「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館

国立新美術館
「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」
2/19-6/9



国立新美術館で開催中の「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」を見て来ました。

大阪は万博公園内にある国立民族学博物館。開館は古く1977年です。かねてより世界各地の民俗学的資料を収集。現在、約34万点余のコレクションを所蔵しています。

その民博のコレクション展です。出品は怒濤の約600点。なおこのスケールでの展示は東京で初めてとのことでした。

さて本展、もちろん民俗学的資料が所狭しと並んでいるわけですが、何も民博の展示をそのまま踏襲しているわけではありません。


「羽根製頭飾り」 ブラジル(民族:ツカハマイ) 1960年代制作

というのも会場が「美術館」であるということです。そもそもこの展覧会自体が民博の単なる巡回展ではなく、国立新美術館との共同企画で実現したもの。言ってしまえば資料を「アートとしての側面」(公式サイトより引用)として提示していく。まずはそこに重きが置かれているのです。

よって構成も独特です。どうでしょうか。タイトルからして「イメージの力」。民俗資料そのものも一つの「イメージ」として捉えています。よって会場内では資料の歴史的文脈や地域性などについて殆ど触れていません。むしろそこから開けてくる造形の奥深さを探ろうとする試み。キャッチボールは鑑賞者一人一人の感性に投げかけられています。意欲的な展示でもありました。

「プロローグー視線のありか」
第1章 みえないもののイメージ
 1-1:ひとをかたどる、神がみをかたどる
 1-2:時間をかたどる
第2章 イメージの力学
 2-1:光の力、色の力
 2-2:高みとつながる
第3章 イメージとたわむれる
第4章 イメージの翻訳
 4-1:ハイブリッドな造形
 4-2:消費されるイメージ
エピローグー見出されたイメージ


「舞踏劇チャムの仮面『シンギェ』」 ブータン(地域:ティンプー) 20世紀後半制作

さてまずは見せ方。これがなかなか大胆です。何せ汎用性の高い新美のホワイトキューブ、かの天井高を効果的に活かしています。冒頭は世界の仮面です。全部で103面。これも一般的であれば国や地域毎に並べるのかもしれませんが、本展ではそうした手法はとらない。ともかく仮面がずらりと天井付近までたくさん連なっている。月並みな言葉ではありますが、さも一つのインスタレーションを形成するかのように並んでいます。

とは言え、当然ながら全てがてんでばらばらに展示されているわけでもありません。例えば日本でもお馴染みの獅子「獅子頭」の隣には、中国漢族の獅子の仮面と韓国のソウルの獅子が置かれている。比較的近い地域での展開。そこから類似点や差異点も浮かび上がる。各資料を横断的に捉えることで、逆に各地域の特性を見る仕掛けにもなっているわけです。


「早変わり仮面」 カナダ(民族:クワクワカワクゥ) 1977年制作

「時間」や「物語」も一つのテーマです。「時間」のセクションでは曼荼羅と並びアボリジニの絵画が並んでいました。かつてこの新美術館で見たエミリー・ウングワレーのことを思い出させる作品。モザイク状、ドットの連なる鮮やかな色面。密度が濃い。まさか曼荼羅と見比べるとは思いませんでした。

このように古今東西、意外な邂逅が続出するのも見どころの一つです。他にも例えばギリシャ正教の祭服とマリの狩人の衣装が近くに置かれている。ところでマリの狩人、衣装に手鏡がいくつも付いています。一体何を意味するのでしょうか。気になるところでもありました。

高さ何メートルでしょうか。そびえ立つ5本の支柱。インドネシアで葬送用に使われるという「ビス」です。人間の形を象った柱。いわゆるトーテムポールに近いものがあるでしょう。柱の上部には透かし彫りのような意匠が施されている。また途中には人の頭が何故か逆さになって彫られています。


「ユダ人形」 メキシコ(民族:メスティソ) 1985年収集

メキシコの「ユダ人形」に驚きました、張り子の人形、ユダとはイエスを裏切ったかのユダに由来するそうですが、それにしても格好がまるで怪獣。ナントカ星人のようです。

それにしても先のマリの鏡や「ビス」に「ユダ人形」にしろ、その用途に関しては、少なくとも会場内のキャプションで細かに記されていません。(図録では一部補完があります。)そこで感じてしまう如何ともし難いもどかしさ。はじめにも触れましたが、展示はあくまでも民俗学的資料を「イメージ」として体感的に得ようとする試み。相対的な意味なりを「理解」することはひとまず棚にあげています。ただそれでも終始「学ぼう」と構えてしまう。率直なところ、コレクションを歴史や地域の文脈と半ば切り離して見せることに難しさを感じたのも事実でした。


「棺桶(ライオン)」 ガーナ(地域:テシ) 2003年制作

全展示中で最も驚きをもって捉えられているのではないでしょうか。ガーナの「棺桶」です。おそらくは殆どの日本人、単に棺桶と記すと、例えばあの桐で出来た白い棺を連想するに違いありません。しかしながらガーナは異なります。何と棺桶にはライオンもいえばビール瓶もあればベンツもあって飛行機もある。ようはガーナには故人が思い思い、好きだったものの中に入って埋葬されるという風習があるのです。

色もカラフルでそれこそ玩具の乗り物。現地では棺桶を制作する工房もあるそうです。キャプションを見なければこれが棺桶であることに気がつく人は少ないでしょう。これがいわゆる「異文化」なのでしょうか。「死」の捉え方と「埋葬」への価値観。まさかこれほど違っているとは思いもよりませんでした。


「床屋用看板」 ガーナ(民族:ガ) 1996年収集

なおこれらの棺桶はいずれも2000年前後に制作されたもの。比較的最近です。ちなみに本展では今も美術家らの手によって作られ、また使われ続ける用具が数多く登場します。ともすれば民俗資料というと「古い」というイメージがあるかもしれませんが、何も考古的な資料ばかりではありません。

「国際博物館の日」(5/18)の無料開館を利用して観覧してきました。その故でしょうか。館内も盛況でした。

万博公園の民博、相当昔に一度行ったきり。実のところ記憶も曖昧です。この展覧会をきっかけにまた行きたいものです。



6月9日まで開催されています。なお東京展終了後、国立民族学博物館でも開催(9月11日~12月9日)されます。

「イメージの力ー国立民族学博物館コレクションにさぐる」 国立新美術館@NACT_PR
会期:2月19日(水)~ 6月9日(月)
休館:火曜日。但し4/29、5/6は開館。5/7は休館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は夜20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円。高校生(18歳未満)以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *4/19(土)は六本木アートナイト2014、5/18(日)は国際博物館の日につき無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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