都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ルノワール展」 国立新美術館
国立新美術館
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」
4/27~8/22
国立新美術館で開催中の「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」のプレスプレビューに参加してきました。
フランスの印象派を代表するピエール=オーギュスト・ルノワール。その最高傑作とも呼ばれる「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が初めて日本の美術館の展示室へやって来ました。
まさしく色彩の躍動です。縦1メートル30センチ、横1メートル70センチ超の大画面。舞台はモンマルトルのふもとにオープンしたダンスホールです。当時、名物の焼き菓子のガレット(ギャレット)が人気を集めていたことから、この名で呼ばれました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」 1876年 オルセー美術館
たくさんの若者が踊りや会話に興じています。一体、何名描かれているのでしょうか。中央のベンチに座るのがユステル。仕立て屋の娘です。そして彼女にもたれかかるのは姉のジャンヌ。「ぶらんこ」でもモデルを務めました。さらに手前のテーブルを囲む男は画家仲間です。一人はパイプを楽しんでいます。奥にも大勢の人々。ほぼ全ての人物が笑みをこぼしています。身をくねらせ、寄せ合い、手を取り合う。これほど多幸感に満ちた作品もなかなかありません。
地面には木漏れ日が降り注ぎます。ここでは光が全て色で表現されています。白く灯し、水色に染まっています。筆触は細かい。全てが揺らめいても見えます。まるで雲の上にいるかのようです。人々は幸せの瞬間を分け隔てなく享受しています。どことなく白昼夢を前にしたかのような感覚に襲われました。ひたすらに美しい。ため息すら洩れてしまいます。
この「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と同様、ダンスをモチーフにした作品があります。それが2つのダンス、「田舎のダンス」と「都会のダンス」です。ともに制作年はムーランの7年後。対と言っても差し支えありません。ちなみに両作品が同時に来日したのは約45年ぶりのことでもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「都会のダンス」 1883年 オルセー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「田舎のダンス」 1883年 オルセー美術館
「田舎のダンス」のモデルはルノワールの後の妻となるアリーヌです。花の柄でしょうか。白のドレスを着ています。頭には赤い帽子。日本の扇子を振り上げています。腰をかなり落とし、さも男性に寄りかかるような姿です。よく見ると舞台の左下に子どもらしき顔が見えます。アリーヌは歯を見せるほど笑っています。ダンスを楽しんでいるようです。
一方の「都会のダンス」はどうでしょうか。モデルはかのユトリロの母で画家でもあるシュザンヌ・ヴァラドンです。腰をぐっと入れて男性に密着しています。立ち姿はより美しい。姿勢に無理がありません。一方で表情はやや憂いを帯びているようにも見えます。また気がつけば田舎ではかなり厚手のドレスを着ているのに対し、都会は背中を出した薄手のそれを身につけています。ルノワール自身、ここに田舎と都会だけでなく、夏と冬を対比させていたそうです。
ちなみにこの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と「田舎のダンス」に「都会のダンス」、会場ではちょうど向かい合うように展示されています。テーマは「現代生活を描く」です。この3点に加え、先のジャンヌが登場する「ぶらんこ」や舟遊びを描いた「アルフォンシーヌ・フルネーズ」なども並んでいます。
左:フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルのダンスホール」 1888年 オルセー美術館
さらに興味深いのはルノワール以外の同時代の画家も参照されていることです。例えばティソの「夜会あるいは舞踏会」。着飾った女性がパーティ会場に入ろうとしています。サテンドレスの鮮やかな黄色は実に美しい。ベローの「夜会」やゴッホの「アルルのダンスホール」も同じく舞踏会、ないしダンスをモチーフとしています。ほかルノワール次男のジャンがムーラン・ルージュの様子を描いた映画までをあわせ見ています。
つまりダンス、酒場、カフェなど、当時の現代、19世紀のパリに特徴的な都市生活を、様々な作品から検証しているわけです。
ここで全体について触れておきたいと思います。この「現代生活を描く」は第4章。展覧会自体は10章構成です。かなり細かく分かれています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫と少年」 1868年 オルセー美術館
冒頭は「印象派へ向かって」。マネやクールベの影響を受けた「猫と少年」と、その約8年後に制作され、第2回印象派展にも出品された「陽光のなかの裸婦」の2点が展示されています。
必ずしも制作年代順に並んでいるわけではないのもポイントです。その後、肖像、風景、さらにルノワールが良く描いた子どもの作品、花の絵などと続きます。先の現代生活同様、基本的にはテーマ別の展示です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジョルジュ・アルトマン夫人」 1874年 オルセー美術館
