「いちはらアート×ミックス」 (後編:養老渓谷アートハウス・月出工舎)

千葉県市原市南部地域
「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」
3/21-5/11



「中編:IAAES 旧里見小学校」に続きます。「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」へ行って来ました。

中編:「いちはらアート×ミックス」(IAAES 旧里見小学校)

山登里食堂で腹ごしらえをした後は、さらに南へ向かいます。目的地は養老渓谷の「アートハウスあそうばらの谷」です。築100年超の古民家ギャラリー。大巻伸嗣の「おおきな家」が行われている施設です。

里見地区から養老渓谷へはほぼ山道。右手に深く切り立った谷が見えてきました。専用駐車場は少し手前です。車を停めて駅まで歩きました。


小湊鉄道「養老渓谷駅」

アートミックス最南端の養老渓谷駅に到着です。元々、風光明媚な観光地とも知られる場所。こじんまりとした駅前ながらも案内所や売店も立ち並んでいます。隣には足湯もありました。



さて目当てのアートハウスは線路を挟んで反対側、渓谷の方向にあります。駅脇の小路を抜け、踏切を超えて右折。急な坂を下ると赤いトラス橋が前に迫ってきました。


「養老川」

この橋を渡るとすぐ右手がートハウスです。駅から6~7分でしょうか。それにしても眺めが良いもの。眼下には養老川が流れています。風光明媚です。坂を降りて「アートハウス」へと向かいました。


「アートハウスあそうばらの谷」

これがアートハウスあそうばらの谷。まさに外観は古民家そのもの。やや手狭です。展示スペースに隣接するのは「山覚俵家」。JA市原の女性部による運営のレストランです。地場の山菜を利用した混ぜご飯を提供しています。


「アートハウスあそうばらの谷」入口

入口は奥でした。立派な暖簾が垂れ下がります。残念ながら中は撮影は出来ません。しかしながらあえてお伝えしたいのは、この大巻の展示がすこぶる良いこと。いわゆる個展形式で随所に作品がありますが、ともかく畳あり囲炉裏あり障子ありの古民家の空間を巧みに活かしている。欄間で花を描いた彫刻も見事。意表を突く展開です。そして最後の「煙の部屋」がより魅惑的な作品となっています。

大きなシャボン玉のような球体がゆらゆらと舞い降りてはパチンと跳ね、そして静かに沈み込む瞬間。グレーに染まっていく。周囲は闇です。また再び球体が落ちてくる。その繰り返し。ひたすらに静寂です。時はゆっくりと流れます。正座が相応しいでしょう。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。


開発好明「モグラTV」

アートハウスを見た後は再び坂をあがって駅へ。途中で一つ立ち寄ったのが「モグラTV」です。開発好明さんの展示。と言ってもご覧のように一見すると畑があるだけ。上には人が群がって皆、下を覗き込んでいます。何でしょうか。近づいてみました。


「モグラTV」の中から顔を出して下さった開発さん

するとそこにおられたのは何と開発さんご本人。しかも全身モグラ姿です。実はこれ、アートミックス期間中、開発さん自ら、穴蔵ならぬ地下スタジオからustreamで様々な情報発信をしているもの。ここで参加アーティストの方々はもとより、市原市長の佐久間氏、また小湊鉄道社長の石川氏との対談も行っています。その数40回以上です。右のリンク先でアーカイブ(モグラTVustream)を見ることも出来ます。


「モグラTV」内部 *この中で対談やustream中継を行うそうです

それにしても開発さん、会期中連日、9~17時でこの穴蔵に詰めておられるとか。大変です。開催当初の平日は人が少なく、とても寂しかったそうです。これからアートミックスに出かけられる皆さん、是非とも養老渓谷の「モグラTV」を訪ねてみて下さい。


「月出工舎」へのルート

養老渓谷を離れます。最後の目的地の月出工舎へ。アクセスはやや難ありでしょうか。というのも小湊鉄道沿線ではなく、やや外れた南西部の山中にぽつんとある。ゴルフ場を抜け、細くくねった山道をひたすらに進みます。周遊バスの本数も少なく、一部は乗り継ぐ必要もあります。今回の芸術祭で一番行きにくい場所とも言えそうです。


「月出工舎(旧月出小学校)」入口

月出工舎に到着しました。周囲は完全に山。背後にも崖が迫ります。そして本会場も廃校の旧月出小学校を利用した施設。芸術祭のために一部リノベーションしています。グランドやプールもある。ただIAAES(旧里見小)よりも小規模です。その分、展示も少なめとなっています。


竹村京「この本、開いてもいいですか?」

とは言え、個々には見応えのある作品が多い。例えば竹村京の「この本、開いてもいいですか?」はどうでしょうか。子どもたちが本を読む姿。大きく引き延ばされた写真です。その上には断片的な刺繍の施されたオーガンジーが貼り合わされている。赤や緑の花々。クリスマスツリーに鬼の仮面も見える。レイヤー状にイメージが重なります。また吊るされた布は見開きになり、さも本のような姿をしています。ちなみに写真は一部、月出小に残されていたものを引用しているそうです。


田中奈緒子「Die Vorstellungのためのインスタレーション」

田中奈緒子の「Die Vorstellungのためのインスタレーション」も秀逸です。暗室の中の椅子やランプにタンバリン。それらが時に逆さに吊るされ、電線やロープで連なりながら、床面へと至っている。美しいのは影です。ライトの加減によって屈曲しては表情を変化させる光に影。あたかも木々の枝や蔦が絡まるようでもある。耳を澄ませましょう。鳥のさえずり、また列車のゴトゴトといった音がします。市原界隈で採取したのでしょうか。影と音の織りなすイリュージョン。派手さはありませんが、非常に繊細な作品です。見事でした。


