「ブータン展」 上野の森美術館

上野の森美術館
「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」 
5/21~7/18



上野の森美術館で開催中の「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」を見てきました。

南アジア、ヒマラヤ山脈の南に位置するブータン王国。2011年には第5代ジグミ・ケサル国王、ジツェン・ペマ王妃も来日し、今年、外交関係樹立30周年を迎えたそうです。

国内では初めてのブータンの文化を本格的に紹介する展覧会です。主たるテーマは「しあわせの国」。先代の国王が提唱した「国民総幸福」(Gross National Happiness)の概念に基づきます。

とは言え、何も殊更に幸せ云々を強調しているわけでもありません。場内には同国の文化を伝える文物がずらり。ほぼ全てが仮面、染織、ないし装身具と、仏教美術で占められています。それに一部、王室の衣装のコレクションなどが加わっていました。

1階展示室の撮影が可能でした。


「バルド・チャムの面」

まずは仮面です。見るも色鮮やか。ブータンの祭りであるツェチュのハイライト、チャムと呼ばれる仮面舞踏で用いられる作品です。僧侶たちは極彩色の衣装をつけては踊り出します。その様子は映像でも紹介されていました。


「ダミツェの太鼓踊りの面」

チャムには大きく分けて3種類あるそうです。一つは幻視や夢を見るための踊り。もう一つは伝記です。高僧や師の生涯を演じます。3つ目は征服。悪の力を鎮圧する力を表現しています。仮面はまさに多種多様。人であったり獣であったり、鳥であったりします。会場の通路を所狭しと飾り立てる仮面群。さもブータンの祭りの場へと誘われるかのようでした。


右上:蓋物「ダバ」 現代 ブータン王国国立博物館
右下:クレ用フライパン「ゴラン」 15世紀 ブータン王国国立博物館


次いではブータンの生活を伝える道具類です。そば粉のパンケーキを入れる蓋物のダバや、それを焼くためのフライパンことゴランなどが並びます。ふとキャプションを見やるとゴランの制作年代が15世紀でした。名工、ペマ・リンガの手によって作られたと考えられているそうです。


惣菜の器「ツォマイドゥプ」 20世紀初期 ブータン王国国立博物館

面白いのはツォマイドゥプです。高さは30センチほど。おかずを入れて運ぶための器です。側面に表されたのは寿の文字。切抜きで表現しています。


鞘付きの刀「パタ・チュリチェン」 18世紀 ブータン王国国立博物館

刀剣はいずれも直刀でした。ブータンでの刀は権力の象徴、おおよそ20種類ほどあるそうです。鞘の部分には銀で細かな装飾もなされています。


女性用ブローチ「コマ、ジャプタ」 20世紀 ブータン王立テキスタイルアカデミー

装身具ではトルコ石を多用した作品が目立ちました。例えば女性用ブローチの「コマ、ジャプタ」。写真では分かりにくいかもしれませんが、上部の透かし彫りの部分にトルコ石がはめ込まれています。透かしは花や龍の模様が多い。一方でチェーンは法輪といった宗教的モチーフが繰り返されています。


首飾り「ジュル」 現代 ブータン王国国立博物館

女性の胸元を飾るのが「ジュル」。いわゆる首飾りです。人造サンゴとトルコ石が組み合わさります。緑、青、黄と色も様々。可愛らしくもあります。


女性用衣装「キラ」 20世紀 ブータン王国国立博物館

民族衣装の展示が充実していました。そもそもブータンでは勅令により、公共の場で民族衣装を着用することが定められているそうです。女性用はキラ。一枚布です。それを身体に巻き付けます。一言で言えばカラフル。模様は多様で、幾何学的なデザインも目立ちます。


男性用衣装「ゴ」 20世紀後期 ブータン王国国立博物館

男性用の衣装はゴと呼ばれています。いわゆる羽織です。身分によって着用の仕方が異なるそうです。展示品はシルクが目立ちましたが、かつてはイラクサの繊維の布も多かったそうです。ほか、織り方についてもパネルや映像での展示があります。今もほぼ手織りで制作されています。


レインコート「ヤタ・チェルカプ」 20世紀 ブータン王国国立博物館

レインコートもありました。「ヤタ・チャルカプ」です。素材はウール。ヤクなどと合わせ、かつては雨除けのコートに使われていました。さらに北部のラヤ族の民族衣装なども目を引きます。マネキンによる展示も効果的でした。


「コンツェデモ坐像」 7-8世紀 ブータン王国国立博物館

後半は仏教美術です。ブータンに仏教がもたらされたのは7世紀頃。8世紀には全土に定着します。仏画と仏像が半ば交互に並んでいるのもポイントです。古い作では7~8世紀。「コンツェデモ坐像」です。コンツェデモとは土着の山神の一人。仏教の教えを守る護法神として知られています。姿は女性です。左手で袋を持っています。これは病を封じ込めるためのもの。病気からの守り神として信仰されているそうです。


「グル・パドマサンバヴァ坐像」 16世紀 ブータン王国国立博物館

さらに仏像では16世紀の「グル・パドマサンバヴァ坐像」や17世紀の「ドルジェ・チャン坐像」などが目を引きます。いずれも金銅仏。着衣や冠、ないし装身具の表現もかなり細かい。高い造仏技術があったことが伺えます。


「ドルジェ・チャン父母仏タンカ」 18世紀後期 ブータン王国国立博物館

タンカと呼ばれる仏画も相当数出ていました。「ドルジェ・チャン父母仏タンカ」はブータンでは重要な仏を描いたもの。赤の発色が鮮やかです。素地は絹本ではなく綿本です。ちなみにタンカはいずれもほぼ露出で展示されていました。


ブータン展「民族衣装の流れ」会場風景

ラストは王室に関する展示です。初代、2代国王の帽子や衣装、玉座カバーなども出品。現国王夫妻の衣装も公開されています。

現地、ブータンの人々に「しあわせとは何か。」とインタビューした「しあわせシアター」なる映像もありました。みなさん、家族や友人、それに仕事などに触れながら、幸せについて笑顔で答えています。この幸せ。ともすると漠然とした概念ではありますが、やはり身近なところにあるのかもしれません。



会期中は無休です。7月18日まで開催されています。

「ブータン~しあわせに生きるためのヒント」@bhutan2016) 上野の森美術館
会期:5月21日 (土)~7月18日 (月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1100)円、大学・高校生1000(700)円、小学・中学生600(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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