相変わらず日中関係はギクシャクしている。靖国神社参拝、歴史教育、領土、台湾など争点は多くすぐに事態が改善する状況にはない。両国政府の忍耐強い冷静な対応と同時に、次世代が改善するための環境づくりが是非とも必要である。我々は子供や孫のためにどういう世界を残すべきなのだろうか。私は政治的な妥協を進めなければならないと思うが、一方で経済活動においては一歩引いて技術流出を防ぎカントリーリスク管理を徹底させることを提案したい。
中国という国
中国は国益にあわせて言うことを変える国である。これ自体は至極当然のことであるが、何を基準に言うことを変えるか理解しなければならない。最近の例では何故中国が核拡散防止・スーダンの虐殺・ウズベキスタンの圧制に批判的な国際世論の常識に逆行する外交政策をとっているのか。自国の権益を守るためであると同時に、中国があらゆる意見の違いを厳しく抑圧する共産党一党独裁の国であることを忘れてはいけない。世界はあまりにも魅力的な中国市場を前にして座標が揺るぎ、時に政治の自由を主張するよりも現状を追認する傾向がある。
中国は民主主義ではない最も成功した資本主義国になった。嘗ては自由で開かれた社会が資本主義的・自由世界成長の必要条件であり、共産主義は非効率の象徴であった。その中で中国共産党政府が巨大な国土と人を抱え絶望的に非効率だった国営企業群を転換させ高成長を10年以上にわたって続けてきたのは敬服に値する。鄧小平の決断が決定的な役割を果たしたが、高度成長がこれだけ持続したのは奇跡的である。グローバリゼーションが作り出した世界統合市場において、共産一党独裁は寧ろ効率的な経済システム創りを助けたのかも知れない。
中国の課題
過去十数年にわたる急速な経済成長で共産党政権は自信を取り戻し、寧ろその立場は強化されたように見える。ベルリンの壁が崩壊後続いてきた民主化の波も、中国では天安門事件後もはや起こりそうもないように見える。しかし私は、中国共産党は最近の東南アジアから始まり中東、ウクライナからキルギスタンの民主化の動きに危機感を持っていると思う。過去10年を振り返ると民主主義国の数は着実に増えている。最近のウズベキスタン独裁政府の支持はエネルギー確保だけが目的ではないといえる理由がある。
この高成長に持続性があるか、あるいは持続性を保てるように自ら変化できるかは依然として現中国政府に突きつけられた最大の課題である。今後更に中産階級が分厚い層に育ち世論形成に決定的な影響力を持ったとき果たして共産党と共存できるだろうか。今までの奇跡的な成功をみれば、これからも中国は自ら政治的社会的構造を変えていくことが出来るかもしれない。世界は韓国が五輪後に急速に民主化したことを同じように期待し、北京五輪や上海万博の機会を与えた。決して現状の中国を是としているわけではない。現在の「市場に任せる世界」の中で中国の資本主義の拡大は、果たして民主主義と自由の拡大を促すか壮大な実験が起こっている。
日本の技術水準とその流出
それでは日本はこの中国とどう付き合っていくのか。それは将来の日本のあり方をどう考えるかによる。中国が今後10年ないし20年にわたり世界経済の牽引力であり続けるのは間違いなく、良好な関係から得られるメリットのためにはあらゆる政治的な妥協をも選択肢として考えるべきである。しかし長期にわたって中国と共存して日本が繁栄の道を歩むためには技術大国の立場を堅持し、カントリーリスク対応を徹底すべきである。テクノロジーを制するものは21世紀の世界を制するのは自明である。私は国策として技術立国とその維持を徹底的に追及していくことであると信じる。従来日本は技術流出に対してナイーブであったと言って良い。明治以来欧米に追いつき追い越せの歴史の中で形作られた技術取り入れの体質が遺伝子に組み込まれたが流出は気にしなかった。新技術は開発するよりも効果的に活用するほうが遥かに経済的であるが、単なる模倣ではなくその中にオリジナルを上回る日本的な味付けを加え図らずも世界のトップに躍り出た。
今後日本を守るのはその伝統の中で生み出されたトップレベルの高度技術である。現在の中国の製造業の競争力は外国からの投資、特に日本からの投資によって築かれたといってよい。しかし、中国の殆どのマーケットは今や中国国内企業が押さえ、更に一部企業は世界進出を始めた。直接間接に色々な形で韓国や台湾経由を含め日本の技術が流出し今も続いている。週末に台湾韓国から中国まで知識を提供したハイテック技術者がよく指摘されるが、一部識者が言うように製造装置・工作機械が商品のノウハウとセットで流出したのが大きかったようだ。嘗て日本の投資が是非とも欲しかった時摩擦はなかった。今後中国が喉から手が出るほど欲しいのは技術である、日本の技術が一流である限り。