肖像では「ジョルジュ・アルトマン夫人」に魅せられました。黒いドレスをまとい、扇子を手にした夫人。得意気にポーズをとっています。フリルやリボンの装飾は贅沢です。奥にはグランドピアノがあり、一人の少女が譜面に向き合っていました。右奥には一枚の絵画が垣間見えます。布張りのソファは重厚で、絨毯にも豊かな質感があります。壁のクロスが装飾的でした。草花のモチーフでしょうか。縦は180センチ超と大きい。ルノワールでは初めての室内における全身肖像画でもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「草原の坂道」 1875年頃 オルセー美術館
1870年代は油彩の4分の1を風景画が占めていたそうです。「草原の坂道」はどうでしょうか。一面に草の生えた丘。中央に白い小道がのびています。ちょうど坂の途中に人の姿があります。どうやら坂を降りてはこちらへやって来ているようです。親子でしょうか。夫人は白いドレスを着ています。日差しが強いのかもしれません。赤い日傘を差していました。坂の上にも2人。こちらは大人の男女です。筆触は荒々しく、草の表現はまるで殴り書きのようでした。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネ、あるいは猫を抱く子ども」 1887年 オルセー美術館
子どもの作品では「ジュリー・マネ あるいは猫を描く子ども」が美しい。モデルは画家のマネの弟でウジェーヌの子、ジュリーです。当時9歳。猫を抱いて座っています。見るたびに感じるのは表情が大人びているということです。やや流し目でこちらを見やります。口元にはうっすら笑みも浮かんでいました。もちろん可愛らしくありますが、どこか気品を感じるのではないでしょうか。
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「静物」 1885年頃 オルセー美術館
ルノワールは生涯にわたり約300枚の花の絵を描きました。うちやや古典的なのが「静物」です。テーブルクロス上の果実と花瓶。白と赤の花が入れられています。瓶はガラスです。手前の果実を反射しています。ルノワールは花の絵に際して時に大胆な色遣いを試みています。花の絵における「試行錯誤から得られた経験を、他の絵に応用する」との言葉も残しています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」 1897-1898年頃 オランジュリー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」 1892年 オルセー美術館
かつてブリヂストン美術館のドビュッシー展のチラシ表紙を飾った「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」も再びやって来ました。舞台はコレクターであったアンリ・ルロルのサロン。かのドビュッシーをはじめとする音楽家らも集っていました。興味深いのは同じピアノを弾くモチーフである「ピアノを弾く少女たち」と並んで展示されていることです。
後者はイヴォンヌらの作の約5年前に描かれたもの。モデルは分かっていません。やはり同じようにピアノへ2人の女性が向き合っています。色調は全体的に明るく、とりわけ鍵盤に手をやる女性の白いドレスが美しい。長いブロンドの髪も鮮やかです。さらに金の椅子のパイプ、ないし奥の室内にも同じような金、ないし黄色が用いられています。曲を口ずさんでいるのでしょうか。僅かに口が開いてもいました。
ラスト、第10章は裸婦です。とりわけ画業晩期、1900年以降に手掛けた作品に着目しています。そもそもルノワールは最初期、1860年代に早くも裸婦に取り組んでいましたが、次第に遠ざかり、続く20年間はあまり描きませんでした。再び裸婦に向き合ったのは1890年代以降のことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「浴女たち」 1918-1919年 オルセー美術館
人生最後の数ヶ月に制作されたのが「浴女」です。身体は既にリウマチに侵され、手も自由に動かなかったそうです。にも関わらず、この豊かな色遣い。緑の中で横たわってはくつろぐ浴女たちも生命感に満ち溢れています。楽園を連想しました。表現の衰えを殆ど感じさせることがありません。
作品は全部で100点ほど。ルノワールが大半を占めていますが、一部にほかの画家を含みます。全てがオルセーとオランジュリー美術館のコレクションです。ここしばらく様々なルノワール展を見てきましたが、質量ともに今回の展示を超えるものはなかったのではないでしょうか。極めて充実していました。
最後に会場内の状況です。開幕よりおおよそ1ヶ月半以上が経過。会期は中盤を迎えました。私もプレビューに次いで、6月4日の土曜日、改めて観覧してきました。
屋外のチケットブース、および入口での入場待ちの列はありませんでした。ただし場内はさすがに盛況。特にはじめの方の展示室は各作品の前で多くの方が見入っていました。
目玉の「ムーラン・ ド ・ ラ・ギャレットの舞踏会」も4~5重の人だかり。係の方による「前へおすすみ下さい。」のアナウンスもなされていました。
ただし会場自体が広いこともあるのか、そのほかの作品に関しては特に列などもなく、自分のペースで好きなように見ることができました。
6月初旬の段階では余裕があるようです。とはいえ、何かと話題の展覧会です。終盤は大変な混雑も予想されます。毎週金曜の夜間開館も有用となるかもしれません。
8月22日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:4月27日(水)~8月22日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金曜日は夜20時まで開館。
*8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
* ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」