岡博美「光がつくる世界」

屋外へ出ます。プールです。岡博美の「光がつくる世界」。藍染めの生地です。ゆらゆらと風にも靡く姿。藍の青と空の青。木陰をイメージしているのでしょうか。葉や雲のシルエットも見える。晴天ならより映えていたかもしれません。


岩間賢「蔵風得水」

圧巻なのが岩間賢の「蔵風得水」です。斜面を活かした巨大なインスタレーション。崖の途中で横たわる大木。根が露となる。そして曲線を描いて巻き付くのは竹です。さながら生け花の世界。流麗ですらあります。


岩間賢「蔵風得水」

ちなみにこの大木、今年の大雪で崩れた倒木をそのまま利用しているとか。自然の恐るべき力。それを作品へと転化する。何とダイナミックなことではないでしょうか。


「月出工舎(旧月出小学校)」全景

月出工舎、先にも触れたように不便です。ただそれでもこの場所だからこその作品があった。充足感はありました。


藤本壮介「Toilet in Nature」

その後は飯給駅横にある自然公衆トイレ、藤本壮介の「Toilet in Nature」を見学し、帰路につきました。結果的に朝から夕方まで、約6~7時間ほどの観覧でした。

さて初めての「いちはらアート×ミックス」、まずは素直に楽しめました。ただ小湊鉄道を核としたイベントです。自由に行動可能な車は確かに便利ですが、周遊パスなりで鉄道を利用するのが本筋と言えるのかもしれません。そうなるとバスの乗り継ぎがポイントになると思います。ルートは複数。本数も1時間から30分に1本程度です。(GW中は増発便あり。)決して多くはありません。常に時刻表を頭に入れておく必要があります。


「養老渓谷駅」付近を走る小湊鉄道

鉄道に加え廃校が重要なファクターです。美術館よりも旧里見小や旧月出小会場の方が面白かったのも事実です。よって同じく廃校を利用した内田未来楽校やいちはら人生劇場を見られなかったのは心残りでもありました。


「いちはらアート×ミックス」のサイン *各会場付近には幟がたくさん立っています

事前にある程度、展示情報を調べたつもりですが、ともかく公式サイトが見にくくて難儀しました。またチラシも都内はもちろん、県内でも入手出来ませんでした。紙で得る情報も有用です。現地に着くなり、すぐにアクセスマップを探したことを付け加えておきます。なお公式ガイドが美術手帳から発売されていますが、それとは別に簡単なミニ冊子(有料でもOK)があっても良かったかもしれません。

私のおすすめ順はIAAESと養老渓谷のアートハウス、そして月出工舎です。また作品のマイベストはIAAESの冷凍室とアートハウスの大巻さん、月出で崖の斜面を活かした岩間さんです。それに「おかしな教室」や「Die Vorstellung」も楽しく、また美しい。展示のボリュームはIAAESが一番です。少なくとも展示のみの目的であれば、十分に一日で廻りきれると思います。


「飯給駅」を発車する小湊鉄道 *左奥は「開発好明+加茂学園」のかかし

会場となった閉鎖校舎の今後の運用は未定、改めて市が活用を検討していくそうです。芸術祭に際してアーティストの滞在なり地元との交流も多くあったと聞きました。ただ他の芸術祭に見られるような常設を志向した作品は殆どありません。次を睨んだ展開はあるのでしょうか。その辺も大いに気になります。

「里山舞台の芸術祭閉幕 いちはらアート×ミックス」(朝日新聞デジタル)

追記:上記リンク先記事によると2017年に2回目を行う予定だそうです。

最後になりましたが、運営のスタッフの方々がいずれも大変親切に接して下さいました。ありがとうございました。

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」は5月11日まで開催されています。

[いちはらアート×ミックス]シリーズ
前編:「いちはらアート×ミックス」(市原湖畔美術館)
中編:「いちはらアート×ミックス」(IAAES 旧里見小学校)

「美術手帖4月号増刊 いちはらアート×ミックス2014 公式ガイドブック」

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:3月21日(金)~5月11日(日)
休館:会期中無休。
時間:9:30~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般3800円、大学・専門・高校生3300円、中学生1000円、小学生500円、小学生以下無料。
   [個別観覧料]
   ・300円=《Luminous / Light and WindHouse》、内田未来楽校、《サンタルの食堂》、森ラジオステーション
   ・500円=《湖うみの飛行機》、《おおきな家》
   ・800円=IAAES、月出工舎、いちはら人生劇場
   ・1000円=市原湖畔美術館
  *鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。交通チケット(小湊鉄道、及び循環周遊バスの1日乗り放題)を含む。
  *個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:千葉県市原市月出1045(月出工舎)他
交通:JR内房線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。バス停高滝駅入口より周遊バス「北部ルート(左回り)」で旧富山小学校駐車場。周遊バス「月出ルート」に乗り換え、旧月出小学校。
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「いちはらアート×ミックス」 (中編:IAAES 旧里見小学校)

千葉県市原市南部地域
「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」
3/21-5/11



「前編:市原湖畔美術館」に続きます。「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」へ行って来ました。

「いちはらアート×ミックス」 (前編:市原湖畔美術館)

引き続き湖畔美術館から里見地区へ。方角は南、養老渓谷の方です。車なら10~15分ほどで「IAAES」が姿を現します。ちなみにIAAESとは「市原芸術・スポーツ・エトセトラ学校(Ichihara Art/Athlete Etc School)」の略称。昨年に廃校となった旧里見小学校を使った展示プログラム施設です。


「IAAES(旧里見小学校)」外観

この辺りでお昼の少し前。さすがに人出が増します。周遊バスの停留所からもぞくぞく人がやって来ます。駐車場も結構混雑していました。


「IAAES(旧里見小学校)」会場内

それでは学校の中へ入ります。昨年に廃校したということもあり、見た目はほぼ小学校のまま。長い廊下に連なる教室。二階建てです。「一教室=一展示」でしょうか。展示量もかなりありました。

