温暖化ガス削減、初の世界的合意
洞爺湖サミットの評価が一通り出てきたところで、「評価の評価」をしてみたい。結論的に言うと温暖化ガス削減については、福田首相は大変良くやったと私は思う。米国の身勝手、新興国の無責任な姿勢を取りまとめて参加国間で問題を共有し、とにもかくにもCO2削減のスタートラインに立てた。私は識者が言うような「前回の独ハイリゲンダムサミットより後退した」などと思わない。素直に評価したい。
米国及び新興国政府の今までの発言を見る限り同じ認識を持つ事は非常に難しいというのが大方の見方であったと思う。それが何故ここまで来たかというと私は3つの要因を挙げたい。福田首相の執念、官僚の活躍、BRICs以外の新興国の存在感である。
奮闘した福田首相
福田首相の温暖化対応を纏める執念はサミット前から広く報道されていた。サミットの途中難航する場面でも福田首相は各国首脳に電話を掛け粘り強くギリギリで合意できる着地点を見出した。彼の執念なくして16カ国首脳宣言は無かったと言ってよい。その活躍はMVPに値する。
それを助けたのがシェルパと呼ばれる各国政府の事務方、つまり官僚達だった。彼等の緻密な準備と調整はG8首脳会談が短時間で結論を出し喧嘩別れにならない助けとなった。官僚的言葉使いとか玉虫色と非難されようと決裂を避ける大きな役割を果たした。縁の下の活躍に技能賞を与えたい。
意外な貢献国
正直言って驚いたのは、前日まで強硬意見一辺倒だったBRICs+南アの新興5カ国が、翌日16カ国首脳会議で一変して温暖化ガス削減の長期目標について前向きな姿勢を見せたことだ。これは同じくG8に招かれた豪・韓・インドネシアがG8宣言に同意し、新興5カ国が身勝手で後ろ向きと批判されるのを恐れて妥協した方針転換だったといわれている。
こういうシナリオを考えたのは誰だったか、偶然なのか知りたいところだ。もし意図してのことならその発案者に殊勲賞を出したいところだが、今日のところは豪・韓・インドネシア3カ国の良識に殊勲賞を差し上げることにしたい。
もう一つ意外だったのが強硬姿勢をとるものと思われたEUが極めて妥協的な姿勢をとったことだ。これについてのメディアの評価は見られない。歴史的に彼等は建前の裏に巧妙な政治的駆け引きが含まれている場合が多いが、今回は何であったか私には思いつかない。ブッシュ大統領も意図して玉虫解決に乗ったといわれている。次の舞台でその真意が見えてくるだろう。
地球温暖化だけでいいのか
福田首相は環境問題に政治生命を賭けた一方で、その他の問題には力が及ばなかった。そう指摘する国内メディアも例外はあっても大筋でいうと、事前報道は地球温暖化問題一本やりで、G8サミットが終って初めて知ったようにジンバブエ大統領選の混乱や原油高騰・食料価格の上昇の問題を付け足しで報じた印象を受ける。
ジンバブエ政治情勢はロシアの反対で共同宣言にならなかった。福田首相から北朝鮮拉致問題が議題とされたが、ジンバブエに限らず世界の政治問題に関わっていく覚悟が無い限り大した結果は期待できなかった。政治もメディアも国民もそんな覚悟など元々無かったと私は思う。我が国の一国平和主義はとうに見透かされている。
原油や食料価格高騰の原因は需給関係の変化か投機相場かに主張が分かれているが、今回突っ込んだ議論がなされた気配が全く無い。事務方のレベルで早々にギブアップされていた印象だ。もっと具体的に言うと商品先物市場の規制強化をすべきかどうかだ。
この問題は温暖化と並び最重要テーマだと思うが、米国は投機規制の議論に全くその気が無いことが端から分かっていた。この問題は更に深刻になる可能性があり、今回明確に方向付けすべきであった。だが、食料援助増とか根本原因より結果生じた現象への対応に議論は終始した。
G8の限界、しかしG13は最悪
先進国の首脳が集まって物事を決めるG8体制が機能しなくなったという議論をあちこちで見かけた。サルコジ仏大統領が中国・インド・メキシコ・ブラジル・南アを含めG13の提案があったという。私は全く賛成できない。問題は今回からも予見できる。例えば、ジンバブエ問題が中途半端に終わったのはロシアの反対だし、チベット問題では中国への遠慮があった。
13カ国になれば今までより物事は決まらなくなる。加えて、ロシアの民主化後退は既にG8国として違和感がある。価値観の大きく異なる国の参加は今後世界で民主主義が脅かされる事態が生じた時、G8が果たす先導的役割を弱める事になる。