4/27~8/22
国立新美術館で開催中の「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」のプレスプレビューに参加してきました。
フランスの印象派を代表するピエール=オーギュスト・ルノワール。その最高傑作とも呼ばれる「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」が初めて日本の美術館の展示室へやって来ました。
まさしく色彩の躍動です。縦1メートル30センチ、横1メートル70センチ超の大画面。舞台はモンマルトルのふもとにオープンしたダンスホールです。当時、名物の焼き菓子のガレット(ギャレット)が人気を集めていたことから、この名で呼ばれました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」 1876年 オルセー美術館
たくさんの若者が踊りや会話に興じています。一体、何名描かれているのでしょうか。中央のベンチに座るのがユステル。仕立て屋の娘です。そして彼女にもたれかかるのは姉のジャンヌ。「ぶらんこ」でもモデルを務めました。さらに手前のテーブルを囲む男は画家仲間です。一人はパイプを楽しんでいます。奥にも大勢の人々。ほぼ全ての人物が笑みをこぼしています。身をくねらせ、寄せ合い、手を取り合う。これほど多幸感に満ちた作品もなかなかありません。
地面には木漏れ日が降り注ぎます。ここでは光が全て色で表現されています。白く灯し、水色に染まっています。筆触は細かい。全てが揺らめいても見えます。まるで雲の上にいるかのようです。人々は幸せの瞬間を分け隔てなく享受しています。どことなく白昼夢を前にしたかのような感覚に襲われました。ひたすらに美しい。ため息すら洩れてしまいます。
この「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と同様、ダンスをモチーフにした作品があります。それが2つのダンス、「田舎のダンス」と「都会のダンス」です。ともに制作年はムーランの7年後。対と言っても差し支えありません。ちなみに両作品が同時に来日したのは約45年ぶりのことでもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「都会のダンス」 1883年 オルセー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「田舎のダンス」 1883年 オルセー美術館
「田舎のダンス」のモデルはルノワールの後の妻となるアリーヌです。花の柄でしょうか。白のドレスを着ています。頭には赤い帽子。日本の扇子を振り上げています。腰をかなり落とし、さも男性に寄りかかるような姿です。よく見ると舞台の左下に子どもらしき顔が見えます。アリーヌは歯を見せるほど笑っています。ダンスを楽しんでいるようです。
一方の「都会のダンス」はどうでしょうか。モデルはかのユトリロの母で画家でもあるシュザンヌ・ヴァラドンです。腰をぐっと入れて男性に密着しています。立ち姿はより美しい。姿勢に無理がありません。一方で表情はやや憂いを帯びているようにも見えます。また気がつけば田舎ではかなり厚手のドレスを着ているのに対し、都会は背中を出した薄手のそれを身につけています。ルノワール自身、ここに田舎と都会だけでなく、夏と冬を対比させていたそうです。
ちなみにこの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」と「田舎のダンス」に「都会のダンス」、会場ではちょうど向かい合うように展示されています。テーマは「現代生活を描く」です。この3点に加え、先のジャンヌが登場する「ぶらんこ」や舟遊びを描いた「アルフォンシーヌ・フルネーズ」なども並んでいます。
左:フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルのダンスホール」 1888年 オルセー美術館
さらに興味深いのはルノワール以外の同時代の画家も参照されていることです。例えばティソの「夜会あるいは舞踏会」。着飾った女性がパーティ会場に入ろうとしています。サテンドレスの鮮やかな黄色は実に美しい。ベローの「夜会」やゴッホの「アルルのダンスホール」も同じく舞踏会、ないしダンスをモチーフとしています。ほかルノワール次男のジャンがムーラン・ルージュの様子を描いた映画までをあわせ見ています。
つまりダンス、酒場、カフェなど、当時の現代、19世紀のパリに特徴的な都市生活を、様々な作品から検証しているわけです。
ここで全体について触れておきたいと思います。この「現代生活を描く」は第4章。展覧会自体は10章構成です。かなり細かく分かれています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫と少年」 1868年 オルセー美術館
冒頭は「印象派へ向かって」。マネやクールベの影響を受けた「猫と少年」と、その約8年後に制作され、第2回印象派展にも出品された「陽光のなかの裸婦」の2点が展示されています。
必ずしも制作年代順に並んでいるわけではないのもポイントです。その後、肖像、風景、さらにルノワールが良く描いた子どもの作品、花の絵などと続きます。先の現代生活同様、基本的にはテーマ別の展示です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジョルジュ・アルトマン夫人」 1874年 オルセー美術館
肖像では「ジョルジュ・アルトマン夫人」に魅せられました。黒いドレスをまとい、扇子を手にした夫人。得意気にポーズをとっています。フリルやリボンの装飾は贅沢です。奥にはグランドピアノがあり、一人の少女が譜面に向き合っていました。右奥には一枚の絵画が垣間見えます。布張りのソファは重厚で、絨毯にも豊かな質感があります。壁のクロスが装飾的でした。草花のモチーフでしょうか。縦は180センチ超と大きい。ルノワールでは初めての室内における全身肖像画でもあります。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「草原の坂道」 1875年頃 オルセー美術館
