「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」 山種美術館

山種美術館
「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」 
5/31~6/26



山種美術館で開催中の「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」を見てきました。

かつて「日本画の奨励、普及活動の一環として」(展覧会サイトより)活動していた山種美術館賞。1971年から1997年の間、隔年で14回ほど行われていたそうです。


長谷川雅也「唯」 2016年 優秀賞

その賞が約20年の時を経て新たに衣替えしました。名は「Seed 山種美術館 日本画アワード」。公募展です。対象は45歳以下の画家。日本画の画材を用いた作品に限られます。259点もの応募がありました。その後、一次、本審査を経て、40名の入選者を選定。大賞以下、優秀賞、特別賞、審査員奨励賞の4点が決まりました。

今岡一穂の「虚と実」に魅せられました。3名の若い女性、同じモデルでしょうか。ポーズを変えて立っています。皆同じ黒いドレス。地の黒も滲んでいます。細い輪郭線はまるで仏画を象るかのようです。均一でかつ滑らかでした。一番右の女性は右手を左手首に添えて正面を見据えます。中央はやや右を向きます。最も動きがあるのは左の女性です。両手で腰のあたりの服を引っ張っています。黒田清輝の「智・感・情」を思い出しました。人の何らかの意思、ないし感情を表現しているのかもしれません。

やや異色なのが漆原夏樹の「彼女の風景」です。彼女とあるようにモチーフは確かに女性。しかし背には山が連なり、両腕を岩が支えています。人物と山水画が融合したかのようでした。

冬の野原を表したのが江川直也の「冬三日月」です。ねずみ色の空に白い三日月が浮かんでいます。雪原には一本の小道が林の方へと向かっていました。人の足跡によって出来た轍です。雪は多く水分を含んでいるのかもしれません。シャーベットと化しているように見えました。踏み込めばじゃりじゃりと音が聞こえてくるかのようです。

同じく自然の光景を示した加藤丈史の「畔」も美しいのではないでしょうか。湖畔の葦、まるで影絵のようなシルエットです。よく見ると氷のような白い粒がまとわりついています。凍りついているのかもしれません。静けさに包まれた真冬の光景を巧みに描いていました。

北川安季子の「対自ーハシビロコウ」が充実しています。獰猛な姿をした鳥。鷲のようにも見えます。両側の羽を振り上げてはさも威嚇するように立っていました。足元は澱んだ水。湯気がたっているのでしょうか。ただならぬ気配です。この世のものとは思えません。


京都絵美「ゆめうつつ」 2016年 大賞

受賞作の4点は会場の最奥部に展示されています。栄えある大賞は京都絵美の「ゆめうつつ」。文句なしの力作です。横たわっては身をくねらせる女性。目は開いています。腕を枕にしていました。顔から手足はうっすら白い光を放っています。驚くのはドレスの細かな模様でした。やや紫を帯びた白の線は実に緻密、それ自体が際立って見えます。背後は霧に包まれているなのか、それとも花畑なのか判然としません。今にも微睡もうとしているのでしょうか。妖艶でした。


狩俣公介「勢焔」 2016年 特別賞

特別賞は狩俣公介です。作品は「勢焔」。潜水艦でしょうか。白い水しぶきをあげながら黒い大きな物体が浮上しています。西洋美術館にあるブラングィンの「しけの日」を連想しました。水を掻き分け、凄まじい勢いで現る潜水艦。ただならぬ迫力が感じられます。


外山諒「Living Pillar」 2016年 審査員奨励賞

審査員奨励賞を受賞したのは外山諒。入選者で最も若い21歳の画家です。現在も愛知県立芸術大学で日本画を学んでいます。「Living Pillar」で描いたのは木の幹にとまる蝶、ないし蛾でしょうか。木目が広がり、そこに蛾が羽を休めています。中央部分のみ僅かに明るい。速水御舟の「炎舞」を思わせる面があるやもしれません。

彦川侑姫の「太陽円」が強烈です。一面のサークル。金泥です。驚くほど線は細い。まるで仏画の曼荼羅の如くに模様が広がります。宇宙をテーマとしているそうです。太陽は無限の彼方にまで光り輝いています。

山本真澄の「後ろの正面だぁれ」も面白いのではないでしょうか。いずれも白い服を着た子どもたち。空き地なのか、広場で遊ぶ様子が描かれています。中央は尾長鶏でしょうか。実にカラフルです。やや俯瞰した構図が個性的でもあります。

損保ジャパンの「FACE展2016」でも優秀賞を受賞した三鑰彩音も入選しています。タイトルは「依存」です。モデルはFACE展作同様に若い女性。同じく顔のアップです。やや横を向いています。長くボリュームのある髪の毛は時に金色を交えては装飾的に広がっています。肌の質感も美しい。すました表情も魅惑的でした。


丹羽尚子(貴子)「ひとりごと」 1977年 第4回山種美術館賞展優秀賞

出品は入選作全点の40点。さらにあわせて過去の山種美術館賞の受賞作も展示しています。昭和46年から52年にかけて行われた第1回から第4回展の作品です。そちらは計12点でした。

審査風景を捉えた写真パネルや日本画の画材について紹介するコーナーもありました。ほか受賞作家のクロッキーや小下図も参照しています。

独特な瑞々しい質感表現に長けた作品が目立ちました。繊細で豊かな画肌のニュアンス。図版では分からない魅力は確かに存在します。

間もなく会期末です。6月26日まで開催されています。

「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:5月31日(火)~6月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般700(500)円、大・高生500(300)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
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