当面G8は拡大せず、時々のテーマに適宜対応するのが良いと信じる。今回のように目的毎に関係する国を招待し議論すべきと私は考える。G8の核は人権重視の先進的民主主義国家としなければ、大事なところで判断の軸がぶれて重大な誤りを犯すことになる。
それにつけてもブッシュ時代の米国の役割は失望の連続だった。今回も積極的な役割は果たさなかった。しかし、幸いなことに次期大統領の足を引っ張るようなぶち壊しも無かった。次期大統領下で米国はかなり変化する、リーダーシップを回復する方向に変化すると考えて準備すべきだ。日本に有利か不利かは別として。
余談
サミット中の日米の報道を追っかけると、米国のメディアは扱いが冷淡とも思えるほど地味だった。その理由は、そもそも人権問題や核の非拡散など政治的な議論を避けるG8サミットが生み出す結果に期待していない為、特にレームダック大統領下で、ではないかと思う。米国だけでなく世界も焦点は既に次期大統領に移っている。
日本のメディアもサミット後の反応がいつもより静かな気がする。食料など物価高騰問題や具体性に欠ける温暖化問題などの指摘はあっても、福田首相は温暖化ガス削減という困難な問題に立ち向かいまずまずの成果を上げ、ケチを付けにくかった為ではなかろうか。むしろその成果を誇り更に高めていく提案を期待したいのだが。■
米国は投機規制の議論に全くその気が無い
とのことですが、僕の認識では、アメリカ国外での取引。特にロンドンやシンガポールなどが問題かと思っていました。
僕は、基本的に温暖化対策について温暖化対策だけ考えるならば、今の先進国間の削減は効果はなくむしろマイナスなのではと考えています。
たとえば、鉄が最大のCO2の排出量であり、産業界の排出するCO2のうち30%以上も排出しています。
この鉄によるCO2削減の可能性はせいぜい地下へのCO2貯蔵程度で、あまりCO2の削減が期待できません。
http://www.ecologyexpress.com/company/etech_report/ebuis0804.htm
CO2の排出する業種は、業種によって大きく排出量が異なることを考えると、今のままのアプローチでは、中国などでのCO2排出量が増えるだけだと思います。
中国は、日本の1.5倍以上鉄鋼生産の単位あたりのCO2の排出量が多い。
僕は、先進国での環境規制によりむしろ最近の中国の異常な鉄鋼生産の伸びを施し(ここの相関はなかなか示しにくいが)CO2を増やしたのではと考えています。
さらに、排出権取引を国内で行えば、鉄鋼業界が日本で設備投資を強化していくとは考えられない。
CO2の削減のインセンティブの問題を言うが、今なされているCO2削減のほとんどは原発でカバーできる電力中心であり、あまり効果があったとは思いません。
個人的には、世界全体での取り組みをしない限り、CO2削減はうまくいかないと思います。
そのお金があるなら、原子力発電所に設備投資を行うことと、深夜の電力需要を生み出すほうが効果は高いと思ってます。
EUは、鉄鋼の生産量が域内全体で日本やアメリカと同じであり、中国の二分の一程度です。ほかの産業は見ていませんが、鉄鋼だけでもEUは日本より大きく有利な環境であることがわかります。産業構造的にEUがCO2削減を訴える意味がありますが、日本が同じような土俵に立つ必要はないと思っています。
環境問題は、個人的に重要な問題だと思い勉強してきましたが、技術が確立されてないのに定量目標を決めることは意味がないと思ってます。温暖化が進むからこれだけ削減ときめそのスピードで技術革新するということは理想ですが、現実的な目標の立て方としては間違っているように思います。
CO2削減は仰るとおりで世界全体の取り組みが必須だと思いますが、そうなるまでにはまだ長いプロセスを要すると思います。だが欧州と日本及び豪・韓・インドネシアなどの示した意思は実質効果云々より、今先頭を切ってお手本を示し世界を巻き込んで行かなければならない、事態はそれほど切羽詰っている、というものと私は評価します。
長期目標は技術的裏づけの有無より人類 のそうあらねばならないという意志の強さの反映であると思います。2020-30の中期目標でも同じではないでしょうか。政治は今正しい優先順位付けをしなければならない時だと思います。だが、中印など新興国が本気になるのは、最悪の場合自国内で温暖化の被害が許容できないレベルにまで悪化した時かもしれません。人類の知恵はその程度かもしれないと思います。■