都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「Drinking Glassー酒器のある情景」 サントリー美術館
サントリー美術館
「Drinking Glassー酒器のある情景」
9/11-11/10

サントリー美術館で開催中の「Drinking Glassー酒器のある情景」へ行ってきました。
古くから人間が嗜んできたお酒という飲み物。お酒には人々の出会いや語らいがあり、また時に人生に大きな喜びをもたらしてくれる。
と、まるで居酒屋番組のコピーのような書き出しになってしまいましたが、ともかくお酒の育んできた文化や習慣は実に多種多様。到底一言で語り尽くせるものではありません。
本展ではそうしたお酒に因むものから器、つまり酒器、中でもとりわけガラスに注目。古今東西のガラスの酒器を紹介する内容となっています。

「コアガラス脚付杯」エジプト 紀元前14世紀 MIHO MUSEUM
ではまず人とガラス酒器との出会いはいつなのか。紀元前16世紀頃のメソポタミアです。冒頭を飾るのはエジプトから出土した「コアガラス脚付杯」。粘土質の芯へガラスを吹き付ける技法。緩やかな曲線のマーブル模様が目を引きます。

「カットガラス碗」ササン朝ペルシャ 3-7世紀 サントリー美術館
「カットガラス碗」の形状があたかも楽焼の茶碗のように見えたのは私だけでしょうか。手の指先くらいの丸い窪みが碗の全面を覆っています。高級な答礼品として珍重されていたそうです。
また時代は前後しますが、紀元前1世紀になるとギリシャでワイン文化が伸張。さらに紀元前50年頃に吹きガラスがローマ帝国で開発されると、様々なガラス酒器が生み出されるようになります。
肋骨の形をしたリブと呼ばれる器、その名も「リブ装飾碗」の他、ワインを水と混ぜる(古代ギリシャでは一般的な飲み方だったそうです。)ために用いられた使われただろう大振りの杯などが印象に残りました。
さて本展、一つ構成上において重要なテーマがあります。それがタイトルにもある情景、つまりどのようなシーンで酒を飲み、酒器が使われたのかということです。

「フリーメーソン文ゴブレット」イギリス 1868年 高畑美術工芸館
そのシーンとは「捧ぐ」、「語らう」、「誓う」、「促す」、「祝い、集い、もてなし、愉しむ」の5つ。例えば「誓う」ではキリスト教の聖餐のための杯が登場。また面白いのは同じく「誓う」から「天使文ゴブレット」です。何と上下対照の器、一人が先に一方のカップを飲み、次いでもう一人が反対のカップを飲む。それで友愛を誓い合っていたとか。色々な習慣があるものです。

「神聖ローマ帝国選帝侯文フンペン」ドイツ 1606年 石川県立美術館
時代が進み、ガラス制作の技術が進展すると、より精巧で意匠を凝らした酒器が生み出されるようになります。中には政治的な思想や国への忠誠などを示す器も登場。酒器が一つのステイタスシンボルと化しました。

「ゴールドサンドイッチ聖人文ゴブレット」ボヘミア 1730年頃 サントリー美術館
美しいのはゴールドサンドイッチと呼ばれるゴブレットです。文字通り金箔の模様をガラスの中に挟んだもので、例えばキリスト教の聖人たちを象った器も作られます。
「ロンドン風景文ゴブレット」は見事の一言です。ガラスの表面をぐるりと覆う文様はずばりロンドン。ロンドン塔にテムズ川などが実に精緻に刻まれている。まさか18世紀のロンドンの光景をガラス器で見るとは思いませんでした。
「もてなし」の項ではバッカスをモチーフとした器もお目見え。また面白いのは鹿の頭が上部にのった「鹿形パズルゴブレット」です。ゴブレットにパズル?何のことやらと思ってしまいますが、普通に口を付けても、鹿の頭が邪魔をしてうまく飲めないとか。答えは台座の付け根の穴です。それを塞ぐことによって、別の口から飲み物を吸い出すことが出来るという仕掛け。まさにトリッキー。こんな器でお酒が出てくるだけでも楽しくなってしまいます。

「切子三ツ組盃・盃台」日本 19世紀 サントリー美術館
もちろん日本の酒器も数多く出品。ガラスの徳利に切子の盃なども。把っ手のひねりが独特な「藍色ちろり」は何度見てもその美しさに惚れてしまいます。

高橋禎彦「酒器等一式」2013年 個人蔵
また「酒器のいま」と題し、現在活躍中のガラス作家による酒器も展示されているのもポイントです。中野幹子さんに松島巌さんに由良園さんなど。大きさも形も色も様々。どのようなシーンやお酒が似合うのか。妄想ならぬ想像も膨らみます。
かつての切子展ならぬガラス器を展示すれば天下一品のこの美術館。さらには付け加えればサントリーは酒造メーカーでもある。まさにこの場所だからこその企画。思わず息ならぬ、お酒を飲みたくなるような景色が広がっています。感服致しました。
11月10日までの開催です。
「Drinking Glassー酒器のある情景」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:9月11日(水)~11月10日(日)
休館:火曜日。但し8月13日(火)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *9/15(日)、22(日)、10/13(日)、11/3(日)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*ホームページ限定割引券、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
「Drinking Glassー酒器のある情景」
9/11-11/10

サントリー美術館で開催中の「Drinking Glassー酒器のある情景」へ行ってきました。
古くから人間が嗜んできたお酒という飲み物。お酒には人々の出会いや語らいがあり、また時に人生に大きな喜びをもたらしてくれる。
と、まるで居酒屋番組のコピーのような書き出しになってしまいましたが、ともかくお酒の育んできた文化や習慣は実に多種多様。到底一言で語り尽くせるものではありません。
本展ではそうしたお酒に因むものから器、つまり酒器、中でもとりわけガラスに注目。古今東西のガラスの酒器を紹介する内容となっています。

「コアガラス脚付杯」エジプト 紀元前14世紀 MIHO MUSEUM
ではまず人とガラス酒器との出会いはいつなのか。紀元前16世紀頃のメソポタミアです。冒頭を飾るのはエジプトから出土した「コアガラス脚付杯」。粘土質の芯へガラスを吹き付ける技法。緩やかな曲線のマーブル模様が目を引きます。

「カットガラス碗」ササン朝ペルシャ 3-7世紀 サントリー美術館
「カットガラス碗」の形状があたかも楽焼の茶碗のように見えたのは私だけでしょうか。手の指先くらいの丸い窪みが碗の全面を覆っています。高級な答礼品として珍重されていたそうです。
また時代は前後しますが、紀元前1世紀になるとギリシャでワイン文化が伸張。さらに紀元前50年頃に吹きガラスがローマ帝国で開発されると、様々なガラス酒器が生み出されるようになります。
肋骨の形をしたリブと呼ばれる器、その名も「リブ装飾碗」の他、ワインを水と混ぜる(古代ギリシャでは一般的な飲み方だったそうです。)ために用いられた使われただろう大振りの杯などが印象に残りました。
さて本展、一つ構成上において重要なテーマがあります。それがタイトルにもある情景、つまりどのようなシーンで酒を飲み、酒器が使われたのかということです。

「フリーメーソン文ゴブレット」イギリス 1868年 高畑美術工芸館
そのシーンとは「捧ぐ」、「語らう」、「誓う」、「促す」、「祝い、集い、もてなし、愉しむ」の5つ。例えば「誓う」ではキリスト教の聖餐のための杯が登場。また面白いのは同じく「誓う」から「天使文ゴブレット」です。何と上下対照の器、一人が先に一方のカップを飲み、次いでもう一人が反対のカップを飲む。それで友愛を誓い合っていたとか。色々な習慣があるものです。

「神聖ローマ帝国選帝侯文フンペン」ドイツ 1606年 石川県立美術館
時代が進み、ガラス制作の技術が進展すると、より精巧で意匠を凝らした酒器が生み出されるようになります。中には政治的な思想や国への忠誠などを示す器も登場。酒器が一つのステイタスシンボルと化しました。

「ゴールドサンドイッチ聖人文ゴブレット」ボヘミア 1730年頃 サントリー美術館
美しいのはゴールドサンドイッチと呼ばれるゴブレットです。文字通り金箔の模様をガラスの中に挟んだもので、例えばキリスト教の聖人たちを象った器も作られます。
「ロンドン風景文ゴブレット」は見事の一言です。ガラスの表面をぐるりと覆う文様はずばりロンドン。ロンドン塔にテムズ川などが実に精緻に刻まれている。まさか18世紀のロンドンの光景をガラス器で見るとは思いませんでした。
「もてなし」の項ではバッカスをモチーフとした器もお目見え。また面白いのは鹿の頭が上部にのった「鹿形パズルゴブレット」です。ゴブレットにパズル?何のことやらと思ってしまいますが、普通に口を付けても、鹿の頭が邪魔をしてうまく飲めないとか。答えは台座の付け根の穴です。それを塞ぐことによって、別の口から飲み物を吸い出すことが出来るという仕掛け。まさにトリッキー。こんな器でお酒が出てくるだけでも楽しくなってしまいます。

「切子三ツ組盃・盃台」日本 19世紀 サントリー美術館
もちろん日本の酒器も数多く出品。ガラスの徳利に切子の盃なども。把っ手のひねりが独特な「藍色ちろり」は何度見てもその美しさに惚れてしまいます。

高橋禎彦「酒器等一式」2013年 個人蔵
また「酒器のいま」と題し、現在活躍中のガラス作家による酒器も展示されているのもポイントです。中野幹子さんに松島巌さんに由良園さんなど。大きさも形も色も様々。どのようなシーンやお酒が似合うのか。妄想ならぬ想像も膨らみます。
かつての切子展ならぬガラス器を展示すれば天下一品のこの美術館。さらには付け加えればサントリーは酒造メーカーでもある。まさにこの場所だからこその企画。思わず息ならぬ、お酒を飲みたくなるような景色が広がっています。感服致しました。
11月10日までの開催です。
「Drinking Glassー酒器のある情景」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:9月11日(水)~11月10日(日)
休館:火曜日。但し8月13日(火)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *9/15(日)、22(日)、10/13(日)、11/3(日)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*ホームページ限定割引券、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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