ブッシュ大統領はFEMA長官を更迭した後、昨日「あらゆるレベルで機能しなかった、その責任は私にある。」とハリケーン対応がまずかったことを公に認める発言をした。しかし、大統領の支持率は依然下がり続けており危険水域といわれる40%前後になりつつある。被災経過が判明してくるにつれ市長、知事、FEMA、DHSから大統領までのあらゆるレベルで最も重要な時に適切な判断がなされなかったとの追求の声が上がっている。週刊誌や新聞の記事を読むと全体として米国の危機管理システムが全く機能しなかったということが徐々にわかってきた。
私がかつて勤めた会社で危機管理を担当していた事があるので、ある程度危機管理の視点で状況を見ることが出来た。会社の事業活動に影響する事故が発生したときの対応を定め、事故の程度によって情報がトップに伝わるルートを明確にし、現場の裁量の範囲を狭め勝手な判断をしないよう徹底し機能したと思う。他の会社の例で申し訳ないが、三菱自動車の事故隠しは危機管理システムが万全で無い上にトップの誤った判断が重なり同じ失敗を繰り返し起こした。同じ視点から何故カトリーナの対応に失敗したのか推測してみる。
9/11後米国の危機管理システムは対テロに焦点を当て見直され、従来自然災害に対応していたFEMAが大統領直轄から新設のDHS(Department of Homeland Security)の配下に入った。従って情報は市長、知事、FEMA、DHSの順に上がっていく。連邦政府の危機管理マニュアル(National Response Plan)は対テロを含み地方政府が72時間耐えうる前提になっていたが、カトリーナが上陸した時点でニューオーリンズ市、ルイジアナ州の通信網はズタズタに分断され、以降の対応がチグハグで脈絡のないものになり大きな被害を出した。現場の情報はテレビ放送のほうが先行し、FEMA長官に入ってくる情報を基にした状況認識のギャップは大統領を窮地に追い込み更迭されることになった。この通信網の崩壊は無線電波割り当ての問題として既に9/11委員会で指摘されたことで、正に立法と政府は「不作為の罪」といわれても反論できない。
多くの指摘の中で私が気になることが二つある。市長、知事、FEMA長官もかなり良く準備はしていたのに、決断しなければならない肝心の場面で逡巡し手遅れになったと報じられている事である。その背景は決定のコストが莫大で後から生じる訴訟の事を考えざるを得ないからだ。例えば、強制避難を指示するとホテルや会社を閉鎖するコストは膨大なものになり市に支払い責任が生じるのである。雑誌タイムによると観光客の多いところは避難に金がかかる、92年のハリケーン・アンドリューのときフロリダの海岸1マイル当り避難コストが1億円かかったという。
二つ目は誰もが指摘している事で、こういう時には大統領に代わって軍隊の出動から資材の放出まで州や管轄を超越して総てを仕切ることの出来るリーダの存在が必須であったのに、今回いつまでたっても誰がリーダかわからず混乱が収束できなかった。私は現体制ではチャートフDHS大臣であったはずと思うが、通信網が分断された中で状況把握できない状態が続き対応が遅れた。DHSは18万人4兆億ドルの予算を抱える巨大官庁で大臣の大組織運営能力が改めて問い直されている。
米国のメディアや議会はしつこくこの危機管理システムの失敗の原因を追究している。日本のメディアに比べしつこく原因を追求していく姿勢は、問題を起こしても米国システム全体をスピーディに修正し強くしていく風土といって良い。個人的には、追い詰められた場面での意思決定の遅れがどういう事情で起こったかの人間ドラマが非常に興味がある。多分ノンフィクション小説も今後数多くかかれるだろう。■
私がかつて勤めた会社で危機管理を担当していた事があるので、ある程度危機管理の視点で状況を見ることが出来た。会社の事業活動に影響する事故が発生したときの対応を定め、事故の程度によって情報がトップに伝わるルートを明確にし、現場の裁量の範囲を狭め勝手な判断をしないよう徹底し機能したと思う。他の会社の例で申し訳ないが、三菱自動車の事故隠しは危機管理システムが万全で無い上にトップの誤った判断が重なり同じ失敗を繰り返し起こした。同じ視点から何故カトリーナの対応に失敗したのか推測してみる。
9/11後米国の危機管理システムは対テロに焦点を当て見直され、従来自然災害に対応していたFEMAが大統領直轄から新設のDHS(Department of Homeland Security)の配下に入った。従って情報は市長、知事、FEMA、DHSの順に上がっていく。連邦政府の危機管理マニュアル(National Response Plan)は対テロを含み地方政府が72時間耐えうる前提になっていたが、カトリーナが上陸した時点でニューオーリンズ市、ルイジアナ州の通信網はズタズタに分断され、以降の対応がチグハグで脈絡のないものになり大きな被害を出した。現場の情報はテレビ放送のほうが先行し、FEMA長官に入ってくる情報を基にした状況認識のギャップは大統領を窮地に追い込み更迭されることになった。この通信網の崩壊は無線電波割り当ての問題として既に9/11委員会で指摘されたことで、正に立法と政府は「不作為の罪」といわれても反論できない。
多くの指摘の中で私が気になることが二つある。市長、知事、FEMA長官もかなり良く準備はしていたのに、決断しなければならない肝心の場面で逡巡し手遅れになったと報じられている事である。その背景は決定のコストが莫大で後から生じる訴訟の事を考えざるを得ないからだ。例えば、強制避難を指示するとホテルや会社を閉鎖するコストは膨大なものになり市に支払い責任が生じるのである。雑誌タイムによると観光客の多いところは避難に金がかかる、92年のハリケーン・アンドリューのときフロリダの海岸1マイル当り避難コストが1億円かかったという。
二つ目は誰もが指摘している事で、こういう時には大統領に代わって軍隊の出動から資材の放出まで州や管轄を超越して総てを仕切ることの出来るリーダの存在が必須であったのに、今回いつまでたっても誰がリーダかわからず混乱が収束できなかった。私は現体制ではチャートフDHS大臣であったはずと思うが、通信網が分断された中で状況把握できない状態が続き対応が遅れた。DHSは18万人4兆億ドルの予算を抱える巨大官庁で大臣の大組織運営能力が改めて問い直されている。
米国のメディアや議会はしつこくこの危機管理システムの失敗の原因を追究している。日本のメディアに比べしつこく原因を追求していく姿勢は、問題を起こしても米国システム全体をスピーディに修正し強くしていく風土といって良い。個人的には、追い詰められた場面での意思決定の遅れがどういう事情で起こったかの人間ドラマが非常に興味がある。多分ノンフィクション小説も今後数多くかかれるだろう。■