都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ポンペイの壁画展」 森アーツセンターギャラリー
森アーツセンターギャラリー
「世界遺産 ポンペイの壁画展」
4/29~7/3
森アーツセンターギャラリーで開催中の「世界遺産 ポンペイの壁画展」を見てきました。
紀元79年のヴェスヴィオ火山の大噴火によって地中に埋もれたポンペイ。首都圏での展覧会としては2010年の横浜美術館の「ポンペイ展」以来のことかもしれません。
さてタイトルの「壁画」の文言。納得です。看板に偽りはありません。実際にもほぼ全てが壁画でした。全63点。一部に壁画制作に用いられた道具類、ないしは顔料入りの小皿などが含まれます。
まず驚いたのは壁画が思いの外に大きいことです。もちろんいわゆる欠片もありますが、多くは高さ2~3メートルはあろうかという壁画ばかり。しかも修復の業なのか彩色も良好です。立ち並ぶ壁画を前にしていると、思わずタイムスリップしてはポンペイの街へ迷い込んだ感さえありました。
冒頭の「赤い建築を描いた壁面装飾」からして見事です。高さ2メートル70センチに横幅5メートル弱。3面のパネルです。文字通り赤い建築が描かれています。建物は神殿です。円柱には女神像も垣間見えます。独特の奥行きがあることに気がつきました。これは不正確ながらも一点消失法に近い遠近法が用いられているそうです。覗き込んでいくと、さらに奥へ奥へと続いていくようでもあります。だまし絵としたら言い過ぎでしょうか。壁画の設置された空間を半ば視覚的に拡張していたのかもしれません。
「詩人のタブロー画がある壁画断片」(部分) 後1世紀 ポンペイ監督局
「詩人のタブロー画がある壁画断片」も美しい。高さは3メートルと巨大です。中央にはやや小さな絵のモチーフ。3人の人物が表されています。詩人は一番左の人物です。古代ギリシア風の白いマントを身につけています。右は女性、文芸の女神ことムーサとも言われています。
庭園の描写も色鮮やかです。たわわになる実はリンゴでしょうか。さらにバラ、また壺の姿も垣間見えます。草木は繁茂していて生命感にも満ちています。ちなみにこの壁画が断片であるのは一度、地震で破損し、新しい絵を描くため、打ち捨てられたからだと考えられているそうです。壁画にも主人の好みが反映されたのかもしれません。
カルミアーノの農園別荘(壁画を一連の空間装飾として再現した展示イメージ)
圧巻なのは「カルミアーノ農園別荘」の壁画の立体展示でした。ぐるりと一周、一室を取り囲む壁画群。食堂を飾っていたものです。ポセイドンやケレス、デュオニソスといったギリシアの神々が描かれています。中でも目立つのはデュオニソスです。言わずと知れた酩酊の神。食堂に相応しい主題なのでしょう。ほかには海を泳ぐ獣もいます。ちなみに多くの壁画にギリシアの神、とりわけデュオニソスが描かれていますが、これは同地域がワインの産地であったことに由来するそうです。
「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」 後1世紀 ナポリ国立考古学博物館
ハイライトは「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」でした。おおよそ2メートル四方の大画面、右に立つのがヘラクレスです。後向きの姿で、どこか泰然としながら左下の方へ目をやっています。視線の先がテレフォスでした。赤ん坊です。なんと牝鹿の乳に口を当てて飲んでいます。その上、一際目立っているのがアルカディアです。目を大きく見開いては堂々と座っています。彼は物語の舞台を擬人化するための像です。いわゆる主役ではありません。
街の皇帝崇拝の場である「アウグステウム」から出土したそうです。重要な場所を飾るための特別な作品だったのでしょうか。キャプションではかのラファエロになぞらえていましたが、確かに実に優美でかつ絵画的でした。
一方で小さな作品も見逃せません。例えば「小鳥」。小鳥のみ描かれた欠片ですが、筆致が細かい。ふとファブリティウスの絵画を思い出しました。同じく小品の「コブラとアオサギ」は格闘のシーンです。蛇は舌を出して威嚇しています。なかなか真に迫っています。
「踊るマイナス」も見応えがありました。マイナスとはデュオニソスの信女です。手を広げ、足でステップを踏みながら踊っています。背景は黒。浮かび上がるのは黄金色に染まるマイナスの姿です。着衣は透けているようで美しい。この色味、とても今から2000年前のものとは思えません。
「ケイロンによるアキレウスの教育」 後1世紀 ナポリ国立考古学博物館
全て壁画に特化したポンペイ展。調度品や彫像などは一切ありません。しかしながら質の高い壁画がばかり。これほどのスケールで見たのは初めてです。想像以上に充実していました。
隣のセーラームーン展は混んでいるようでしたが、ポンペイ展は大変に空いていました。じっくりと各々のペースで楽しめます。
会期中は無休です。7月3日まで開催されています。おすすめします。
「日伊国交樹立150周年記念 世界遺産 ポンペイの壁画展」(@pompei2016) 森アーツセンターギャラリー
会期:4月29日(金・祝)~7月3日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00
*入館は閉館時間の30分前まで。
*5月3日をのぞく火曜日は17時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、高校・大学生1300(1100)円、小学・中学生600(400)円。未就学児は無料。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
