「オランダ・ハーグ派展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展 近代自然主義絵画の成立」 
4/19-6/29



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展 近代自然主義絵画の成立」を見て来ました。

1830年から1870年頃にかけてフランスに興ったバルビゾン派。パリ郊外のバルビゾンに集まり、森や野山に出かけては写生、田園風景を描いていた。コローやミレーにドービニー。日本でも大いに人気のあるところかもしれません。

その少し後、オランダの地で同じように自然へ向き合った画家たちがいたのをご存知でしょうか。それがハーグ派です。拠点は言うまでもなくハーグ。北海に面した港町です。そこで風車や運河、それに船に漁師たちの生活などを描く。オランダの風景や日常を絵画に表しました。


ピート・モンドリアン「アムステルダムの東、オーストザイゼの風車」1907年 ハーグ市立美術館

本展ではハーグ派を紹介。何でも国内初の試みだそうです。出品は約90点。ほぼハーグ市立美術館のコレクションです。そして重要なのはバルビゾン派に加え、後に影響を受けたゴッホとモンドリアンも含んでいること。上の一枚、「アムステルダムの東、オーストザイゼの風車」(1907)も、かの抽象画家モンドリアンがハーグ派に倣って描いた作品です。知らなければモンドリアンだと分かりません。

さてそれでは前史のバルビゾン派から。ここが意外と充実。総出品数の3分の1程度です。約30点ほどの作品が展示されています。

うち興味深かったのがヨハン・バルトルト・ヨンキント。元々はオランダの生まれです。一時パリに出てはオランダと行き来し、後にフランスに在住します。セーヌをはじめ、フェルメールでもお馴染みのデルフトを描いた風景画が印象に残りました。

またいわゆるバルビゾン派ではありませんが、同派と交流したクールベも1点出ています。それが「ルー川の源流にかかる橋の水車小屋」(1863)。舞台はオルナン南部の川、画面中央にはアーチ状の橋がかかっている。暗い色遣い。緑は黒に覆われ、荒い筆致によるのか、山の岩肌のゴツゴツした質感も伝わってくる。なかなかの秀作でした。

そして続くのはハーグ派です。「風景」、「農民」、「家畜」、「室内」、「海景」といったテーマ別で展開されています。


ヴィレム・ルーロフス「アプカウデ近く、風車のある干拓地の風景」1870年頃 ハーグ市立美術館

ヴィレム・ルーロフスの「アプカウデ近く、風車のある干拓地の風景」(1870)はどうでしょうか。明るくまた透明感のある筆触。低くたれ込める雲の上から陽も差し込む。水辺には鳥が舞う姿も見えます。なだらかな地平。空も大地も広い。これぞオランダの風景。開放感があります。


ヘラルト・ビルデルス「干拓地の風景のなかの牝牛(オーステルベーク)」1857年頃 ハーグ市立美術館

バルビゾン派ではトロワイヨンもよく動物を描いていましたが、ハーグ派ではヘラルト・ビルデルスも得意としていました。一例は「干拓地の風景のなかの牝牛(オーステルベーク)」(1857)です。また「山のある風景」(1858)でも牛の群れを描いている。ちなみに前者のオーステルベークとはハーグ派の画家が集った森のこと。バルビゾンにおけるフォンテーヌブロー的な存在と言えるのかもしれません。


ヤコプ・マリス「漁船」1878年 ハーグ市立美術館

そしてオランダといえば海です。まずはヤコプ・マリスの「漁船」(1878)。海景画では比較的珍しい縦長の構図です。波打ち際には一隻の船。これはボムスハイトと呼ばれるニシン漁の船だとか。手前のロープは船を浜に揚げるためのもの。何でも馬で引っ張っていたのだそうです。


ヘンドリック・ヴィレム・メスダッハ「オランダの海岸沿い」1885年 ハーグ市立美術館

ヘンドリック・ヴィレム・メスダッハの「オランダの海岸沿い」(1885)はまさに海景画の王道です。夕景でしょうか。水平線の彼方からうっすら朱色を帯びた光が差し込んでいる。浮かぶのは帆船。マストはかなり細かな描線で表されている。なおメスダッハはバルビゾン派をはじめ、同時代のオランダの画家の絵を集めていたコレクターでもあった。後に自身の美術館まで設立したそうです。

漁師や農民の日常を捉えた作品はどうでしょうか。自然の中で働く人の姿を見つめた画家と言えばミレー。ハーグ派においてもミレーの影響を色濃く受けています。


ベルナルデュス・ヨハネス・ブロンメルス「室内」1872年 ハーグ市立美術館

例えばマタイス・マリスの「種をまく人」(1883)です。言うまでもなくミレー作を元にしている。また室内画を得意としたのはヨーゼフ・イスラエルスです。「編み物をする若い女」(1880)。糸をピンと伸ばして縫い物をしている。さらにはベルナルデュス・ヨハネス・ブロンメルスの「室内」(1872)も面白い。漁師一家の日常生活です。幼い子を囲んでの家族団らん。休日の昼下がり。カップに注ぐのはお茶でしょうか。湯気も出ています。窓から差し込む光も柔らかでした。

そしてこれらを通して浮かび上がるのは17世紀オランダの風俗画の影響です。そもそもバルビゾン派は先行するオランダ絵画を一部手本にもしていた。ようは17世紀オランダ絵画がバルビゾン派を経由してハーグ派の画家によって改めて評価された。そのようにも言えるわけです。


フィンセント・ファン・ゴッホ「じゃがいもを掘る2人の農婦」1885年 クレラー=ミュラー美術館

若きゴッホはハーグの画商のもとで働いていました。おそらくゴッホはハーグ派からミレーを見ていたのではないか。そしてモンドリアンです。最初にも触れたように彼もハーグ派の絵画を学んでいる。そもそも叔父のフリッツ・モンドリアンはハーグ派の流れをくむ画家でもあります。


ピート・モンドリアン「夕暮れの風車」1917年頃 ハーグ市立美術館

モンドリアンは全部で4点。いずれも初期のいわゆる具象画です。うち断然に面白いのが「夕暮れの風車」(1917)。風車を大きくクローズアップ。一種異様なまでの迫力をもってそびえ立つ。そして暗い。風車の細部はもはや闇に包まれているようでもある。また空です。鱗雲でしょうか。夕陽を遮るかのごとく空を覆う。どことなく雲が紋様、言わば抽象的に映るのも、その後のモンドリアンの画風を知っているからかもしれません。

バルビゾンに始まりハーグ派からモンドリアンまでを繋ぐ企画。先にも触れたように17世紀オランダ風俗画もポイントになります。派手さはありませんが、良くまとまっている展覧会だと感心しました。

館内は余裕がありました。6月29日まで開催されています。

「ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展 近代自然主義絵画の成立」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館。
時間:10:00~18:00 但し毎週金曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生600(500)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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