このところ「ドル危機」、「ドル信任崩壊」、「ドル壊滅」等と題する記事が、多くの新聞・雑誌のトップ記事として見かける。サブプライムから始まった金融不安とその対応で、米国の財政赤字が更に悪化するのは避けられない見通しになったことが、背景にある。
だが、例によって、一見当然とも思えるドル危機を説く記事は、その根拠に違和感がある。確かに対円ではドル安が進行しているが、世界のその他の通貨と比較するとドル高が進行しているのだ。因みに日経ネットを検索して、今日(10/17)と3ヶ月前の為替レートを比較してみた。
通貨 08/07/18 08/10/17(14:40) 変化率
日本円 100 100
USD 107.5 102.7 -4.5%
EURO 170.2 138.4 -18.7%
英ポンド 216.7 180.3 -16.8%
豪ドル 105.6 72.1 -31.8%
韓国ウォン 7.89 10.73 -26.5%
台湾ドル 3.12 3.51 -11.1%
つまり、円に対して米ドルは安くなっているが、他の通貨に対しては軒並みドル高が進行しているのだ。米国発の金融不安から世界大不況の瀬戸際にあり、米国の財政赤字は一層深刻なものになるのは間違いないと思うが、一方でドル高が進行しているのだ。
ところが、件の記事は円に対してドル安が進んでいると指摘しドル危機迫る、というのは根拠不十分であり、読者をミスリードしないだろうか。何故、危機が迫っているのに他の全主要通貨に対してドル高なのか、これを無視してドル危機を議論出来ないと私は思う。
今朝話した某証券会社の某氏によると、豪ドル下落はヘッジファンドが金策に走り資金引き上げ、円に巻き戻しているからだという。ヘッジファンドが世界に投資した資金を引き上げたら、ドル高が進むという説は私には分り易い。それは、又、ヘッジファンドから投資家・機関に戻るだろうが。
不都合な事実を無視して仮説を主張するのは、Pジョンソン氏によれば昔からの常套手段であり、話半分に聞けということかもしれない(インテレクチュアルズ 1992 共同通信社)。だが、ドル危機という結論があっていればいいじゃないか、というものでもないと思う。
先日投稿した「無知の押し売り」で、「原油高」報道は根拠の無い不安を煽るようなものだと指摘した。案の定、昨日はついに原油価格(NYMEX)は69ドルまで急落した。火事場で根拠があやふやな流説を流すようなことにならないよう心掛けたいものだ。■