まずは入口付近です。「IAAESプログラム」。学校で一番広い教室を使ってのプロダクション。ディレクターは中崎透です。


中崎透「IAAESプログラム」

目に飛び込んでくるのが黒板に扉に盥や棚にバケツ。中にはバスケットボールを入れるカゴまでも。もちろん小学校の備品です。それらが言わばオブジェと化す。いずれもテキストが添えられていました。


中崎透「IAAESプログラム」

何でもミヒャエル・エンデの「モモ」の引用だそうです。ここ里見小の図書館にあったという訳書。中崎はテキストと場所に繋がりを感じた。時に本のモチーフを備品へ置き換えてみる。テキストは全部で21あります。行き来しながら追いかけてみましょう。不思議な感覚。また新たな物語が開けてくるのではないでしょうか。


豊福亮「美術室」

思わず息のんでしまいます。豊福亮の「美術室」です。床に敷き詰められた赤い絨毯、天井にはシャンデリアが吊るされている。まさに絢爛豪華なる教室。そこに飾られているのが多くのいわゆる泰西名画です。ファン・エイクにレンブラントからフェルメール、そしてコローにゴッホにセザンヌなどまで。一体何点あるのでしょうか。床、壁面問わず、隙間という隙間を絵画が詰め尽くしています。


豊福亮「美術室」

何とこの「名画」はゴンブリッチの「美術の物語」に出てくる作品、111点を複製したものだそうです。手がけたのは60名の美大生。会期中には作家、豊福本人によるワークショップも行われたとのこと。実に濃厚な空間。圧巻でした。


滝沢達史「おかしな教室」

また同じく濃厚といえば滝沢達史の「おかしな教室」も忘れられません。またまた赤絨毯、そして中央にはシャンデリアでしょうか。壁面には一面の装飾が為されている。カラフルです。一体何だろうと近づいてみました。


滝沢達史「おかしな教室」

すると無数のお菓子であることが分かる。小さなパインアメに板チョコレートのパッケージ。窓にはドーナツでしょうか。カーテンはのど飴の袋で出来ています。


滝沢達史「おかしな教室」

タイトルを言い換えればこれぞ「お菓子な教室」です。お菓子の持ち込めない学校という場でお菓子のインスタレーションをする演出。中央には心憎いことに小湊鉄道の鉄道模型も走っています。キャンディーは全5千個。チョコのパッケージも驚くべき数でした。


ミシャ・クバル「スピード・スペース・スピーチ」

IAAES会場、素直に映える作品が目立ちます。ミシャ・クバルの「スピード・スペース・スピーチ」はミラーボールを用いたインスタレーション。暗室に光と文字が投影される。まるで宇宙に瞬く星のように美しい。また面白いのがボールの回転していることです。その所以でしょうか。光や文字が終始揺らいで見える。しばらく立っていると左右の感覚、ようは平衡感覚が危うくなってもきます。


ホアン・スーチェ「シンセティックワールドの再生2014」

ホアン・スーチェの「シンセティックワールドの再生2014」もLEDを使った大掛かりなオブジェです。上下に開く触手。中央には内蔵が露となった人体模型がありました。


角文平「養老山水図」(展示室内)

その他、市原のランドスケープを学習机に再現した角文平の「養老山水図」も良いのではないでしょうか。廊下に突き出す机の脚。その姿自体もダイナミックであります。


角文平「養老山水図」(廊下側)

さてIAAESの最後に一推しの展示を。栗林隆の「プリンシパル・オフィス」です。


栗林隆「プリンシパル・オフィス」 *校長室内が作品にあたります

コンセプトは明快です。「時間を永遠に止め、痕跡を残す」。ようは校長室をマイナス30度で凍らしてしまいます。もちろん校長室の備品や応接セットはそのまま保存されている。そこで来場者は冷凍室と化した校長室の中に入り、かつての学校の記憶を辿っていく。体験型の展示でもあります。


栗林隆「プリンシパル・オフィス」

この展示、実のところかなり人気です。GW中ということもあるでしょう。最大で20~30分の行列も出来ていました。


栗林隆の「プリンシパル・オフィス」

しかしながら並んでてもおすすめしたいもの。体験は1回1~2分(混雑時)。3名ずつ入場出来ます。ともかくご覧の写真のように全てが凍り付いている。とりわけ強烈なのは校長の机の氷柱。また凍ったストーブです。もちろん黒板もソファも賞状もトロフィーも凍っている。冷凍保存された校長室の時間。学校の歴史がある意味で凝縮された場所とも言えるかもしれません。これは楽しめました。

IAAES、他にも数点作品がありますが、結論から申し上げると、この芸術祭で一番見応えのある会場ではないかと思います。私が出向いた時も一際賑わっていました。


「山登里食堂」外観 *目印は外に吊るしてある大根です。

展示を見た後はお腹も減りました。ランチは「山登里食堂」へ。保存食の輪を広げようとする「ぽのわプロジェクト」のカフェ、建物はかつての食堂を利用しています。メニューは房総の特産(イノシシ肉や房総サバ)を盛り込んだサンドイッチやカレー。地産地消の試みです。セットメニューで1000円ほどでしょうか。私はイノシシ肉をソーセージにしたシシッチャサンドを注文。サラダも新鮮です。美味しくいただきました。


「山登里食堂」内部

なおこの日はGW中ということもあってか、どこの飲食施設も混雑していました。提供にも時間がかかります。お昼時、少し早めにとってしまうか、時間に余裕をもっておいたほうが良さそうです。(小湊鉄道の駅で販売されるわっぱ弁当も早々に売り切れていました。)

ともかくものんびり食事を楽しんだ後はアートミックス最奥部、養老渓谷の周辺、及びIAAESと同様に廃校跡の会場「月出工舎」へと移動しました。

「後編:養老渓谷アートハウス・月出工舎」へと続きます。

[いちはらアート×ミックス]シリーズ
前編:「いちはらアート×ミックス」(市原湖畔美術館)
後編:「いちはらアート×ミックス」(養老渓谷アートハウス・月出工舎)

