「超絶技巧!明治工芸の粋」 三井記念美術館

三井記念美術館
「超絶技巧!明治工芸の粋ー村田コレクション一挙公開」
4/19-7/13



三井記念美術館で開催中の「超絶技巧!明治工芸の粋ー村田コレクション一挙公開」を見て来ました。

明治時代、主に輸出用として作られた七宝や金工などの工芸品。それらはいずれも明治以前、江戸時代にも高い技術を誇っていたもの。ところが幕末以降の社会の変化により国内での需要が失われていく。結果的に海外へ市場を求めることになりました。

よって工芸品の多くは海外に残されてきた。日本人が愛でる機会が多かったとは必ずしも言えません。

しかし近年に一人の人物が現れます。村田理如氏です。村田製作所の専務を務めた同氏、1980年代後半にNYで印籠を購入したのを発端に、明治工芸を収集。オークションで海外から工芸品を次々と買い戻します。2000年には清水三年坂美術館を設立。現在までに1万点余もの明治工芸コレクションを形成しました。


赤塚自得「四季草花蒔絵提箪笥」

清水三年坂美術館名品展と言っても差し支えがないかもしれません。コレクションから選りすぐりの160点を出品。明治工芸のエッセンスを紹介します。

少し前置きが長くなりました。まず扱われている工芸は以下の通り。全9種です。

七宝、金工、漆工、薩摩、刀装具、自在、牙彫・木彫、印籠、刺繍絵画


並河靖之「花文飾り壺」

さてはじめに触れておきたいのは導入が巧みであること。冒頭の三井の特徴的な立体展示室。よく茶碗などが並んでいるスペースですが、そこに名品中の名品、展覧会でも特に見るべき作品が展示されている。いきなりのハイライトです。そこで明治工芸の緻密さ、芸の細やかさ、それでいて時に大胆な意匠などを知る仕掛けとなっています。

薩摩焼の「雀蝶尽し茶碗」はどうでしょうか。キャプションをして「日本の陶芸でこれほど緻密な作品はない。」とまで言わしめた作品。茶碗の外側には一体、何羽いるのか見当もつかないほどたくさんの雀が描かれている。えさを食べている雀もいます。生き生きとした表情。可愛らしい。そして圧巻なのは見込みです。無数のつぶつぶ。肉眼ではまるで分かりませんが、何とこれは全て蝶であるとのこと。まるで小さな宝石でも蒔いたかのように広がる蝶。どのようにして絵付けしたのか。考えただけでも途方に暮れてしまいます。

ちなみに薩摩焼とは朝鮮の由来、主に幕末の鹿児島で興った焼物のことです。明治維新後は輸出向けとなり、例えばパリやウィーンの万国博で大いに珍重されたそうですが、その本家の人気に倣ったのか、東京や関西、それに金沢などの全国各地でも生産されていきます。


薮明山「蝶に菊尽し茶碗」

薮明山の「蝶に菊尽し茶碗」も同じ蝶がモチーフです。僅か3ミリほどの蝶が群れて舞う。渦をまく白い波模様も美しい。一つのデザインとしても惹かれる作品でした。

ハイライトに戻ります。牙彫。安藤緑山です。おそらく全作家の中で最も注目されることでしょう。うち代表的なのが「竹の子、梅」。ごろんと竹の子。梅が添えられる。文字通り見たまま。だからこそ凄い。そして何が凄いのか。端的に申し上げれば本物と見間違うほど精巧に作られているのです。


安藤緑山「竹の子、梅」

ほぼ実寸大、全長37センチの竹の子。皮が少し捲れてもいる。根の部分がピンク色です。これは取り立ての竹の子だけに現れる色。瑞々しい。着色とは思えません。そして丸々肥えた姿。見るからに美味しそうです。茹でていただくかお刺身でいただくか。もはやそれが牙彫であることすら忘れてしまいます。

牙彫師の安藤緑山は他にも野菜や果物を制作。本展でも茄子や柿に蜜柑、それにパセリなどが紹介されています。いずれも手にとって食したくなるような作品ばかりですが、作家の来歴は謎に包まれている。何でも弟子をとらなかったばかりか、文献等の記録も少ない。生没年すら分かっていません。

惹かれた作品を少し挙げましょう。自在。部分部分が可動する金属製の置物です。とぐろを巻いた蛇に黒くどこか滑りとした質感を思わせる鯉。ともに立派ですが、一転しての小品、「兜虫」や「鍬形」も魅惑的です。兜虫は羽、そして鍬形は顎が開く。脚の細く曲がった部分までを再現。今にも動き出しそうです。昆虫好きはもちろん、フィギュア好きにもたまらない作品と言えるかもしれません。

漆工から外せないのは柴田是真です。2012年には根津美術館での「ZESHIN」展でも卓越した技を見せた蒔絵師。本展においても6点ほどの作品が展示されています。

「ZESHIN 柴田是真の漆工・漆絵・絵画」 根津美術館(はろるど)

うち強く感心したのは「宝舟蒔絵茶箱」です。小さな蒔箱に宝舟、ようは巻物や珊瑚や笠といった宝を載せた舟が表された作品ですが、面白いのは構図のセンス。というのも箱の表に一隻、鋭い三日月のような宝舟が描かれ、側面にはちょうど箱の角の部分で曲がった舟が今度は二隻連なって描かれている。うまく言葉では伝わらないかもしれませんが、ともかくもその舟の配置が絶妙なのです。

図録に明治工芸を評価するに際しては「超絶技巧+α」が重要であるという指摘がありました。この「α」の部分には例えば工芸作家の昆虫や草木に対しての細やかな観察眼が含まれる。そして是真です。彼のデザインセンス、まさにそれこそ「α」の最たるものではないでしょうか。


並河靖之「桜蝶図平皿」

技巧に精巧。神業ならぬ入念かつ緻密な手仕事から開かれる驚異のテクスチャー。会場内、至る所から「凄い、凄い。」の声が聞こえてきましたが、確かに凄いとしか言いようがない。唸らされる作品ばかりです。

明治工芸の里帰りというべき展覧会です。そして一見、キャッチーなチラシに巧みな展示誘導、さらには熱の入った図録のテキスト。日本の美術史に埋もれがちなジャンルを再評価する試み。監修は山下裕二先生です。さもありなんという気がしました。

GW期間中の夕方前に出向きましたが、館内は思いの外に賑わっていました。また日曜美術館の他、メディアなどでも露出の機会が多い。ひょっとすると会期末にかけて混雑してくるかもしれません。

NHK日曜美術館 「明治の工芸 知られざる超絶技巧」
2014年5月11日放送 再放送:5月18日夜 出演:山下裕二

毎週金曜日は「ナイトミュージアム」として19時まで開館しています。当日17時以降は入場料も割引価格の1000円(大人)です。その辺も狙い目となりそうです。

「明治の細密工芸:驚異の超絶技巧!/山下裕二(監修)/別冊太陽」

7月13日まで開催されています。まずはおすすめします。

「超絶技巧!明治工芸の粋ー村田コレクション一挙公開」 三井記念美術館
会期:4月19日(土)~7月13日(日)
休館:月曜日、5月7日(水)。但し4/28(月)、5/5(月)は休館。
時間:10:00~17:00  毎週金曜日は19時まで開館。*入館は閉館の30分前まで。 
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(700)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *70歳以上は1000円
 *毎週金曜日17時以降は「ナイトミュージアム」として一般1000円。(大・高校生500円)
 *割引引換券
場所:中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線三越前駅A7出口より徒歩1分。JR線新日本橋駅1番出口より徒歩5分。
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