「横山大観展ー良き師、良き友」 横浜美術館

横浜美術館
「横山大観展ー良き師、良き友」 
10/5-11/24 *前期:10/5~10/30、後期:11/1~11/24



横浜美術館で開催中の「横山大観展ー良き師、良き友」の夜間特別内覧会に参加してきました。

「近代日本画壇を代表する巨匠」(展覧会WEBサイトより引用)、横山大観。日本美術院の創立にも参画、第1回の文化勲章を受賞。画壇の重鎮。そしてよく知られた作品は眩しいくらいに立派な富士山。その温和な作風の反面、お硬いイメージも先行。親しみの持てる画家とはなかなか言い難いかもしれません。

そこを切り開くのも本展の狙いどころ。既存の大観のイメージを取っ払います。作品を前にして「これは大観なのか?」と思うこともしばしば。時に驚きと発見のある展覧会です。


右:横山大観「村童観猿翁」明治26年 東京藝術大学 *前期展示

ではどのようにして新たな大観展を構築しているのか。答えは壮年期。つまり大正から昭和初期までの画業のみに注目していることです。

さらに副題にもあるように大正時代、大観と交流のあった画家、今村紫紅、小杉未醒、小川芋銭、冨田溪仙の作品もあわせて展観。例の富士山ばかりでも、また単に大観の画業を晩年まで追いかける回顧展でもありません。言わば若かりし大観が友人たちと何を描いたのか。それを師、天心との関わりにも着目しながら見ていくというわけでした。


左:横山大観「写生 風呂敷包み」明治22~26年 茨城県天心記念五浦美術館 *前期展示

前置きはこの辺で。それでは新たな大観、「これが大観?」な一枚を挙げてみましょう。写生画から「風呂敷包み」(明治22~26年)。写真では分かりにくいかもしれませんが、この滑らかな線描表現。そして巧みな陰影。風呂敷の柔らかな質感まで伝わってくる。ちなみに鉛筆ではなく筆です。見事なデッサンではないでしょうか。

そして圧巻なのは「屈原」(明治31年)。中国・楚の時代に失脚した政治家を、同じく東京美術学校を追われた天心に例えて描いた一枚。ご覧の通りの大作です。


横山大観「屈原」展示風景

それにしてもここにおける硬軟を使い分けた筆遣い。すくっと立って前を見やる屈原の姿。鬼気迫る顔面の表現。凄まじいリアリズムです。そして背景の何とも言い難い不穏なまでの大気。吹き荒れる風。草木は強く揺れ、鳥たちは屈原と同じように上目遣いで睨んでいる。妖気すら漂っています。


横山大観「屈原」明治31年 厳島神社 *展示期間:10/5~16

東京美術学校の一期生として入学し、深く天心を尊敬していたという大観。天心が東京美術学校を追われるのに従って大観も下野。日本美術院の創設へと邁進します。大観にとって天心はどれほどに重要な存在なのか。畏怖の念を感じる作品でした。

ちなみに厳島神社に奉納された本作、展示機会が極めて少ないそうです。今回も10月16日までしか公開されません。まずはお急ぎ下さい。

「屈原」で興奮して長くなってしまいました。他の作品も少しご紹介しましょう。


横山大観「瀟湘八景より瀟湘夜雨」大正元年 東京国立博物館 *前期展示

まずは古来から山水画の画題として「瀟湘八景」(大正元年)。重文指定の名品ですが、大観はここで四季の光景を風俗画的にも展開。人々の長閑な生活の様子が朧げな光や空気の向うに描かれています。

朧げといえば朦朧体です。大観は早い段階で朦朧体を獲得。揶揄されつつも、様々な作品を描きましたが、むしろその淡い筆致に色遣いは印象派風。淡い黄色や青みが光も表す。今から振り返れば進取的でもあります。


第1章「良き師との出会い:大観と天心」展示室風景

私としては初期作の多い初めの方の展示室がオススメです。昭和に入っての『円熟期』に達すると、どこか様式美というのか、見慣れた大観も現れますが、変化に変化を重ねた明治から大正の画業。思いの外に惹かれました。

さて大観以外の画家の作品をいくつかピックアップします。やはり一番面白いのは小川芋銭。大観とは同い年。河童の芋銭とも呼ばれ、生涯の殆どを茨城は牛久沼周辺で暮らした画家です。


右:小川芋銭「肉案」大正6年 茨城県近代美術館 *通期展示

この「肉案」(大正6年)はどうでしょうか。禅の主題、肉屋が猪の頭を大きく掲げた一枚。まさに万歳のポーズ、何とも開放感に溢れていますが、驚くことに大観は本作を見て芋銭を日本美術院に勧誘したとか。快活自在な姿にでも惹かれたのかもしれません。


左:小川芋銭「夕風」大正13年 五島美術館 *前期展示

また芋銭では「夕風」(大正13年)も興味深い一枚です。モノクロームの作品が多い中での珍しい彩色の作品。神事をモチーフとしているそうですが、前景のうねりを帯びたトウモロコシの描写は独特。また奥に見え隠れする人や馬もまるでアニメーションのようです。素朴派の絵画を連想しました。


右:横山大観「汐見坂」大正5年 足立美術館 *通期展示
左:今村紫紅「潮見坂」大正4年 横浜美術館 *通期展示


その他、大観が紫紅、放庵らとともに東海道を旅行して描いた合作、「東海道五十三次絵巻」(大正4年)、また溪仙作に触発されて同じ場所を改めて描いた「汐見坂」なども、画家らの交流を伺わせる作品と言えそうです。

展示替えの情報です。出品作の多くが途中で入れ替わります。ちらし表紙を飾り、言わば大正期の大観の集大成でもある「夜桜」は後期の出品。但し「夜桜」の見慣れない小下絵が出ていました。(10/16まで。)ともかく前後期あわせて一つの展覧会として差し支えありません。

「横山大観展ー良き師、良き友」出品リスト(PDF)
前期:10月5日~10月30日
後期:11月1日~11月24日


さて本編とは別に嬉しい企画も。山口晃さんが本展のために6名の画家の肖像画を作成。その原画も展示されています。


「山口晃 大観と良き師、良き友を描く」コーナー

また山口さんのインタビュー他、制作動画が公式サイトにアップされています。図録にもエッセイを寄せておられました。こちらも注目です。

「山口晃さんが描く 大観と良き師、良き友」

かつて新美で行われた回顧展など、近代日本画展では目にする機会も多い大観。少し食傷気味などと思われる方もおられるやもしれません。しかし大半を占めるのは繊細でかつ多彩な作風を見せる若き大観。友人の画家との関係を追った構成も意外と新鮮味があります。楽しめました。


横山大観展会場風景

11月24日まで開催されています。

「横山大観展ー良き師、良き友」 横浜美術館
会期:10月5日(土)~ 11月24日(日)
休館:木曜日。
時間:10:00~18:00(入館は17時半まで)
料金:一般1400(1300)円、大学・高校生1100(1000)円、中学生500(400)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。

注)写真は夜間特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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