「美術手帖4月号増刊 いちはらアート×ミックス2014 公式ガイドブック」

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:3月21日(金)~5月11日(日)
休館:会期中無休。
時間:9:30~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般3800円、大学・専門・高校生3300円、中学生1000円、小学生500円、小学生以下無料。
   [個別観覧料]
   ・300円=《Luminous / Light and WindHouse》、内田未来楽校、《サンタルの食堂》、森ラジオステーション
   ・500円=《湖うみの飛行機》、《おおきな家》
   ・800円=IAAES、月出工舎、いちはら人生劇場
   ・1000円=市原湖畔美術館
  *鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。交通チケット(小湊鉄道、及び循環周遊バスの1日乗り放題)を含む。
  *個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:市原市徳氏541-1(IAAES 旧里見小学校)他
交通:JR内房線五井駅から小湊鉄道にて飯給駅下車。バス停飯給駅入口より周遊バス「南部ルート」で旧里見小学校。
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「いちはらアート×ミックス」 (前編:市原湖畔美術館)

千葉県市原市南部地域
「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」
3/21-5/11



「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」へ行って来ました。

千葉県のほぼ中央に位置する市原市。その南部で行われているのが現代美術を中心とする芸術祭、「いちはらアート×ミックス」です。おそらくこのクラスの芸術祭は県内で初めてでしょう。会期は全52日間です。既に3月後半より開催されてきました。

私自身、前々から行くつもりではあったものの、なかなかタイミングがとれず、気がつけば会期末を迎えていました。ここにようやくです。GW中に日帰りで廻って来ました。


「高滝湖」を望む

さてアート×ミックス。舞台は今も触れたように市原市の南部です。同市と言えば東京のベットタウンや臨海部の工業地帯のイメージが強いかもしれませんが、芸術祭のエリアはほぼ田園の広がる里山地域。一部は養老渓谷にも代表されるように山間部でもあります。また芸術祭は「過疎化」(公式サイトより)を意識したイベント。そのため美術館のみならず、生徒数減少のために使われなくなった学校、ようは廃校も主たる会場になっています。

展示施設が小湊鉄道沿線に点々と連なっているのもポイントです。具体的には上総牛久駅から養老渓谷駅までの間。約10駅ほどです。よって鉄道が重要なアクセスになっている。周遊も小湊鉄道+周遊バスが一般的です。ただ今回はグループで行動したこともあり、車を利用しました。


「市原湖畔美術館」全景

前置きが長くなりました。アート×ミックスの旅に出発しましょう。京葉道、館山道、圏央道を経由して市原鶴舞インターへ。さすがにGW、途中で渋滞に巻き込まれましたが、幕張から約1時間半ほどで到着。そしてともかく市原は広い。中心地の五井から美術館のある高滝地区まででも20キロ弱もある。インターで降りると周囲は長閑な風景が広がっていました。まず目指したのは市原湖畔美術館。芸術祭の中核施設です。文字通り湖畔、高滝湖のすぐ横に建っています。


「市原湖畔美術館」(アート×ミックス)専用駐車場

さて駐車場へ。着いたのが早かった(10時半前)からか、それともお天気が芳しくなかった(ほぼ雨の一日でした。)からか、GWにしては余裕がある。スムーズに停められました。駐車料金は一回1000円です。各施設毎に駐車場は用意されていますが、例外を除くと、おおよそ一回500円から1000円の駐車料金がかかります。それなりの負担ではありますが、そもそも鉄道を核をした芸術祭です。周遊バスしかり、公共交通機関への誘導するのは自然なことかもしれません。


周遊バス「市原湖畔美術館」バス停

少し歩いて湖の方を廻り、釣り客などを横目に美術館へと向かいます。すると周遊バスの発着所から人がたくさんやってきました。バスで廻られている方が多いようです。約7割ほどが周遊バス利用というところでしょうか。受付でチケットを購入。今回は鑑賞パスではなく、個別鑑賞券を買いました。ちなみに鑑賞パスは大人3800円です。高いと思われる方もいるかもしれませんが、パスには小湊鉄道と周遊バスの乗り放題チケットを含んでいます。ちなみに小湊鉄道の一日乗車券だけでも1800円です。それを考えれば確かにお得だと言えそうです。


KOSUGE1-16「Heigh-Ho」

では館内へ。美術館の展示を追ってみます。

まずは「Collective Memoriesー記憶の集積」。芸術祭にあわせて行われている特別展です。出展は三組のアーティスト。中国のリン・テンミャオ、フィリピンとオーストラリアのアルフレド&イザベル・アキリザン、そしてノルウェーのストール・ステンスリー。国際色豊か。そして各々が市原の土地を意識したインスタレーションを展開しています。


リン・テンミャオ「彼?彼女?またはそれ?」

まずはリン・テンミャオ。「彼?彼女?またはそれ?」です。壁面に連なるオブジェ。よく見ると人骨。もちろん本物ではなく合成樹脂です。それをコンパスや金槌やアイロンなどと組み合わせています。


リン・テンミャオ「彼?彼女?またはそれ?」

他には鋏やお鍋もある。文福茶釜を連想したのは私だけでしょうか。ネタバレをするといずれも市原の廃校になった小学校の備品です。実際に小学校名の記された道具もありました。


アルフレド&イザベル・アキリザン「積載:プロジェクト・アナザーカントリー」

吹き抜けを大胆に活かしています。アルフレド&イザベル・アキリザン。2013年には金沢21世紀美術館でも展示を行ったアーティストです。ひっくり返ったボート。高滝湖で使われていたのでしょうか。段ボールの複雑な「家」が組合わさる。何でもワークショップで作られたものだそうです。そしてボートは上から階段状に下へ連なっています。全部で11隻。上から見下ろすのと下から見上げるのでは印象も異なる。スケール感もありました。


