「フランスの風景 樹をめぐる物語」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
「フランスの風景 樹をめぐる物語ーコローからモネ、ピサロ、マティスまで」 
4/16~6/26



東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「フランスの風景 樹をめぐる物語」を見てきました。

チラシ表紙からして樹木です。名はドービニーの「ヴァルモンドワの下草」。パリ北西約30キロに位置するセーヌの支流の村を描いた作品です。ともかく目に飛び込んでくるのが高木です。小川も流れています。その側に2人の婦人がいました。身なりが良い。白いドレスを着ています。ピクニックの最中かもしれません。奥には1人の紳士も垣間見えます。まさしく森林浴です。思わず絵の前で深呼吸したくなります。


カミーユ・コロー「エトルタ近くの風景」 1872年 フォン・デア・ハイト美術館、ヴッパータール

振り返れば、バルビゾン派に留まらず、印象派前後の画家たちは、フランス各地の野山に繰り出しては、樹木のある風景を描き出しました。

ルソーの「バルビゾン、夕暮れの牧草地」も美しい。夕陽は全てをオレンジやピンクに染めています。中央に樹木です。その手前で牛が群れをなしています。間もなく日没を迎える僅かな時間の光を巧みに表しています。

ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャの「フォンテーヌブローの樫の木 怒れる者」の主役も樹木でした。中央に堂々とそびえ立つ樫の大木。枝をさも手足をばたつかせるように延ばし、どこか荒ぶっているようにも見えます。その姿から「怒れる者」の名が付けられたそうです。


クロード・モネ「ヴェトゥイユの河岸からの眺め、ラヴァクール(夕暮れの効果)」 1880年頃 個人蔵

バルビゾン派の画家が仕上げをアトリエで作品を完成させたのに対し、印象派の画家はスケッチから仕上げを全て屋外でするようになりました。モネの「ヴェトゥイユの河岸からの眺め、ラヴァクール」が見事です。舞台はパリの北西、約50キロの地点。もちろんセーヌ沿いです。モネは本作に先立つこと2年前に同地へ移住。風景を描き出しました。

夕景とありながらも陽はまだ高く、光は水面から樹木を明るく照らしています。対岸に広がるのがラヴァクールの街並みです。家々が立ち並んでいます。筆触は強く、色もやや濃い。樹木は光を求めて大きく伸びています。ざわめく水面も美しい。うっすらピンク色が混じっています。


レオ・ゴーソン「樹木の向こうの村」 1890年 個人蔵

リュスやシニャックなどの新印象派についての参照が多いのもポイントです。うち惹かれたのはレオ・ゴーゾン。「樹木の向こうの村」でした。いわゆる点描の技法です。樹木は4本。手前へ長い影をのばしています。葉の大部分は画面の外に飛び出していました。半ばトリミングでしょうか。そして奥の街並み。教会の尖塔が望めます。街へ小径が続くも、人影はありません。真夏なのでしょうか。眩しいまでの光に満ち溢れています。

樹木があるのは何も郊外の里山だけではありません。たとえばシャルル・フレションの「コショワーズ広場、ルーアン」は同市の広場の街路樹を描いたもの。規則正しく並んでいます。その下を多くの人々が行き交っています。

シャルル・アングランの「ル・クロ・ノルマンディー」は点描というよりもモザイクと呼んでも良いのかもしれません。粒の大きな筆触は画面全体を支配。辛うじて手前の樹木と左奥の家のみのモチーフだけを確認することが出来ます。あとはもはや抽象です。色はそれぞれにせめぎ合い、風景は判然としません。


フェリックス・ヴァロットン「オンフルールの眺め、朝」 1912年 オワーズ県美術館、ボーヴェ

ラストは20世紀のナビ派、象徴派、そしてフォーヴでした。ヴァロットンの「オンフルールの眺め、朝」はいかにも画家らしい独特な構図感のある作品です。前景へ天高く伸びる樹木を大胆なまでに配し、遠くには港町を小さく描いています。ヴァロットンは時に記憶を頼りにして風景を再構成しました。ゆえに実際の景色か定かではありません。

ポール・セリュジエの2点、「森の中の焚火」と「急流の側の幻影、または妖精たちのランデヴー」も魅力的ではないでしょうか。舞台はブルターニュ。森の中を妖精が歩いています。神秘的な光景です。確かに森は古来より様々な物語や伝説を生みだしてきました。樹木の一つとっても例えばオークはゼウスのシンボルであり、オリーブはアテナのそれであったりとエピソードに事欠きません。


ギュスターヴ・カイユボット「セーヌ河岸、プティ・ジュヌヴィリエ」 1870年頃 アルジャントゥイユ美術館(カミーユ・ピサロ美術館寄託)

出品は約100点。全てが油彩ではありません。水彩、版画、鉛筆画も含まれます。また一部を除き、ほぼ海外の美術館、ないしは個人のコレクションです。見慣れない、聞き慣れない画家の参照も少なくありません。その意味では諸々と発見も多い展覧会でした。

気がつけば、常設のゴーギャンの「アリスカンの並木路」にも樹木が描かれています。オレンジ、ないし黄色の葉を付けた大木。落葉は道を秋色に染めています。とはいえ、筆使いは力強い。所々、さも炎が揺らめいているようにも見えます。何度も目にした作品ではありますが、不思議といつも以上の迫力を感じました。



会場内、余裕がありました。6月26日まで開催されています。

「フランスの風景 樹をめぐる物語ーコローからモネ、ピサロ、マティスまで」 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館
会期:4月16日(土)~6月26日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(1000)円、大学・高校生800(650)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )