「いちはらアート×ミックス」 (後編:養老渓谷アートハウス・月出工舎)

千葉県市原市南部地域
「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」
3/21-5/11



「中編:IAAES 旧里見小学校」に続きます。「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」へ行って来ました。

中編:「いちはらアート×ミックス」(IAAES 旧里見小学校)

山登里食堂で腹ごしらえをした後は、さらに南へ向かいます。目的地は養老渓谷の「アートハウスあそうばらの谷」です。築100年超の古民家ギャラリー。大巻伸嗣の「おおきな家」が行われている施設です。

里見地区から養老渓谷へはほぼ山道。右手に深く切り立った谷が見えてきました。専用駐車場は少し手前です。車を停めて駅まで歩きました。


小湊鉄道「養老渓谷駅」

アートミックス最南端の養老渓谷駅に到着です。元々、風光明媚な観光地とも知られる場所。こじんまりとした駅前ながらも案内所や売店も立ち並んでいます。隣には足湯もありました。



さて目当てのアートハウスは線路を挟んで反対側、渓谷の方向にあります。駅脇の小路を抜け、踏切を超えて右折。急な坂を下ると赤いトラス橋が前に迫ってきました。


「養老川」

この橋を渡るとすぐ右手がートハウスです。駅から6~7分でしょうか。それにしても眺めが良いもの。眼下には養老川が流れています。風光明媚です。坂を降りて「アートハウス」へと向かいました。


「アートハウスあそうばらの谷」

これがアートハウスあそうばらの谷。まさに外観は古民家そのもの。やや手狭です。展示スペースに隣接するのは「山覚俵家」。JA市原の女性部による運営のレストランです。地場の山菜を利用した混ぜご飯を提供しています。


「アートハウスあそうばらの谷」入口

入口は奥でした。立派な暖簾が垂れ下がります。残念ながら中は撮影は出来ません。しかしながらあえてお伝えしたいのは、この大巻の展示がすこぶる良いこと。いわゆる個展形式で随所に作品がありますが、ともかく畳あり囲炉裏あり障子ありの古民家の空間を巧みに活かしている。欄間で花を描いた彫刻も見事。意表を突く展開です。そして最後の「煙の部屋」がより魅惑的な作品となっています。

大きなシャボン玉のような球体がゆらゆらと舞い降りてはパチンと跳ね、そして静かに沈み込む瞬間。グレーに染まっていく。周囲は闇です。また再び球体が落ちてくる。その繰り返し。ひたすらに静寂です。時はゆっくりと流れます。正座が相応しいでしょう。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。


開発好明「モグラTV」

アートハウスを見た後は再び坂をあがって駅へ。途中で一つ立ち寄ったのが「モグラTV」です。開発好明さんの展示。と言ってもご覧のように一見すると畑があるだけ。上には人が群がって皆、下を覗き込んでいます。何でしょうか。近づいてみました。


「モグラTV」の中から顔を出して下さった開発さん

するとそこにおられたのは何と開発さんご本人。しかも全身モグラ姿です。実はこれ、アートミックス期間中、開発さん自ら、穴蔵ならぬ地下スタジオからustreamで様々な情報発信をしているもの。ここで参加アーティストの方々はもとより、市原市長の佐久間氏、また小湊鉄道社長の石川氏との対談も行っています。その数40回以上です。右のリンク先でアーカイブ(モグラTVustream)を見ることも出来ます。


「モグラTV」内部 *この中で対談やustream中継を行うそうです

それにしても開発さん、会期中連日、9~17時でこの穴蔵に詰めておられるとか。大変です。開催当初の平日は人が少なく、とても寂しかったそうです。これからアートミックスに出かけられる皆さん、是非とも養老渓谷の「モグラTV」を訪ねてみて下さい。


「月出工舎」へのルート

養老渓谷を離れます。最後の目的地の月出工舎へ。アクセスはやや難ありでしょうか。というのも小湊鉄道沿線ではなく、やや外れた南西部の山中にぽつんとある。ゴルフ場を抜け、細くくねった山道をひたすらに進みます。周遊バスの本数も少なく、一部は乗り継ぐ必要もあります。今回の芸術祭で一番行きにくい場所とも言えそうです。


「月出工舎(旧月出小学校)」入口

月出工舎に到着しました。周囲は完全に山。背後にも崖が迫ります。そして本会場も廃校の旧月出小学校を利用した施設。芸術祭のために一部リノベーションしています。グランドやプールもある。ただIAAES(旧里見小)よりも小規模です。その分、展示も少なめとなっています。


竹村京「この本、開いてもいいですか?」

とは言え、個々には見応えのある作品が多い。例えば竹村京の「この本、開いてもいいですか?」はどうでしょうか。子どもたちが本を読む姿。大きく引き延ばされた写真です。その上には断片的な刺繍の施されたオーガンジーが貼り合わされている。赤や緑の花々。クリスマスツリーに鬼の仮面も見える。レイヤー状にイメージが重なります。また吊るされた布は見開きになり、さも本のような姿をしています。ちなみに写真は一部、月出小に残されていたものを引用しているそうです。


