「スペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外ースペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」
2013/10/3~2014/1/5



国立西洋美術館で開催中の「ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外ースペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」を見てきました。

20世紀美術の一潮流として知られるアンフォンメル。そのスペインにおける展開とは如何なるものなのか。

そもそもアンフォンメルは二次大戦後のパリで勃興、50年代にはスペインへと渡り、60年代に最も盛んとなった。

本展ではそうしたスペインのアンフォルメル絵画を紹介。画家は4名、出品は14点です。会場は新館展示室の一部。つまり常設展のスペースです。点数は多くありませんが、大作揃いでかなり見応えがありました。

さてアンフォンメルの二つの顔。内と外とは一体何を意味するのでしょうか。

それはスペインの内か外。つまりスペイン国内で活動した画家と、海外、アメリカで活動した画家のことです。それぞれ2名ずつ。展示ではそれらが対照的に見られるよう工夫されています。

まず国内の画家。アントニ・タピエス(1923~2012)とアントニオ・サウラ(1930~98)です。

フランコの独裁体制下にあった二次大戦後のスペイン。彼らはその中にあっても国内に留まり、時に批判精神を持ちながら作品を制作。激しい物質感を伴いながら、具象と抽象の狭間とも言えるような画風を展開していきます。

チラシ表紙を飾るサウラの「大群衆」(1963年)の迫力といったら比類がありません。荒々しい描線が全体を覆い尽くす。まるで身震いするポロックばりの筆致ですが、そのモノクロームの画面には無数の顔がひしめき合っている。そして彼ら彼女らの瞳からはグレーの涙が滴り落ちる。痛々しい。心の奥底の叫びが聞こえてくるような作品です。

サウラは身体の造形を取り込み、内的な衝動ともいうべき何かを絵画に表現しました。

では同じくスペインに留まった巨匠タピエスはどうでしょうか。目立つのは「木の上の大きなニス」(1982年)、2枚の木のパネルを連ねた、横3mにも及ぶ大作です。


「木の上の大きなニス」1982年 ミクスト・メディア/カンヴァス ソフィア王妃芸術センター

黒に広がる朱色、そして傷跡のように書き込まれた白い線。絵具が画面でせめぎあう様はどこか水墨を連想させる面も。ちなみにこの朱色は木の地の色。タイトルにもあるようにニスを塗り込むことで生まれている色なのです。そう捉えてみると実に繊細な画肌であることも分かります。

一方でスペインを離れたのはエステバン・ビセンテ(1903~2001)とホセ・ゲレーロ(1914~91年)。ともにニューヨークへ渡り、アメリカの抽象絵画を引き受けながら、独自の活動をした画家たちです。


エステバン・ビセンテ「ミッドウェスト」1953年 油彩/カンヴァス ソフィア王妃芸術センター

ビセンテの「ミッドウェスト」(1953年)は様々な色面が緩やかに連環。そこへ黒い線やなぞるように広がる白が入り込む。グレーのトーンなど、様々な色が錯綜していますが、どこか軽快で心地良い印象を与えられます。


ホセ・ゲレーロ「赤い土地」1955年 油彩/カンヴァス ソフィア王妃芸術センター

ゲレーロの作品から連想したのはミロでした。ところでこのゲレーロしかり、アメリカの抽象美術に影響されている面はあるかもしれませんが、いずれもプリミティブでかつ神秘的な気配を感じさせているのも興味深いポイントです。タピエスの内面へ沈み込むような重みにサウラの激しい叫び。そしてビセンテとゲレーロの遊び心も感じさせる色や形の展開。スペイン・アンフォルメルは一言で語れません。

今からもう7~8年前、原美術館でタピエスの個展に圧倒されて以来、心の中にあったスペイン・アンフォルメルへの想い。確かに点数は足りません。それでも久々に絵画から発せられる熱気のようなものに打ちのめされました。

それにしても現在、本館部分で行われているル・コルビュジエ展しかり、西美の常設は極めて充実した展示となっています。

「ル・コルビュジエと20世紀美術」@国立西洋美術館(拙ブログ)

もちろんその分、松方コレクションの作品は少なくなっていますが、コルビュジエ+スペイン・アンフォルメルを常設観覧料金のみで楽しめるとは大変にお得。(もちろんミケランジェロ展のチケットでも観覧出来ます。)見応え満点です。

ちなみにコルビュジエ展は11月4日まで。以降は通常の常設に戻ります。いつもとは趣きを一変させた西洋美術館の常設展示。期間限定です。お見逃しなきようご注意下さい。

2014年1月5日までの開催です。これはおすすめします。

「ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外ースペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」 国立西洋美術館
会期:2013年10月3日(木)~2014年1月5日(日)
休館:月曜日。但し10/14、11/4、12/23は開館、翌火曜日休館。年末年始(12/28~1/1)。
時間:9:30~17:3
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *上野公園の「創エネ・あかりパーク2013」開催にあわせ、11/2(土)、11/3(日)は20時まで開館。
料金:一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *毎月第2・第4土曜日、文化の日(11/3)は観覧無料。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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