かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録2016(1)

2016-05-11 22:01:07 | 本と雑誌
この数年、私が好んで読んだ本はリーマンショック発生時に公的・私的に責任者の立場にあった人達がどう振る舞ったかを描いたノンフィクション(NF)物だ。リーダーの判断一つで世界がひっくり返る状況で、ギリギリの決断をした彼等の姿は小説では味わえない迫真のドラマが描かれているはずだ。

昨秋東京に戻りいくつかその種の古本を入手したが中々読み進まない。言い訳をすれば自宅建て替えの為読書の時間が取れなかった。やむを得ず読み残した本を田舎に送って、実家で落ち着いて読むつもりだった。しかし、やっぱり読書が進まない。20代半ばで年間100冊を目標に読書を始めて以来最低の読書量だ。読書録などと言うのも恥ずかしい。もう言い訳のネタが尽きたので、今迄に読んだ本を紹介させて頂く。

今回お勧めしたいのはリーマンショックに関わる2冊の優れた著作だ。先ずリーマンショックが起こる3年前にFRB主催の会議でただ一人金融危機を予言し、現在故国に戻りインド中央銀行総裁を務めるRラジャンの「フォールト・ラインズ」だ。熊本大地震で話題になった断層線のことだが、ここでは金融システムの歪の比喩だ。著者が構造的に金融危機を分析し唱えた対策は精緻で説得力がある。本書には危機の3年前にマエストロと言われたカリスマ(グリーンスパン)に真っ向歯向かった著者の迫力を感じとれる。

次にリーマンショック発生時のNY連銀議長で、その後オバマ政権の財務長官として活躍したガイトナー長官の「ガイトナー回顧録」だ。回顧録に描かれた登場人物が世界を地獄から救った、その過程で彼等が覗き見た地獄を追体験できる。その場に立ち会った生々しい姿を感じ取れると期待した。だが、淡々とした記述で読み進みながら期待した程の迫力は感じられなかった。多分、それでもこの本ほどリーマンショックの中枢に迫った著作はないと思う。

(3.0-) Lガイトナー回顧録 TFガイトナー 2015 日本経済新聞 米国当局の中枢がリーマンショックにどう立ち向かったかを描いた660ページの大作。前半はリーマンショック勃発時にNY連銀議長としてバーナンキFRB議長とポールソン財務長官と連携して対応、後半はオバマ政権下で財務長官として金融システムの建直しに取り組んだ様子が克明に描かれている。前半は事態の深刻さを読み切れず土壇場で権限が限られていたとの言い訳、後半は金融機関のストレステスト結果が期待通りになるまでの周囲の理解不足が印象的だった。著者は意外にも一貫して政府内でキャリアを積んだ官僚だというのも興味深い発見だった。

(3.5) 2フォールト・ラインズ Rラジャン 2011 新潮社 世界経済には3つの断層線(米国政治の歪、多国間の貿易不均衡、英米の金融システムが異質な国に資金供給する危うさ)があり、リーマンショックが引き起こした金融危機に影響を及ぼしたと解説する。米国の所得格差が政治圧力となり住宅ローンを歪める断層線を作り、新興国の企業が保護を求め成長できず輸出頼りになり、かつての日本が歩んだ道を通る。著者は続けて、バブルの処理を誤ったFRB、銀行とバンカーが何故リスクをとったか、リスクを取らせない方法を説く。

(1.5-) 2デリバティブ汚染 吉本佳生 2009 講談社 全国の自治体、大学から地銀までデリバティブを組み込んだ仕組債・仕組み預金に投資し、膨大な潜在的損失を抱え込んでいると警鐘を鳴らす書。問題は最初だけ高利の運用益が出るが、その後為替や金利の変化によっては低利のまま長期間塩漬けか巨額の損失を出して解約するしかないリスクがあるという。同じリスクを繰り返して解説するだけの本だが、それだけ金融商品が危険だと言う著者の気持ちは伝わって来る。

(2.0) Lリスクをとらないリスク 堀古英司 2014 クロスメディア・パブリッシング 世界的に見て日本人はリスク回避傾向が強く、少子高齢化がその傾向を強めている。長期的に見てリーマンブラザーズを救済せず自己責任ルールを守った意義がある。経済成長と格差拡大はコインの裏表の関係、日本の長期金利の上昇はない、投資の絶対ルール「いかなる時も退場はしない」・・・等々個人投資家には貴重な助言がなされている。

(2.5-) L世界最大の銀行を破綻させた男たち Iマーティン WAVE出版 スコットランドの地域銀行が英国主要銀行ナッツウェスト買収をきっかけに短期間に買収を繰り返し急成長、米国サブプライムバブルが弾ける最悪のタイミングでオランダABNアムロを買収し世界最大の銀行になった瞬間に信用危機のただ中で倒産し国有化の道を歩んだ事件を会計士上がりの社長フレッド・グッドウィンを中心に淡々と描いたもの。米国のリーマンショック関連のNF本に比べ踏み込み不足・説明不足で素人の私には散漫に感じ理解が進まなかった。  

(*.*) 2暁のひかり 藤沢周平 1986 文春文庫 江戸市井で道を外れて生きるはぐれ者とそれに関わる女の哀しい生きざま和描いた短編集。久し振りの藤沢時代小説は、いかにも”らしい作品で”読み易くあっという間に読み切り気分転換になった。

(*.*) L義民が駆ける 藤沢周平 1998 講談社 江戸時代後期にいわれなき理由で実施石高が半分になる国替えを命じられた庄内藩の百姓達が続々と江戸に向かい幕府に圧力をかけ、最後に命令を撤回させた天保の義民と呼ばれた百姓が起こした騒動を描いた物語。史実に忠実であろうとしたためか、最終決着をもたらした当時の幕閣等間の及び大名など関係者の力関係が曖昧で物足りなかった。

凡例:
 (0):読む価値なし (1)読んで益は無い (2):読んで損は無い
 (3):お勧め、得るもの多い  (4):名著です  (5):人生観が変わった 
 0.5:中間の評価、例えば1.5は<暇なら読んだら良い>と<読んで損はない>の中間
 -/+:数値で表した評価より「やや低い」、又は「やや高い」評価です。
2: 古本屋で手に入れた本
L: 図書館で借りた本
新: 「定価」で買った本

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