今回、本のタイトルと内容について一言。題名次第で本の売れ行きが変るというのは定説のようだ。「馬鹿の壁」とか「国家の品格」のように、気軽に買える新書本のタイトルと売れ行きの相関が強い気がする。それは以前紹介したように、新書本「事業」はよりマーケティングの効果が認識され、長期衰退傾向の週刊誌等からそういう人材が投入されている為かもしれない。
今回読んだ本の中でその典型的なものが、「人は見た目が9割」でタイトルを見ただけで読みたくなる。新書本の値段なら内容を確認せずとも買う人もいるだろう。ハードカバーでも「マネーが止まった」とかは、リーマンショック直後に書かれ題名だけで読みたくなり、内容も期待した通りだった。
実際に本を読み始めタイトルから期待した内容とは違う場合、一気に読書欲が失せる場合もある。だが、それでもタイトルが言おうとしている部分がどこかにあるはずと読み続け、新たな事実や視点を伝える原石を発見して納得することがままある。それが私には「人の値段・・・」だった。
逆に「中国が世界をメチャクチャにする」は際本みたいな安っぽい題名だが、著者が世界で最も信頼されているメディアのファイナンシャルタイムズの記者だというだけで読み始めた。果たして内容は世界に散在する事実を繋ぎ合わせて論理を展開する手堅い内容で、中国が抱える問題を浮き彫りにした佳作だった。だが最初は中国叩き本の印象で、品のない印象を与え損したはずだ。
(2.5)マネーが止まった 田中直毅 2008 講談社 リーマンショック直後のまだ具体的データが出てこない混沌とした状況で、世界の金融システムに信用不安が伝播していく様を、大局を押さえながら的確に描き、著者の洞察力の確かさを示している。大元の原因として肥大化した年金基金の高リターン志向が金融・投資の自由化・オルタナティブをモンスター化させた指摘する。だが、信用不安が解消されていく過程で見えてくる今日の新世界までは予想しえてない。
(1.5+)国家破綻はありえない 増田悦佐 2006 PHP研究所 800兆円の累積赤字の95%が国内調達されるので、「世代間不公平」を除いて問題ないと説く。過去10年の国債利払いが超低金利で10兆円前後と指摘、日本の知的エリートが何も決めなくとも、優秀な残り80%の頑張り結果OK、大都市が競争力の源泉と言い切るのは新鮮。全体に根拠薄弱な論理と楽観的な議論は、世界同時不況で崩壊した。とんでもないと思いつつ、ユニークで面白い考え方がある。
(1.5+)円、元消滅! 一橋総合研究所 2005 ダイヤモンド社 題名は刺激的だが、内容はアジア共通通貨の提案。基軸通貨の歴史的変遷を振り返り現状の問題を指摘して論理展開している。底流に基軸通貨ドルを持つ米国の丸儲けへの嫌悪感があると感じられ、何故そうなのか私には今一ピンと来ない。
(2.5)中国が世界をメチャクチャにする Jキング 2006 草思社 中国の急成長が世界を深刻な影響を与えていることを、各国に点在する実例を関連付けして解説している。題名が刺激的で反中国だが、原題は「中国は世界を揺さぶる」(China shakes the world)のままの方が良い。中国の巨大な存在が動き始めた時、個々の出来事とマクロ経済を包括的に理解させてくれる。
(1.0+)BRICs富裕層 門倉貴史 2006 東洋経済 前半にBRICs各国の富裕層や中流階級の構造と変遷を軽く紹介しているだけで、残りの8割は普通の市場説明に終始したもの。
(2.0-)資源世界大戦が始まった 日高義樹 2007 ダイアモンド社 中国の台頭による石油争奪戦は世界を変え、米中関係を変える、その中で建前だけ片務的な日米関係を見直すべきと説いている。私には論拠不明な主張と混ぜこぜで信じるには危険な内容だが、対中関係や日米軍事同盟の見直し等には鋭い指摘がある。
(2.0)ミュンヘン Mゾウハー・Eハーバー 2006 ハヤカワ文庫 第一次大戦当時ユダヤ人がエルサレムに移住を始めた頃から、1972年ミュンヘン五輪でイスラエル選手11人が虐殺され、イスラエル政府が執拗に犯人を追い詰め全て暗殺していく物語。ユダヤとパレスチナの終わることの無い血塗られた戦いが、稀代のテロリストのサラメ親子を中心に描かれている。
(2.5)人の値段 考え方と計算 西村肇 2004 講談社 青色発光ダイオード発明者の中村修二がいくら受け取るべきか、学術論文の貢献度を測る考え方を企業における特許の価値に適用して70億円と解説したもの。人の価値をreplaceable(取替え可能)かで判定、次に重要性の重み付けで定量化する考え。だが、2代目社長との確執と、会社を共同体と考える他の取替え可能な技術者と企業経営者には受け入れられない考えと指摘、考えさせる書だ。
(2.0)人は見た目が9割 竹内一郎 2005 新潮社 情報伝達に占める言語の役割は7%、残りの93%は顔の表情と声質、総合して9割は見た目で決まるといい、漫画が描く表情や舞台演出で残り9割について分かり易く解説したもの。舞台演出や漫画から著述業までで活動する著者の広い見識が窺え興味深い。
(1.5+)マネーロンダリング 橘玲 2002 幻冬社 元ウォール街の金融マンで、香港で日本人相手にいかがわしい節税の手助けを生業にする主人公が、美人の持ち込んだ巨額の金を巡る犯罪に巻き込まれるサスペンス。著者の金融知識と闇の世界とのかかわりは新鮮で、最後のどんでん返しもまずまずで、娯楽作品として悪くない。
(1.0+)ヘッジファンド 幸田真音 1999 講談社文庫 世界的なヘッジファンドのボスが実は美人日本女性で為替操作して危機を乗り越え巨額の利益を上げるが、実は慈善活動もやっているという御伽噺。初期の作品の為か、ストーリが陳腐でリアリティが感じられない。
(**)1Q84 Book1/2 村上春樹 2009 新潮社 NFや実用書ばかり読む私には、饒舌で中々ストーリが先に進まないように感じる。手塚治虫氏の長編漫画を読むように何が出て来るか興味が続く、私にとっては文学作品というより娯楽作品だった。
今冬は息子の結婚式やオリンピックなどの行事で長い時間集中力を必要とする読書が出来なかった。途中にしおりを挟んだまま何日も本を開かないこともあった。数日後に半ば義務感で字面を追い、頁を捲った本もある。どれだけ内容を理解できたのか、無駄に時間を使っただけかもしれない。それでも老後の楽しみが狭まっていく中で、最後まで読書の楽しみは失いたくない。■
もしくはどの本でも内容を読んでないか理解できていないが、日本人が著者の場合は著者のチェックが入っているからまともなのかもしれない。
僕は自分の本棚や書店の本棚のタイトルを見て、内容を想像して考えることが好きなので本当に残念です。
出版社には優れた編集者がいて、作家を育て本の出来映えを左右するという話も聞きますが、その確率はそれ程高くはないと感じます。
彼らもまた成長過程にあり、プロの編集者への道を辿っているという事でしょうか。