ストール・ステンスリー「いちはら物語」

ストール・ステンスリーの「いちはら物語」です。暗室の中央にあるのが市原市の地図を模したオブジェ。周囲にはスピーカーが置かれている。手をかざすと聞こえてくるのは市原の音、また語り継がれた物語です。あわせて照明も変化します。インタラクティブな作品でもありました。


クワクボリョウタ「Lost Windows」

「記憶の集積」と離れて2~3点作品があります。いわゆる常設、恒久展示作品です。まずはクワクボリョウタの「Lost Windows」。格子状の窓が影絵の如く揺らめいては映されるインスタレーション。失われた窓。不思議とどこか懐かしい学校の窓を思わせます。幻想的でした。


アコンチ・スタジオ「Museum-Stairs/Roof of Needles&Pins」

屋上にあがるとアコンチ・スタジオの「Museum-Stairs/Roof of Needles&Pins」がお出迎え。約700本ものチューブが美術館を覆います。チューリップをイメージしているそうですが、私は湖に群れる葦を思い浮かべました。コンクリート打ちっ放しの建物との相性も良いのではないでしょうか。


美術館から展望棟(右)を望む

美術館の目の前には湖が広がります。展望棟はかつて利用されていた農業用の揚水機を模しているそうです。かなり高い。上にあがれば湖も一望出来ます。また湖上には彫刻も2~3点展示されている。ロケーションは抜群でした。


「市原湖畔美術館」から高滝湖

1時間弱ほどいたでしょうか。この後は次の目的地、IAAES(旧里見小学校)へ向かうために移動。途中で加茂運動広場横、KOSUGE1-16の「湖の飛行機」に立ち寄りました。


KOSUGE1-16「湖の飛行機」

どうでしょうか。まさしく湖上の飛行機。大掛かりな作品です。ちなみに飛行機、本来であればボートに乗って中に入れますが、この日は悪天候のため中止。車窓からのみ楽しみました。

「中編:IAAES(旧里見小学校)」へと続きます。

[いちはらアート×ミックス]シリーズ
中編:「いちはらアート×ミックス」(IAAES 旧里見小学校)
後編:「いちはらアート×ミックス」(養老渓谷アートハウス・月出工舎)

「美術手帖4月号増刊 いちはらアート×ミックス2014 公式ガイドブック」

「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス」@IchiharaArtMix) 千葉県市原市南部地域(小湊鉄道上総牛久駅~養老渓谷駅一帯)
会期:3月21日(金)~5月11日(日)
休館:会期中無休。
時間:9:30~17:00 *施設やイベントによって異なる。
料金:[鑑賞パスポート]一般3800円、大学・専門・高校生3300円、中学生1000円、小学生500円、小学生以下無料。
   [個別観覧料]
   ・300円=《Luminous / Light and WindHouse》、内田未来楽校、《サンタルの食堂》、森ラジオステーション
   ・500円=《湖うみの飛行機》、《おおきな家》
   ・800円=IAAES、月出工舎、いちはら人生劇場
   ・1000円=市原湖畔美術館
  *鑑賞パスポート=会期中、芸術祭の作品の全てを観覧可。交通チケット(小湊鉄道、及び循環周遊バスの1日乗り放題)を含む。
  *個別観覧料=鑑賞パスポートをもたない来場者のための作品観覧料。
住所:千葉県市原市不入75-1(市原湖畔美術館)他
交通:JR内房線五井駅から小湊鉄道にて高滝駅下車。バス停高滝駅入口より周遊バス「北部ルート(左回り)」で市原湖畔美術館。
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「コレクション リコレクションVOL.3 山口長男/コレクションは語る」 DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館
「コレクション リコレクションVOL.3 山口長男/コレクションは語る」
1/2-6/29



DIC川村記念美術館で開催中の「コレクション リコレクションVOL.3 山口長男/コレクションは語る」を見て来ました。

2013年度から展開中のシリーズ展、「コレクション リコレクション」。川村記念美術館のコレクションを増築されたスペース(企画展に使われることの多い展示室です。)で見せる試み。第3回目を迎えました。

しかしながら「コレクション展」とあると、どこか通常の常設展の流れを思い浮かべてしまうもの。もちろん同館の常設展、かのロスコを含め、怒濤のアメリカ現代美術です。それだけでも大変に充実していますが、何度か通うと、多少「見慣れた感」はある。率直なところ新鮮味はないのではと思い込んでいました。

反省します。このコレクション展、切り口も大胆で面白い。しかも普段、あまり公開されていない作品も少なくありません。また新たな気持ちでコレクションに接することが出来ました。


フランク・ステラ「タンバ」1963年

一端をごく簡単にご紹介します。キーワードは「テキスト」です。お馴染みのライマンやステラ、そしてライリーといった抽象絵画に「枕草子」のテキストを添える。何でも同館のスタッフを発想で生まれた試みだとか。どうでしょうか。ある意味で見る側のイメージの拡張する抽象絵画。それに別の要素が入り込んでくる。するとまた違った世界が開けてくるかもしれません。

そして言葉と言えば作品の隣にあるキャプションです。例えば画家ルノワールの表記の問題。また作品研究の進展とも言えるのでしょうか。ピカソの「宿屋の前のスペインの男女。」のように、タイトルそのものが変わった作品もあります。そしてそれらを二つのキャプション、つまりはかつて使用していたものと現在のものを併置して紹介していく。もちろんその理由についても触れているわけです。


アン・アーノルド「ラム・タム」1969年

白眉は不思議の国のアリスです。かの物語の登場人物にコレクションが成り済ます。例えばアリスのネコ、それがアーノルドの「ラム・タム」に置き換わります。他にはコーネルにマグリット、そして浜口陽三から山口勝弘といった日本人の作家の作品も引用される。面白いのはゾンネンシュターンです。常設では展示頻度の少ない小品。それが「アリス」の絡みで登場しました。