田中奈緒子「Die Vorstellungのためのインスタレーション」

田中奈緒子の「Die Vorstellungのためのインスタレーション」も秀逸です。暗室の中の椅子やランプにタンバリン。それらが時に逆さに吊るされ、電線やロープで連なりながら、床面へと至っている。美しいのは影です。ライトの加減によって屈曲しては表情を変化させる光に影。あたかも木々の枝や蔦が絡まるようでもある。耳を澄ませましょう。鳥のさえずり、また列車のゴトゴトといった音がします。市原界隈で採取したのでしょうか。影と音の織りなすイリュージョン。派手さはありませんが、非常に繊細な作品です。見事でした。


岡博美「光がつくる世界」

屋外へ出ます。プールです。岡博美の「光がつくる世界」。藍染めの生地です。ゆらゆらと風にも靡く姿。藍の青と空の青。木陰をイメージしているのでしょうか。葉や雲のシルエットも見える。晴天ならより映えていたかもしれません。


岩間賢「蔵風得水」

圧巻なのが岩間賢の「蔵風得水」です。斜面を活かした巨大なインスタレーション。崖の途中で横たわる大木。根が露となる。そして曲線を描いて巻き付くのは竹です。さながら生け花の世界。流麗ですらあります。


岩間賢「蔵風得水」

ちなみにこの大木、今年の大雪で崩れた倒木をそのまま利用しているとか。自然の恐るべき力。それを作品へと転化する。何とダイナミックなことではないでしょうか。


「月出工舎(旧月出小学校)」全景

月出工舎、先にも触れたように不便です。ただそれでもこの場所だからこその作品があった。充足感はありました。


藤本壮介「Toilet in Nature」

その後は飯給駅横にある自然公衆トイレ、藤本壮介の「Toilet in Nature」を見学し、帰路につきました。結果的に朝から夕方まで、約6~7時間ほどの観覧でした。

さて初めての「いちはらアート×ミックス」、まずは素直に楽しめました。ただ小湊鉄道を核としたイベントです。自由に行動可能な車は確かに便利ですが、周遊パスなりで鉄道を利用するのが本筋と言えるのかもしれません。そうなるとバスの乗り継ぎがポイントになると思います。ルートは複数。本数も1時間から30分に1本程度です。(GW中は増発便あり。)決して多くはありません。常に時刻表を頭に入れておく必要があります。


「養老渓谷駅」付近を走る小湊鉄道

鉄道に加え廃校が重要なファクターです。美術館よりも旧里見小や旧月出小会場の方が面白かったのも事実です。よって同じく廃校を利用した内田未来楽校やいちはら人生劇場を見られなかったのは心残りでもありました。


「いちはらアート×ミックス」のサイン *各会場付近には幟がたくさん立っています

事前にある程度、展示情報を調べたつもりですが、ともかく公式サイトが見にくくて難儀しました。またチラシも都内はもちろん、県内でも入手出来ませんでした。紙で得る情報も有用です。現地に着くなり、すぐにアクセスマップを探したことを付け加えておきます。なお公式ガイドが美術手帳から発売されていますが、それとは別に簡単なミニ冊子(有料でもOK)があっても良かったかもしれません。

私のおすすめ順はIAAESと養老渓谷のアートハウス、そして月出工舎です。また作品のマイベストはIAAESの冷凍室とアートハウスの大巻さん、月出で崖の斜面を活かした岩間さんです。それに「おかしな教室」や「Die Vorstellung」も楽しく、また美しい。展示のボリュームはIAAESが一番です。少なくとも展示のみの目的であれば、十分に一日で廻りきれると思います。


「飯給駅」を発車する小湊鉄道 *左奥は「開発好明+加茂学園」のかかし

会場となった閉鎖校舎の今後の運用は未定、改めて市が活用を検討していくそうです。芸術祭に際してアーティストの滞在なり地元との交流も多くあったと聞きました。ただ他の芸術祭に見られるような常設を志向した作品は殆どありません。次を睨んだ展開はあるのでしょうか。その辺も大いに気になります。

「里山舞台の芸術祭閉幕 いちはらアート×ミックス」(朝日新聞デジタル)

追記:上記リンク先記事によると2017年に2回目を行う予定だそうです。

最後になりましたが、運営のスタッフの方々がいずれも大変親切に接して下さいました。ありがとうございました。

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」は5月11日まで開催されています。

[いちはらアート×ミックス]シリーズ
前編:「いちはらアート×ミックス」(市原湖畔美術館)
中編:「いちはらアート×ミックス」(IAAES 旧里見小学校)

「美術手帖4月号増刊 いちはらアート×ミックス2014 公式ガイドブック」

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:3月21日(金)~5月11日(日)
休館:会期中無休。
時間:9:30~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般3800円、大学・専門・高校生3300円、中学生1000円、小学生500円、小学生以下無料。
   [個別観覧料]
   ・300円=《Luminous / Light and WindHouse》、内田未来楽校、《サンタルの食堂》、森ラジオステーション
   ・500円=《湖うみの飛行機》、《おおきな家》
   ・800円=IAAES、月出工舎、いちはら人生劇場
   ・1000円=市原湖畔美術館
  *鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。交通チケット(小湊鉄道、及び循環周遊バスの1日乗り放題)を含む。
  *個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:千葉県市原市月出1045(月出工舎)他
交通:JR内房線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。バス停高滝駅入口より周遊バス「北部ルート(左回り)」で旧富山小学校駐車場。周遊バス「月出ルート」に乗り換え、旧月出小学校。
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