従来型の自民党政治は競争力のない既得権益を守るための巨額な投資を続け抜き差しならないほど財政赤字を膨らませる一方で、我が国の将来を担うセクターの競争力を停滞させた。競争力のない形で既得権益を守るのではなく、同時にその時の世界一流の技術・知的財産を守りその競争力を高めるべきであった。本来なら民間企業の戦略としてではなく国策として知的財産を守り活用していかなければならなかった。中国に進出した工場の位置付けを見直し、先端技術の生産は官民の連携でコントロールして我国の生命線となるノウハウが流出しないような形にすべきであった。報道によると流出経路は多様化し新しい段階に進んでおり、今後は官民一体となった総合的な知財戦略の確立が急務である。
カントリーリスク管理の徹底
またカントリーリスク対応のため今後の中国一辺倒の投資から脱却し、インド・インドネシア・フィリピンなどのアジア諸国やロシアなどの近隣諸国への投資の比率を高めることが重要である。冒頭に述べたように中国は資本主義化の進行が民主主義と自由の拡大につながるか壮大な実験が進んでいると見るべきで、その過程で農村の疲弊と都市への人口移動、貧富の差の拡大、環境汚染、汚職、住宅バブルや市場の混乱、伝染病やエイズ拡大など反日運動以外にも予測不可能なカントリーリスクが多々ある。
経済活動におけるカントリーリスクは基本的に企業の自発的な判断に基づくべき筋合いのものだが、横並びの意識が強い我国の民間企業だけの短期的な判断がバランス崩す恐れがある。結果として一企業に留まらず外交レベルまでに制約を与え意図せざる脆弱さを招く危険性を指摘したい。既に反日暴動に対して中国政府が日本企業を積極的に守る姿勢がないことが明らかになって以来、遅ればせながら海外投資戦略の見直しを始めた企業の報道が散見される。ある調査によると中国への投資は賃金の安さを前提にしたものが多く引き上げは比較的容易と報じている。 実際、中国進出済もしくは計画中の多くの企業は見直しているようであるが、日米半導体摩擦時のように経済活動全体としてうまくリスクがヘッジされていることを官民で確認すべきであろう。■
中国という国
中国は国益にあわせて言うことを変える国である。これ自体は至極当然のことであるが、何を基準に言うことを変えるか理解しなければならない。最近の例では何故中国が核拡散防止・スーダンの虐殺・ウズベキスタンの圧制に批判的な国際世論の常識に逆行する外交政策をとっているのか。自国の権益を守るためであると同時に、中国があらゆる意見の違いを厳しく抑圧する共産党一党独裁の国であることを忘れてはいけない。世界はあまりにも魅力的な中国市場を前にして座標が揺るぎ、時に政治の自由を主張するよりも現状を追認する傾向がある。
中国は民主主義ではない最も成功した資本主義国になった。嘗ては自由で開かれた社会が資本主義的・自由世界成長の必要条件であり、共産主義は非効率の象徴であった。その中で中国共産党政府が巨大な国土と人を抱え絶望的に非効率だった国営企業群を転換させ高成長を10年以上にわたって続けてきたのは敬服に値する。鄧小平の決断が決定的な役割を果たしたが、高度成長がこれだけ持続したのは奇跡的である。グローバリゼーションが作り出した世界統合市場において、共産一党独裁は寧ろ効率的な経済システム創りを助けたのかも知れない。
中国の課題
過去十数年にわたる急速な経済成長で共産党政権は自信を取り戻し、寧ろその立場は強化されたように見える。ベルリンの壁が崩壊後続いてきた民主化の波も、中国では天安門事件後もはや起こりそうもないように見える。しかし私は、中国共産党は最近の東南アジアから始まり中東、ウクライナからキルギスタンの民主化の動きに危機感を持っていると思う。過去10年を振り返ると民主主義国の数は着実に増えている。最近のウズベキスタン独裁政府の支持はエネルギー確保だけが目的ではないといえる理由がある。