藤田嗣治「アンナ・ド・ノアイユの肖像」 1923年

お馴染みのレンブラントの「広つば帽を被った男」やルノワールの「水浴する女」もここでの展開です。クルト・シュヴィッタースの石膏を用いたオブジェも初めて見ました。全54件。何かと発見の多い展覧会でもありました。


山口長男「庭」 1937年

そして本展と同時開催中なのが画家、山口長男(1902~1983)のミニ回顧展です。山口は戦前、二科会の前衛的なグループに属し、戦後はいわゆる抽象画を描き続けた。油彩8点にドローイング約10点です。戦前と戦後の展開。作風は驚くほどに変化します。そして興味深いのは後半、言わば画家を代表する1960~70年代の抽象画です。


山口長男「捲」 1965年

まずは色遣い。赤や黄土色の絵具を刷毛のようなタッチで強くキャンバスへ塗り込めている。そして細く鋭い黒い描線が入ります。削り取るとも言えるでしょうか。実際に目を近づけると、線に沿って窪みがある。ようは黒い線がザクッと表面の色層を切り落としていることが分かります。また色そのものも味わい深い。時に漆を思わせる朱色や赤。「欧米の抽象画家とは異なった魅力」とは解説の言葉ですが、確かに「和」をイメージさせる面もありました。

「ツツジ山一般公開」 DIC川村記念美術館(はろるど)

「コレクション リコレクションVOL.3」、改めて同館のコレクションの奥の深さを見知った気がしました。

6月29日まで開催されています。

「コレクション リコレクションVOL.3 山口長男/コレクションは語る」 DIC川村記念美術館@kawamura_dic
会期:1月2日(木)~6月29日(日)
休館:月曜日。但し1/13、5/5は開館。1/14、5/7は休館。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般900(800)円、学生・65歳以上700(600)円、小・中・高生500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体。
 *2月15日(土)はDIC創業記念日、5月18日(日)は国際博物館の日のため入館無料。
 *5月5日(月・祝)こどもの日は高校生以下入館無料。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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「オランダ・ハーグ派展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館
「ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展 近代自然主義絵画の成立」 
4/19-6/29



損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展 近代自然主義絵画の成立」を見て来ました。

1830年から1870年頃にかけてフランスに興ったバルビゾン派。パリ郊外のバルビゾンに集まり、森や野山に出かけては写生、田園風景を描いていた。コローやミレーにドービニー。日本でも大いに人気のあるところかもしれません。

その少し後、オランダの地で同じように自然へ向き合った画家たちがいたのをご存知でしょうか。それがハーグ派です。拠点は言うまでもなくハーグ。北海に面した港町です。そこで風車や運河、それに船に漁師たちの生活などを描く。オランダの風景や日常を絵画に表しました。


ピート・モンドリアン「アムステルダムの東、オーストザイゼの風車」1907年 ハーグ市立美術館

本展ではハーグ派を紹介。何でも国内初の試みだそうです。出品は約90点。ほぼハーグ市立美術館のコレクションです。そして重要なのはバルビゾン派に加え、後に影響を受けたゴッホとモンドリアンも含んでいること。上の一枚、「アムステルダムの東、オーストザイゼの風車」(1907)も、かの抽象画家モンドリアンがハーグ派に倣って描いた作品です。知らなければモンドリアンだと分かりません。

さてそれでは前史のバルビゾン派から。ここが意外と充実。総出品数の3分の1程度です。約30点ほどの作品が展示されています。

うち興味深かったのがヨハン・バルトルト・ヨンキント。元々はオランダの生まれです。一時パリに出てはオランダと行き来し、後にフランスに在住します。セーヌをはじめ、フェルメールでもお馴染みのデルフトを描いた風景画が印象に残りました。

またいわゆるバルビゾン派ではありませんが、同派と交流したクールベも1点出ています。それが「ルー川の源流にかかる橋の水車小屋」(1863)。舞台はオルナン南部の川、画面中央にはアーチ状の橋がかかっている。暗い色遣い。緑は黒に覆われ、荒い筆致によるのか、山の岩肌のゴツゴツした質感も伝わってくる。なかなかの秀作でした。

そして続くのはハーグ派です。「風景」、「農民」、「家畜」、「室内」、「海景」といったテーマ別で展開されています。


ヴィレム・ルーロフス「アプカウデ近く、風車のある干拓地の風景」1870年頃 ハーグ市立美術館

ヴィレム・ルーロフスの「アプカウデ近く、風車のある干拓地の風景」(1870)はどうでしょうか。明るくまた透明感のある筆触。低くたれ込める雲の上から陽も差し込む。水辺には鳥が舞う姿も見えます。なだらかな地平。空も大地も広い。これぞオランダの風景。開放感があります。


ヘラルト・ビルデルス「干拓地の風景のなかの牝牛(オーステルベーク)」1857年頃 ハーグ市立美術館

バルビゾン派ではトロワイヨンもよく動物を描いていましたが、ハーグ派ではヘラルト・ビルデルスも得意としていました。一例は「干拓地の風景のなかの牝牛(オーステルベーク)」(1857)です。また「山のある風景」(1858)でも牛の群れを描いている。ちなみに前者のオーステルベークとはハーグ派の画家が集った森のこと。バルビゾンにおけるフォンテーヌブロー的な存在と言えるのかもしれません。


ヤコプ・マリス「漁船」1878年 ハーグ市立美術館

そしてオランダといえば海です。まずはヤコプ・マリスの「漁船」(1878)。海景画では比較的珍しい縦長の構図です。波打ち際には一隻の船。これはボムスハイトと呼ばれるニシン漁の船だとか。手前のロープは船を浜に揚げるためのもの。何でも馬で引っ張っていたのだそうです。


