倒的です。展示室の奥に3点、手前に1点、向かい合うようにして並んでいる。色は黒一色。いわゆる抽象です。また油彩とありますが、その画肌は極めて独特。まるでタオル地を固まらせたかのような質感。何でも絵具をナイフで少量ずつ塗り重ねて出来たものとか。ちなみに村上自身、カトリック教徒だそうです。ドローイングの「ピエタ」しかり、どこか瞑想を誘うような世界が広がっていました。


松尾藤代「TOTAL LOSS ROOM」1997年 千葉市美術館

またラストの松尾は絵画上に十字架を現出。光眩しき空間を平面へ落とし込む。神々しい雰囲気も漂っていました。

ルオーに続き、「祈り」から現代美術へと至る企画。最近、やや控えめな感もありますが、実はコンテンポラリーでも定評のある千葉市美ならでは試みだと言えそうです。

11月17日まで開催されています。

「ジョルジュ・ルオー展/現代美術と祈り」 千葉市美術館
会期:10月1日(火) ~11月17日(日)
休館:第1月曜日。(10月7日、11月5日)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *パナソニック汐留ミュージアムの「モローとルオー」展との提携割引あり。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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