この高成長に持続性があるか、あるいは持続性を保てるように自ら変化できるかは依然として現中国政府に突きつけられた最大の課題である。今後更に中産階級が分厚い層に育ち世論形成に決定的な影響力を持ったとき果たして共産党と共存できるだろうか。今までの奇跡的な成功をみれば、これからも中国は自ら政治的社会的構造を変えていくことが出来るかもしれない。世界は韓国が五輪後に急速に民主化したことを同じように期待し、北京五輪や上海万博の機会を与えた。決して現状の中国を是としているわけではない。現在の「市場に任せる世界」の中で中国の資本主義の拡大は、果たして民主主義と自由の拡大を促すか壮大な実験が起こっている。
日本の技術水準とその流出
それでは日本はこの中国とどう付き合っていくのか。それは将来の日本のあり方をどう考えるかによる。中国が今後10年ないし20年にわたり世界経済の牽引力であり続けるのは間違いなく、良好な関係から得られるメリットのためにはあらゆる政治的な妥協をも選択肢として考えるべきである。しかし長期にわたって中国と共存して日本が繁栄の道を歩むためには技術大国の立場を堅持し、カントリーリスク対応を徹底すべきである。テクノロジーを制するものは21世紀の世界を制するのは自明である。私は国策として技術立国とその維持を徹底的に追及していくことであると信じる。従来日本は技術流出に対してナイーブであったと言って良い。明治以来欧米に追いつき追い越せの歴史の中で形作られた技術取り入れの体質が遺伝子に組み込まれたが流出は気にしなかった。新技術は開発するよりも効果的に活用するほうが遥かに経済的であるが、単なる模倣ではなくその中にオリジナルを上回る日本的な味付けを加え図らずも世界のトップに躍り出た。
今後日本を守るのはその伝統の中で生み出されたトップレベルの高度技術である。現在の中国の製造業の競争力は外国からの投資、特に日本からの投資によって築かれたといってよい。しかし、中国の殆どのマーケットは今や中国国内企業が押さえ、更に一部企業は世界進出を始めた。直接間接に色々な形で韓国や台湾経由を含め日本の技術が流出し今も続いている。週末に台湾韓国から中国まで知識を提供したハイテック技術者がよく指摘されるが、一部識者が言うように製造装置・工作機械が商品のノウハウとセットで流出したのが大きかったようだ。嘗て日本の投資が是非とも欲しかった時摩擦はなかった。今後中国が喉から手が出るほど欲しいのは技術である、日本の技術が一流である限り。
従来型の自民党政治は競争力のない既得権益を守るための巨額な投資を続け抜き差しならないほど財政赤字を膨らませる一方で、我が国の将来を担うセクターの競争力を停滞させた。競争力のない形で既得権益を守るのではなく、同時にその時の世界一流の技術・知的財産を守りその競争力を高めるべきであった。本来なら民間企業の戦略としてではなく国策として知的財産を守り活用していかなければならなかった。中国に進出した工場の位置付けを見直し、先端技術の生産は官民の連携でコントロールして我国の生命線となるノウハウが流出しないような形にすべきであった。報道によると流出経路は多様化し新しい段階に進んでおり、今後は官民一体となった総合的な知財戦略の確立が急務である。
カントリーリスク管理の徹底
またカントリーリスク対応のため今後の中国一辺倒の投資から脱却し、インド・インドネシア・フィリピンなどのアジア諸国やロシアなどの近隣諸国への投資の比率を高めることが重要である。冒頭に述べたように中国は資本主義化の進行が民主主義と自由の拡大につながるか壮大な実験が進んでいると見るべきで、その過程で農村の疲弊と都市への人口移動、貧富の差の拡大、環境汚染、汚職、住宅バブルや市場の混乱、伝染病やエイズ拡大など反日運動以外にも予測不可能なカントリーリスクが多々ある。
経済活動におけるカントリーリスクは基本的に企業の自発的な判断に基づくべき筋合いのものだが、横並びの意識が強い我国の民間企業だけの短期的な判断がバランス崩す恐れがある。結果として一企業に留まらず外交レベルまでに制約を与え意図せざる脆弱さを招く危険性を指摘したい。既に反日暴動に対して中国政府が日本企業を積極的に守る姿勢がないことが明らかになって以来、遅ればせながら海外投資戦略の見直しを始めた企業の報道が散見される。ある調査によると中国への投資は賃金の安さを前提にしたものが多く引き上げは比較的容易と報じている。 実際、中国進出済もしくは計画中の多くの企業は見直しているようであるが、日米半導体摩擦時のように経済活動全体としてうまくリスクがヘッジされていることを官民で確認すべきであろう。■