「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(後編・コレクション展ついて) 広島市現代美術館

広島市現代美術館
「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」
3/15-6/8



前編に続きます。広島市現代美術館で開催中の「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」を見て来ました。

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」(前編・美術館について) 広島市現代美術館(はろるど)

さて一通り屋外彫刻を楽しんだ後は館内へ入場します。コレクション展です。現在行われているのは2014年の第一期。表題の如く「○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」です。

抽象表現を基点に60年代以降の作家の取り組みを紹介するもの。ずばり端的に幾何学的な作品から、むしろ意図せずに図形が浮かび上がる作品などを見せていく。60年代はミニマル的表現が多く見られた時期でもあります。現代アメリカの抽象美術から日本の「もの派」、さらには浜口陽三からアクションを捉えた映像作品までと多様です。盛りだくさんでした。


リチャード・ロング「スイス花崗岩の環」 1985年

会場内の撮影が可能です。まず冒頭はリチャード・ロング、「スイス花崗岩の環」(1985)です。文字通り環、円を描いて並ぶ花崗岩。いずれもロングが自ら出かけて採取したというもの。内側の円と外側の円。そして内部における直方体。単に環と言えども、そこにはいくつもの形があることが見て取れます。


手前:遠藤利克「Lotus2」 1990年
右奥:フランク・ステラ「ラッカ1」 1967年


うっすらと白く、また軽快ですらあるロングの彫刻。逆に一転して黒く、また重厚感があるのが遠藤利克の「Lotus2」(1990)です。お馴染みの木を炭化させて作られたオブジェ。かなり大きい。直径は4.5mもあります。

それにしても本来的に比重の大きい岩よりも小さな木の方が重く見える、ようはロングの花崗岩よりも遠藤の炭の方が重く感じられるのも興味深いもの。そしてロングと遠藤の作品の向こうに見えるのがフランク・ステラの「ラッカ1」(1967)です。無数の円の連なり。白のロングの黒の遠藤、そして赤に緑と色鮮やかなステラ。色の関係も面白い。いずれも大作、「○」から繋がる世界。広々としたスペースだからこその贅沢な展示でした。


「風景のなかに現れる幾何学形」展示風景

続いてのセクションも意欲的です。テーマは「風景のなかに現れる幾何学形」。主に日本人の描いた様々な絵画に「幾何学形」を見出していきます。ご覧の通り、壁面にずらりと絵画が連なる展示。キャンバスという四角形の連続です。そしれそれ自体が言わば一つの幾何学的な形でもあります。


左手前:香月泰男「青年」 1954年

巧妙なのは絵の配置です。ご覧のように必ずしもフラットではなく段差がある。しかも必ずしも右へあがるわけでもありません。時に手前の絵より下の部分に掲げられています。さて何故にこのようになっているのか。私もはじめは気がつきませんでした。

種明かしをしてしまうと、それぞれの絵画内の中心となりうる水平面が横に一直線になるように並べられているのです。そしてその横一本の線を「広島のわすれることのできないあの瞬間」(キャプションより)、つまりは原爆の記憶と関連づけている。ようはこの線を時間の流れになぞらえてもいます。


下村良之介「黒い雨」 1996年

下村良之介の「黒い雨」(1996)が目を引きます。空を覆う黒い雲に下部は赤く染まる大地。炎でしょうか。縦方向へ幾重にも筋が入っている。まさに黒い雨。素材は和紙です。隆起するのは日本画に顔料に紙粘土。独特の画肌を見せています。


デニス・オッペンハイム「2段階転換ドローイング」 1971年 他

アクション・アートはどうでしょうか。展示はいずれもライブを収めた映像です。デニス・オッペンハイムは自ら息子の背中に線を描きながら、一方で息子が今度は作家の背に描くというドローイングの試みを行っている。行為としての結果に一種の幾何学的図像が登場します。


手前:榎倉康二「干渉」 1995年

ラストは△と□への展開です。まずは榎倉康二の「干渉」(1995)。油による染みを取り込んだ作品です。キャンバスに広がる染み。立て掛けられた一本の柱の背後にも同じく染みがあります。キャンバスと柱との関係。それが染みを通して会場へと繋がっていく感覚。かつて都現美で見た回顧展(2005年)のことも思い出しました。


マイケル・ミケレデス「エントランス」 2001年

マイケル・ミケレデスの「エントランス」(2001)は三角形と台形を連ねた形です。また山口長男の「翼」(1966)も印象深い。ちなみに画家の作品は現在、千葉の川村記念美術館で行われているミニ回顧展でも何点かまとめて見ることも出来ます。


手前:菅木志雄「限界状況」 1970年

そしていわゆる「もの派」です。李禹煥に菅木志雄。菅は2点、「限界状況」(1970)と「集結性と領界性」(1995)が出ていました。なお菅は来年早々、東京都現代美術館でも個展が予定(2015/1/24~3/22)されています。こちらも期待したいものです。


右:山口長男「翼」 1966年
右奥:菅木志雄「集結性と領界性」 1995年


美術における幾何学的諸相。ともすると漠然となりがちですが、そこは時に「ヒロシマ」を意識した作品や切り口で攻め込んでいく。館のポリシーという言葉で宜しいのでしょうか。何か中心となり得る「軸」を持つコレクションである。そのようなことを感じました。

さて広島市現代美術館、ちょうど先週末、5月17日より企画展「スリーピング・ビューティー」がはじまりました。



「スリーピング・ビューティー」@広島市現代美術館 5月17日(土)~7月21日(月・祝)

こちらは「美」の知覚について主に同館の所蔵作品から考察するもの。おそらく常設の幾何学展とあわせて見れば、同館のコレクションの全体像がさらに浮かび上がるのではないでしょうか。



「○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」は6月8日まで開催されています。

「コレクション展 ○△□ー美術のなかの幾何学的想像力」 広島市現代美術館
会期:3月15日(土)~6月8日(日)
休館:月曜日(5月5日を除く)、5月7日(水)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *3月26日~30日、5月3日~6日は19時まで開館延長。 
料金:一般370(280)円、大学生270(210)円、高校生・65歳以上170(130)円、中学生以下無料。
 *( )内は30名以上の団体料金。
 *特別展「スリーピング・ビューティー」開催時は共通券あり
場所:広島市南区比治山公園1-1
交通:広電(市内路面電車)比治山下駅より徒歩10分。広島駅及び紙屋町より広電・広島バスにて「段原中央」下車。動く歩道「比治山スカイウォーク」経由にて約700m。
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