今月初めに年頭の「2013年大胆占い」を見直した時、腰痛と通風で椅子に数分しか座れず集中してじっくり考えられない状況だった。見直しが適切だったか、表面的だったのではないか、ずっと気になっていた。今、読み返して見て大きな間違いはなかったと思う。だが、踏み込み不足だった部分があるので、その後の変化も加味して私のマネー世界観を補足しておきたい。
QE3縮小は金融相場正常化の第一歩
世界レベルで俯瞰すると、リーマン・ショック後の世界市場はずっと「金融相場」だった。先進国・中国の中央銀行が史上最大のマネーを注入して、世界市場は薬漬にされ生かされている患者のようにマネー漬にされ、生命を保ち徐々に回復途上にあった。しかし、薬漬に慣れた患者は投薬を先々止めそうだと聞いただけで、パニックを起こし病状が良くなっているのに熱が上がった。
今世界で最も注目される男、バーナンキ連銀議長が用心深く進めているのは、この薬漬けの患者の薬を徐々に減らし「普通の生活」に戻そうとしていることだ。世界はまだリーマン・ショックのPTSDから抜け切らずチョットした言葉の変化にも一々反応するので、彼は細心の注意を払って言葉を選び今後の治療方針を患者に説明し徐々に落ち着かせてきたというのが現状だ。
だが、世界市場は異常なマネー漬け
この例え話のマネー漬がどの程度凄いかというと、地球規模でみて80年に総マネー量は総GDPの1.2倍だったのが、2012年には3倍に膨張した(日経7/18)。増えた分が何処に行ったかというと大部分が資産に向かい、物の値段は余り変わらないが、株や不動産の価格を押し上げた。従って、バーナンキがマネー供給を減らすと言って株価が急落したのは当然の理だった。
これに関連して東京と大阪の証券取引所が16日に合併し、新しく統合された東証は上場企業数や株式売買代金が世界第3位になったと報じられた。だが、これは上記マネーの総量の反映ではない。世界を駆け巡る大量の投資マネーにとって現物株の取引はその一部、エネルギーや農作物などを含むデリバティブの取引高における日本取引所の扱い高は世界17位だという。これが2012年に3倍に膨張したというマネーの行き先だ。私が現役の頃とは違う世界だ。
新興国は既に大打撃
QE3縮小の影響が実体経済まで及んでいるのは新興国だ。日本経済新聞(7/16)は新興国の外貨準備が急減しているとトップで報じた。バーナンキ議長の量的緩和縮小発言以来マネーが新興国から流出し、外貨資産を取り崩して自国通貨を買い支えている為だという。インドネシア・インド・ブラジルやロシアなどの外貨準備が2年前の欧州危機以来の下落だという。
外需の伸び悩みで輸出が落ち込んだ中国もマネー流出が起こり、上海株価急落に見舞われ経済成長を維持する為に投資拡大等の内需刺激策が求められている。しかし、「シャドウバンキング」対応に取り組む中国は構造改革により投資依存から脱却を目指し引締めを維持している。中国経済成長鈍化は資源国などの世界経済への影響は避けられないが、私は習政権の経済政策は基本的に正しいと思う。しかし、影響度の大きさを考えると何とか軟着陸させて欲しいと願う。
巧妙で微妙なバランス
バーナンキは経済を正常に戻そうとしているだけだが、急激にやると副作用が大きくなるので徐々にやると後で修正した。しかし、この一連のやり取りの中で薬(金融緩和QE3)が減らされるのは時間の問題だと市場は織り込み始めた。議長と市場の認識が近づいてくるとコンセンサスが形成され、意外とQE3の出口戦略は早まる可能性(今年中)が出てきたと私は占う。具体的には、様子を見ながら縮小していく手段をとることになるだろうが。
視点を書き出しの高さに戻してみよう。今、世界各国はリーマン・ショック後の膨張した財政・金融政策からの脱却を始めたといってよい。米国は一連の減税廃止と歳出削減で財政赤字が劇的に縮小し始めた。GDP比財政赤字は2009年度10%、13年度4%、14年度3%以下になる見込みという。ユーロ圏の財政赤字も今年GDP比3%になるという。蛇足だが、我国にもこの早さが欲しい。それを阻むのが高齢化の下で進む政治のポピュリズムだと思う。
さて、政策の見直しは新興国からのマネー流出の裏返しになるはずだが、実はFRBとECBのマネタリーベース合計は変わらないという。従って日銀の異次元緩和は金融市場の安定化に貢献するという期待がある。正直なところそう上手くは行かないと私は不安だ。個人的な話だが、退職金をつぎ込んだ金融資産の一部を先月末売却した。暫く様子見を決め込む積りだ。それがこの記事に対する私自身の信憑性の反映である。あくまでも占いの見直しの補足と思って欲しい。■