「世界遺産 ポンペイの壁画展」
4/29~7/3
森アーツセンターギャラリーで開催中の「世界遺産 ポンペイの壁画展」を見てきました。
紀元79年のヴェスヴィオ火山の大噴火によって地中に埋もれたポンペイ。首都圏での展覧会としては2010年の横浜美術館の「ポンペイ展」以来のことかもしれません。
さてタイトルの「壁画」の文言。納得です。看板に偽りはありません。実際にもほぼ全てが壁画でした。全63点。一部に壁画制作に用いられた道具類、ないしは顔料入りの小皿などが含まれます。
まず驚いたのは壁画が思いの外に大きいことです。もちろんいわゆる欠片もありますが、多くは高さ2~3メートルはあろうかという壁画ばかり。しかも修復の業なのか彩色も良好です。立ち並ぶ壁画を前にしていると、思わずタイムスリップしてはポンペイの街へ迷い込んだ感さえありました。
冒頭の「赤い建築を描いた壁面装飾」からして見事です。高さ2メートル70センチに横幅5メートル弱。3面のパネルです。文字通り赤い建築が描かれています。建物は神殿です。円柱には女神像も垣間見えます。独特の奥行きがあることに気がつきました。これは不正確ながらも一点消失法に近い遠近法が用いられているそうです。覗き込んでいくと、さらに奥へ奥へと続いていくようでもあります。だまし絵としたら言い過ぎでしょうか。壁画の設置された空間を半ば視覚的に拡張していたのかもしれません。
「詩人のタブロー画がある壁画断片」(部分) 後1世紀 ポンペイ監督局
「詩人のタブロー画がある壁画断片」も美しい。高さは3メートルと巨大です。中央にはやや小さな絵のモチーフ。3人の人物が表されています。詩人は一番左の人物です。古代ギリシア風の白いマントを身につけています。右は女性、文芸の女神ことムーサとも言われています。
庭園の描写も色鮮やかです。たわわになる実はリンゴでしょうか。さらにバラ、また壺の姿も垣間見えます。草木は繁茂していて生命感にも満ちています。ちなみにこの壁画が断片であるのは一度、地震で破損し、新しい絵を描くため、打ち捨てられたからだと考えられているそうです。壁画にも主人の好みが反映されたのかもしれません。
カルミアーノの農園別荘(壁画を一連の空間装飾として再現した展示イメージ)
圧巻なのは「カルミアーノ農園別荘」の壁画の立体展示でした。ぐるりと一周、一室を取り囲む壁画群。食堂を飾っていたものです。ポセイドンやケレス、デュオニソスといったギリシアの神々が描かれています。中でも目立つのはデュオニソスです。言わずと知れた酩酊の神。食堂に相応しい主題なのでしょう。ほかには海を泳ぐ獣もいます。ちなみに多くの壁画にギリシアの神、とりわけデュオニソスが描かれていますが、これは同地域がワインの産地であったことに由来するそうです。
「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」 後1世紀 ナポリ国立考古学博物館
ハイライトは「赤ん坊のテレフォスを発見するヘラクレス」でした。おおよそ2メートル四方の大画面、右に立つのがヘラクレスです。後向きの姿で、どこか泰然としながら左下の方へ目をやっています。視線の先がテレフォスでした。赤ん坊です。なんと牝鹿の乳に口を当てて飲んでいます。その上、一際目立っているのがアルカディアです。目を大きく見開いては堂々と座っています。彼は物語の舞台を擬人化するための像です。いわゆる主役ではありません。
街の皇帝崇拝の場である「アウグステウム」から出土したそうです。重要な場所を飾るための特別な作品だったのでしょうか。キャプションではかのラファエロになぞらえていましたが、確かに実に優美でかつ絵画的でした。
一方で小さな作品も見逃せません。例えば「小鳥」。小鳥のみ描かれた欠片ですが、筆致が細かい。ふとファブリティウスの絵画を思い出しました。同じく小品の「コブラとアオサギ」は格闘のシーンです。蛇は舌を出して威嚇しています。なかなか真に迫っています。
「踊るマイナス」も見応えがありました。マイナスとはデュオニソスの信女です。手を広げ、足でステップを踏みながら踊っています。背景は黒。浮かび上がるのは黄金色に染まるマイナスの姿です。着衣は透けているようで美しい。この色味、とても今から2000年前のものとは思えません。
「ケイロンによるアキレウスの教育」 後1世紀 ナポリ国立考古学博物館
全て壁画に特化したポンペイ展。調度品や彫像などは一切ありません。しかしながら質の高い壁画がばかり。これほどのスケールで見たのは初めてです。想像以上に充実していました。
隣のセーラームーン展は混んでいるようでしたが、ポンペイ展は大変に空いていました。じっくりと各々のペースで楽しめます。
会期中は無休です。7月3日まで開催されています。おすすめします。
「日伊国交樹立150周年記念 世界遺産 ポンペイの壁画展」(@pompei2016) 森アーツセンターギャラリー
会期:4月29日(金・祝)~7月3日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00
*入館は閉館時間の30分前まで。
*5月3日をのぞく火曜日は17時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、高校・大学生1300(1100)円、小学・中学生600(400)円。未就学児は無料。
*( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )