想定内に落着いた米銀の損失と今後の見通し
先週続いた米銀各社の1-3月の業績報告の「トリ」はシティバンクで、巨額の損失が報告された。だが凄い損でも予想の範囲内に収まった為、市場はプラスに反応した。金融機関の損失が予測以上に大きかった場合、市場が大暴落すると内心恐れていたのでホッとした。
結果として、先月のベア・スターンズ救済劇の後感じた「潮の目の変化」がまだ続いているようだ。
今後の米国経済の回復の道には2つの節目があるといわれている。
先ず5月以降は景気刺激策の小切手が米国家庭に渡り消費が間違いなく活発になる。刺激策の効果がなくなる夏以降消費の勢いが保てるかが最初の節目、次に年末から来年春にかけて低金利の効果で設備投資など企業活動の勢いが付くかどうかが第2の節目になると見られている。
もしサブプライム問題が最悪期を過ぎたとしたら朗報には違いないが、それが為に今までに表面化した種々の問題への根本的な再発防止策が中途半端に終ることが心配される。だが、果たして根本的な再発防止たるものは何か、報道を見る限り明確な形になって現れてないように私には思える。まだ整理されている訳ではないが、ここで考え方について論じてみたい。
時価会計が混乱に拍車をかけた
16に日米国財務省がヘッジファンドの規制強化を提案したと聞いた。詳細は不明だが情報開示の強化、保有資産の時価評価など金融商品に対する会計基準の見直し、流動性リスク管理強化、法令順守手順書の策定、ヘッジファンド投資に関する透明性などについて言及があったという。
一方で、バーナンキ議長は上記救済発表後に「取引が無い為に価格の付けようのなかった債務担保証券(CDO)などの金融商品が、一旦売りに出ると帳簿上の取得価格から大きく値を下げ巨額の評価損が計上され、投売り状態になった」と指摘したと報じられている。
言い換えると相場が急降下している危機的状態のとき、時価会計を厳格に適用すると却って市場を不安的にするというもので、今回の問題対処の難しさを示したといえる。日本でもバブル崩壊時に同じ現象が見られたというが、当時は敗者の言い訳のように見做されたと記憶している。
時価会計の運用の問題が今回世界的に共有された。日本がバブル崩壊後一人負けのときは無視された時価会計の問題が、この後欧米でもう少し現実的で弾力的な運用を許容するようになる可能性がありそうだ。しかし、それは時価会計に抜け穴を作ることに通じないとは限らない。
金融技術の目的と問題
次のテーマは、最新の金融技術で作られた金融商品のもつ不透明性がサブプライム問題を世界に拡散させた主因であったという非難だ。大前研一氏がCDOは金融の「ミートホープ商品」といったように、サブプライムが証券化され化粧(優良格付け)されて世界中に売られ毒を撒き散らした。
だが、そもそも金融技術は投資対象の多様化とリスクをヘッジして、投資家を守りながら市場に参加させ、リスクが大きくて従来資金が回らなかった領域に資金を流し成長の機会を与えるものだった。もっと具体的には、途上国の成長のために必須の流動性と情報の質をもたらした。
換言すると金融技術は、世界のリスクマネーを米国金融市場にかき集め、それを世界に再投資させる手段を提供した。金融技術なくしては財政赤字と低貯蓄率に悩む米国はやっていけなかったし、世界経済を活性化することも出来なかった。トータルするとその貢献度は極めて高い。
金融技術の修正のあるべき方向
冒頭で説明したようにサブプライム危機により時価会計のメカニズムが市場を暴落させた。だが、金融技術そのものが市場の脆弱性を高めたといえるだろうか。めちゃくちゃな貸付慣行が生んだサブプライム問題は論外だが、一般の住宅ローンの証券化が全て悪とは言えない。
リスクを分散させて世界の隅々まで資金を行渡らせるグローバル金融システムは最新金融技術なくしては成り立たない。サブプライム問題から生まれた金融危機の修正として、投資家保護のための規制強化や情報開示ルールの厳格化、リスクヘッジのために必要な投資手段の改善などに留めるべきだ。
修正の目的は規制強化というよりも、金融改革を更に促進するような創造的な方向で考えるべきである。耐震偽装事件の結果規制を強化して住宅建設が激減し建設業界を苦境に陥れた。良かれと導入した時価会計が市場暴落に火を注いだように、極端な状況でも常に普遍的な解があるのか知恵が試されている。■
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