暗黒の9月
世界連鎖株安はちょうど1ヶ月前に米国政府がリーマン・ブラザーズを見捨てた時始まり、更に1週間余り前に金融機関の不良債権を買い取る救済策を米下院が否決して追い討ちをかけた。この1週間は世界の株式市場の底が抜け、世界を震撼させた1週間だった。
9月末の世界の株式時価総額は1400兆円失い、日本の個人資産は28兆円減ったという。中でも団塊世代の投資資産を痛撃したという。彼らは振り込み詐欺に代表される無知な老人世代と異なり、賢い投資家と見られていたが世界同時株安では分散投資も損失を防ぎようがなかった。
正気を失ったか
投資家は不安の連鎖でパニック売りを繰り返し、物の価値を合理的に見ることが出来なくなったようだ。例えば、このところ話題になっている世界最大の自動車メーカーGMの株式時価総額が26億ドル(2600億円)まで縮小したという(10/11朝日新聞)。会社をバラバラにして売ったほうが余程値打ちがあるという馬鹿げたことが起こっている。
こういう時こそ冷静に落ち着いて行動すべきだが、テレビ等のメディアは連日のように不安を煽るような報道が多いのは如何と思う。特に、1929年10月24日「暗黒の木曜日」といわれるウォール街の大暴落をきっかけに起こった世界大恐慌が、又起こるかのような報道は国中パニックになれと勧めているようなものだ。
80年前、財政規律厳守が事態を悪化させた
そこで、今回の世界連鎖株安と世界大恐慌は全く違うことを紹介したい。書物から得た限られた知識ではあるが、世界連鎖株安の衝撃の度合いは1929年の世界大恐慌と同じか、それ以上かもしれないと私自身感じている。不動産バブルが弾けたのがきっかけなのも同じだ。
だが、当時と今では全く環境が違う。バブルが弾けた当時、世界の政府の基本政策は財政規律を守ることにあり、中でも米国は緊急事態になっても厳格に財政規律を求める政策を適用した。米国政府は金利を下げ財政出動するどころか、収支改善の為増税し景気は急激に悪化して行った。ケインズ学説はまだメインストリームではなく、政治は考えうる最善の手を打った積もりだった。
貿易制限が世界大不況に
更に、米国内の農家やビジネスを守るために輸入制限し、既に米国への輸出頼りになっていた第二次世界大戦後の世界経済を打ちのめした。つまり、「暗黒の木曜日」は世界大恐慌の原因ではなく、その後の政策が世界恐慌を引き起こした。
1929年の株式市場の大暴落から大恐慌に向う間、適切な手が打たれないまま金融システムの信用不安連鎖が続いた。1932年初め1800以上の銀行が倒産してもまだ適切な手が打たれず、1933年ルーズベルト大統領が就任した3月には2600行が閉鎖され、そこで初めて例のニューディール政策が始まった(10/13Time)。
今度は違う
しかし、今回の世界連鎖株安は深刻ではあるが、昨日のG7とその後に続いたG20に見られるように、米国を始めとする世界の財務省・中央銀行は1929年の大恐慌を学習している。財政悪化を心配するより金を刷って市場に供給し、失業や倒産を防ぐほうが重要だと理解している。更に、誰も輸入制限など説いていない。
G20は‘よってたかって’大恐慌になるのを防ぐ為、連携してあらゆる手を打つことを確認したと夕方のニュースは報じていた。G7の結論は資本注入を含む全ての必要なアクションを含んでいる。後は、合意事項に基づいた具体的な実行が連携されて実施されるかどうかである。
無論、不安はある
正直、考えれば考えるほど不安はある。最新の金融技術で作り上げられた「ステルス金融商品」の損がどれほど隠されているのか、強欲な経営者が罰せられないのを見て田舎者(失礼)の米国選挙民が何時又反乱を起すか、欧州は実質経済が思ったより脆弱な上に各国バラバラで本当に連携できるのか、分からないことが多い。
日本も志の低い政官の不適切な慣行がこの後も暴露され、ポピュリズムが横行し国会空転が続くかもしれない。私自身も、上記に紹介した団塊世代が陥っている苦境から逃れることは出来そうもない。しかし、不安を言い出したらきりが無い。人はそれ程馬鹿じゃない、理性は最終的に世界大恐慌を防ぐことが出来ると、私は希望をこめて信じる。■