1870年代は油彩の4分の1を風景画が占めていたそうです。「草原の坂道」はどうでしょうか。一面に草の生えた丘。中央に白い小道がのびています。ちょうど坂の途中に人の姿があります。どうやら坂を降りてはこちらへやって来ているようです。親子でしょうか。夫人は白いドレスを着ています。日差しが強いのかもしれません。赤い日傘を差していました。坂の上にも2人。こちらは大人の男女です。筆触は荒々しく、草の表現はまるで殴り書きのようでした。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジュリー・マネ、あるいは猫を抱く子ども」 1887年 オルセー美術館
子どもの作品では「ジュリー・マネ あるいは猫を描く子ども」が美しい。モデルは画家のマネの弟でウジェーヌの子、ジュリーです。当時9歳。猫を抱いて座っています。見るたびに感じるのは表情が大人びているということです。やや流し目でこちらを見やります。口元にはうっすら笑みも浮かんでいました。もちろん可愛らしくありますが、どこか気品を感じるのではないでしょうか。
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「静物」 1885年頃 オルセー美術館
ルノワールは生涯にわたり約300枚の花の絵を描きました。うちやや古典的なのが「静物」です。テーブルクロス上の果実と花瓶。白と赤の花が入れられています。瓶はガラスです。手前の果実を反射しています。ルノワールは花の絵に際して時に大胆な色遣いを試みています。花の絵における「試行錯誤から得られた経験を、他の絵に応用する」との言葉も残しています。
左:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」 1897-1898年頃 オランジュリー美術館
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノを弾く少女たち」 1892年 オルセー美術館
かつてブリヂストン美術館のドビュッシー展のチラシ表紙を飾った「ピアノを弾くイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」も再びやって来ました。舞台はコレクターであったアンリ・ルロルのサロン。かのドビュッシーをはじめとする音楽家らも集っていました。興味深いのは同じピアノを弾くモチーフである「ピアノを弾く少女たち」と並んで展示されていることです。
後者はイヴォンヌらの作の約5年前に描かれたもの。モデルは分かっていません。やはり同じようにピアノへ2人の女性が向き合っています。色調は全体的に明るく、とりわけ鍵盤に手をやる女性の白いドレスが美しい。長いブロンドの髪も鮮やかです。さらに金の椅子のパイプ、ないし奥の室内にも同じような金、ないし黄色が用いられています。曲を口ずさんでいるのでしょうか。僅かに口が開いてもいました。
ラスト、第10章は裸婦です。とりわけ画業晩期、1900年以降に手掛けた作品に着目しています。そもそもルノワールは最初期、1860年代に早くも裸婦に取り組んでいましたが、次第に遠ざかり、続く20年間はあまり描きませんでした。再び裸婦に向き合ったのは1890年代以降のことです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「浴女たち」 1918-1919年 オルセー美術館
人生最後の数ヶ月に制作されたのが「浴女」です。身体は既にリウマチに侵され、手も自由に動かなかったそうです。にも関わらず、この豊かな色遣い。緑の中で横たわってはくつろぐ浴女たちも生命感に満ち溢れています。楽園を連想しました。表現の衰えを殆ど感じさせることがありません。
作品は全部で100点ほど。ルノワールが大半を占めていますが、一部にほかの画家を含みます。全てがオルセーとオランジュリー美術館のコレクションです。ここしばらく様々なルノワール展を見てきましたが、質量ともに今回の展示を超えるものはなかったのではないでしょうか。極めて充実していました。
最後に会場内の状況です。開幕よりおおよそ1ヶ月半以上が経過。会期は中盤を迎えました。私もプレビューに次いで、6月4日の土曜日、改めて観覧してきました。
屋外のチケットブース、および入口での入場待ちの列はありませんでした。ただし場内はさすがに盛況。特にはじめの方の展示室は各作品の前で多くの方が見入っていました。
目玉の「ムーラン・ ド ・ ラ・ギャレットの舞踏会」も4~5重の人だかり。係の方による「前へおすすみ下さい。」のアナウンスもなされていました。
ただし会場自体が広いこともあるのか、そのほかの作品に関しては特に列などもなく、自分のペースで好きなように見ることができました。
6月初旬の段階では余裕があるようです。とはいえ、何かと話題の展覧会です。終盤は大変な混雑も予想されます。毎週金曜の夜間開館も有用となるかもしれません。
8月22日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」 国立新美術館(@NACT_PR)
会期:4月27日(水)~8月22日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
*毎週金曜日は夜20時まで開館。
*8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
* ( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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