ヘンドリック・ヴィレム・メスダッハ「オランダの海岸沿い」1885年 ハーグ市立美術館

ヘンドリック・ヴィレム・メスダッハの「オランダの海岸沿い」(1885)はまさに海景画の王道です。夕景でしょうか。水平線の彼方からうっすら朱色を帯びた光が差し込んでいる。浮かぶのは帆船。マストはかなり細かな描線で表されている。なおメスダッハはバルビゾン派をはじめ、同時代のオランダの画家の絵を集めていたコレクターでもあった。後に自身の美術館まで設立したそうです。

漁師や農民の日常を捉えた作品はどうでしょうか。自然の中で働く人の姿を見つめた画家と言えばミレー。ハーグ派においてもミレーの影響を色濃く受けています。


ベルナルデュス・ヨハネス・ブロンメルス「室内」1872年 ハーグ市立美術館

例えばマタイス・マリスの「種をまく人」(1883)です。言うまでもなくミレー作を元にしている。また室内画を得意としたのはヨーゼフ・イスラエルスです。「編み物をする若い女」(1880)。糸をピンと伸ばして縫い物をしている。さらにはベルナルデュス・ヨハネス・ブロンメルスの「室内」(1872)も面白い。漁師一家の日常生活です。幼い子を囲んでの家族団らん。休日の昼下がり。カップに注ぐのはお茶でしょうか。湯気も出ています。窓から差し込む光も柔らかでした。

そしてこれらを通して浮かび上がるのは17世紀オランダの風俗画の影響です。そもそもバルビゾン派は先行するオランダ絵画を一部手本にもしていた。ようは17世紀オランダ絵画がバルビゾン派を経由してハーグ派の画家によって改めて評価された。そのようにも言えるわけです。


フィンセント・ファン・ゴッホ「じゃがいもを掘る2人の農婦」1885年 クレラー=ミュラー美術館

若きゴッホはハーグの画商のもとで働いていました。おそらくゴッホはハーグ派からミレーを見ていたのではないか。そしてモンドリアンです。最初にも触れたように彼もハーグ派の絵画を学んでいる。そもそも叔父のフリッツ・モンドリアンはハーグ派の流れをくむ画家でもあります。


ピート・モンドリアン「夕暮れの風車」1917年頃 ハーグ市立美術館

モンドリアンは全部で4点。いずれも初期のいわゆる具象画です。うち断然に面白いのが「夕暮れの風車」(1917)。風車を大きくクローズアップ。一種異様なまでの迫力をもってそびえ立つ。そして暗い。風車の細部はもはや闇に包まれているようでもある。また空です。鱗雲でしょうか。夕陽を遮るかのごとく空を覆う。どことなく雲が紋様、言わば抽象的に映るのも、その後のモンドリアンの画風を知っているからかもしれません。

バルビゾンに始まりハーグ派からモンドリアンまでを繋ぐ企画。先にも触れたように17世紀オランダ風俗画もポイントになります。派手さはありませんが、良くまとまっている展覧会だと感心しました。

館内は余裕がありました。6月29日まで開催されています。

「ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展 近代自然主義絵画の成立」 損保ジャパン東郷青児美術館
会期:4月19日(土)~6月29日(日)
休館:月曜日。但し5/5は開館。
時間:10:00~18:00 但し毎週金曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学・高校生600(500)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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「ツツジ山一般公開」 DIC川村記念美術館

千葉は佐倉のDIC川村記念美術館。併設の庭園の敷地面積は広大です。何と30ヘクタールもあります。そして庭園には四季折々の花も植えられている。お庭を散策するのも美術館の楽しみの一つでもあります。



今はちょうどツツジが見頃です。なおツツジ山は通常、一般の立ち入りが制限されている研究所のスペースに位置します。よって同館では開花期間のみ特別に開放。今年は5月6日まで(土日祝限定)です。



まずは美術館横、池に面した通路から進みましょう。この奥が普段は入れないエリアです。右手に見えるのが美術館。そして左手奥、池の反対側にツツジ山があります。



どうでしょうか。鮮やかなツツジ。今年の開花は例年より一週間ほど早かったとか。一部、お花が終わっている部分もありましたが、まだまだ楽しめました。



それにしても川村記念美術館のツツジ、毎年の名物だけあって、この日もたくさんの人出です。皆さん思い思いに写真を撮っておられます。



ちなみに写真の奥に見える建物がDICの研究所施設です。立派でした。



ツツジ山は通り抜け可能です。そのまま抜けると自然散策路に辿り着きます。すぐ横には藤棚も。こちらもまだ見頃でした。



広場ではお馴染みのヘンリ・ムーアの彫刻がお出迎え。暖かいこの時期、芝生の上でお弁当を広げながらのんびりするのも良いかもしれません。



蓮池に降りてみました。すると見慣れない庭園があります。イングリッシュ・ガーデンです。



いつの間に出来たのでしょうか。中は回遊式。様々な草花が植えられています。立派なオブジェも立っていました。



レンガの仕切りにベンチもあって寛げるスペースもあります。チューリップが目を引きました。



川村記念美術館の庭園部分は入場無料。(美術館は有料。)駐車場代もかかりません。ツツジ山を含み、フリーで楽しめます。



「DIC総合研究所のツツジ山を今年も一般公開します」@DIC川村記念美術館

ツツジ山の一般公開は5月6日まで開催されています。



追記:美術館の展示も見て来ました。その感想はまた別にまとめるつもりです。なお長谷川等伯の「烏鷺図屏風」(重文)が5月6日までの公開でした。

「コレクション リコレクションVOL.3 山口長男/コレクションは語る」 DIC川村記念美術館@kawamura_dic
会期:1月2日(木)~6月29日(日)
休館:月曜日。但し1/13、5/5は開館。1/14、5/7は休館。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般900(800)円、学生・65歳以上700(600)円、小・中・高生500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体。
 *2月15日(土)はDIC創業記念日、5月18日(日)は国際博物館の日のため入館無料。
 *5月5日(月・祝)こどもの日は高校生以下入館無料。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)
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「描かれたチャイナドレス」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「描かれたチャイナドレスー藤島武二から梅原龍三郎まで」
4/26-7/21



ブリヂストン美術館で開催中の「描かれたチャイナドレスー藤島武二から梅原龍三郎まで」を見て来ました。

明治末から大正期にかけて興ったという中国趣味。また美術においても中国をモチーフとした作品が作られた。その一つだったのでしょうか。チャイナドレスです。時にモデルに着せては描いている。日本人画家の描いたチャイナドレスの人物画、約30点ほどが展示されていました。

さて興味深いのはチャイナドレスのモチーフを何処に求めるのかということです。


小出楢重「周秋蘭立像」1928年 リーガロイヤルホテル

つまりチャイナドレスを求めて画家が実際に中国へ渡っているのか、あるいは日本で見て描いたのか。例えば梅原や藤田に児玉虎次郎は前者、そして藤島や劉生、安井曾太郎は後者である。その辺に留意して見るのもポイントかもしれません。


藤島武二「匂い」1915年 東京国立近代美術館

トップバッターは藤島武二。「匂い」(1915)。油彩で最も早くチャイナドレスを描いたとされる作品です。花柄のクロスがかかった丸いテーブル。その上には花瓶。中国服を纏った女性が右肘をつき、手を顎と耳にやりながら正面を向いている。目鼻立ちの整った顔つき。左手をそっとテーブルに添えています。タイトルの匂いとは嗅ぎ煙草のことでしょうか。女性の前に小瓶が置かれていました。


藤島武二「女の横顔」1926-27年 ポーラ美術館

藤島は全部で6点出ていました。うち女性を真横から描いた作品が目立つ。「東洋振り」(1924)や「女の横顔」(1926-27)です。とりわけ「女の横顔」、例えるとボッティチェリを連想する。何でも藤島は留学先のヨーロッパで見たルネサンス絵画を忘れられず、このように横顔のモチーフを取り込んで描いたのだとか。また「東洋振り」は背後に漢字の看板も見え、いかにも中国風ではありますが、「女の横顔」の舞台は場所も特定出来ない岩山です。やはりこれもルネサンス絵画に倣ってのことなのかもしれません。

ちなみに藤島、1910年代からチャイナドレスに没頭し、全部で60着まで集めるに至ったそうです。日本の画家におけるチャイナドレス受容の言わば先駆者。まさかそのような役割を果たしていたとは知りませんでした。


児島虎次郎「西湖の画舫」1921年  高梁市成羽美術館

続いては中国へと渡ってチャイナドレスを描いた画家です。児玉虎次郎。出品は4点。目立つのが「西湖の画舫」(1921)です。湖を望む楼閣で寛ぐ人たち。胡弓を演奏し、踊りを披露する。もちろん中国人でしょう。振り返れば本展、殆どのモデルが女性ですが、ここでは男性も中国服を着用している。やはり現地に取材したからなのかもしれません。

岡田謙三は当時の満州を訪れています。時代は下って1941年のことです。「満人の家族」(1942)は満州の風俗を捉えた一枚。細い輪郭線で人物を象る。さながらフジタ風。そこに色の強い絵具を塗り込める。どこか抽象的な色面構成。カラフルな作品でもあります。

面白いのが正宗得三郎です。彼は日本でチャイナドレスを見て描いた画家の一人。しかしながら経緯が少し変わっています。というのも「赤い支那服」(1925)、モデルは画家の妻だそうですが、着ている服も妻が作ったもの。しかも布地は土産のフランス製というから驚きです。ただそれでもそれっぽく見える。何でも彼女は夫の要求にもこたえ、チャイナドレスを一生懸命に制作したそうです。


久米民十郎「支那の踊り」1920年 個人蔵

久米民十郎の「支那の踊り」(1920)が出ていました。まるで何かに取り憑かれたかのように踊る女性の姿。トランス状態としたら言い過ぎでしょうか。イギリスのヴォーティシズム(渦巻派)の影響下にある作品とは言われるものの、どこかプリミティブでかつ奇怪。ただならぬ妖しい雰囲気を漂わせている。何度か見たことのある作品ですが、その都度に強いインパクトを与えられます。


安井曾太郎「金蓉」1934年 東京国立近代美術館 *展示期間:6/10~7/21

安井曾太郎の代表作「金蓉」のモデルが着ているのも青いチャイナドレスです。セザンヌ云々でも語られる作品、チャイナドレスのみに着目すると新たな面が見えてくるかもしれない。西洋画の技法を日本人が修得して中国服を描くことの意味とは何なのか。大正で沸いた中国趣味から昭和への展開。長い日中戦争もありました。戦争画を描くために中国へ渡り、結果的にチャイナドレスを描いた画家もいます。ちなみに「金蓉」は期間限定です。6月10日より公開されます。

なお会場には実際のチャイナドレスも6点ほど並んでいました。効果的な演出です。絵画上のドレスと見比べるのも楽しいのではないでしょうか。

本展は特別展ではなくテーマ展。全10室あるうちの1、2室を用いての展覧会です。ということで、本展以降はお馴染みのコレクション展が続きます。そちらは130点。ラストはお馴染みのザオ・ウーキーの傑作が待ち構えている。いつもながらに充足感がありました。

チャイナドレスで来館すると入館料が団体割引扱いになります。実際ところ着る機会はなかなかなさそうですが、もし着て観覧すれば一際注目を浴びること間違いありません。

7月21日まで開催されています。

「描かれたチャイナドレスー藤島武二から梅原龍三郎まで」 ブリヂストン美術館
会期:4月26日(土)~7月21日(月)
時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日。
料金:一般800(600)円、65歳以上600(500)円、大・高生500(400)円、中学生以下無料
 *( )内は15名以上団体料金。
 *100円割引券
 *チャイナドレス割引あり。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口徒歩5分。東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線日本橋駅B1出口徒歩5分。
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