ハーシュの「アメリカの秘密戦争」は9.11からイラク戦争の泥沼を関係者の証言を積重ねて政府発表の信頼性を問い話題になった書で、読み易くはないがジャーナリストとしての著者の真摯な姿勢が滲み出た問題の書。日本でもこういう記者とそれを受け入れるメディアがいたらとつくづく思う。
他に一読をお勧めするのはリフキンの「エイジ・オブ・アクセス」は、経済が「所有」から「アクセス」に変化していくと説いたもので、これが全てとは思わないが新時代の底流を読み解く一つのヒントを示唆しているように思える。
藤本隆宏の「能力構築競争」はこの種の本が企業や経営者礼賛になる傾向を廃し、クールに製造業のプロセスを分析し摺り合わせ型とモジュール型に分類、日本産業のあるべき姿を深い洞察力で示している。知人の経営コンサルタント社長は、一連の著作をバイブルにしているという。
そのほかに2.0+を付けた3冊の佳作は、いずれも我国の政治停滞の底を共通して流れる問題を夫々違う角度から指摘したもので、共感するところが多い。
(2.0+)からくり民主主義 高橋秀美 2002 草思社 私の内なる評価は(3.0+)だ。報道される情報の裏側で何が起こっているか、「周回遅れ」で現地を取材し実態を掘り起こしていく。弱者や被害者は常に正義ではなく、既得権益受益者や加害者でもある複雑な構図をとぼけた口調で解き明かしていく。全国から集まってきたマスコミが予断を持ってきて白か黒か性格づけていく。
(2.0+)何故日本の政治経済は混迷するのか 児島祥一 2007 岩波書店 この題名の問いかけに良く答えた内容になっている。我国は「公益」が弱過ぎ「私益」が強過ぎる為、「政治経済ゲーム」、「争点ずらし」、「総論賛成・各論反対」の三つの循環(堂々巡り)が起こっているという仮説は説得力がある。だが、官僚の問題を指摘せず全体として本書の評価を損なっている。
(2.0+)霞ヶ関構造改革・プロジェクトK 新しい霞ヶ関を創る若手の会 2005 東洋経済 省益を優先する縦割り行政を「国民全体のため」に変えるため、総合戦略本部の設置と人事制度の変更を提案したもの。官僚腐敗(敢て言う)を問題提起、予想した内容だが改めてうんざりする指摘だ。提案が受け入れられ程の自浄能力すらあるか疑わしいが、著者の勇気は賞賛に値する。
(2.5)エイジ・オブ・アクセス Jリフキン 2001 集英社 現代は近代社会の物やサービスを「所有」する時代から物が提供する機能に「アクセス」する時代に変化していると説く。そこでは物そのものより「関係」が重要視され、文化は販売になり消費されようになった。物事の流れる「ゲート」で意思決定され重大な要素となる。この新しい時代で健全な経済を生む必須条件は強力なコミュニティの存在、という指摘は著者の哲学的で深い洞察力を示している。
(2.0)経済学者たちの闘い 若田部昌澄 2003 東洋経済 アダム・スミスからシュムペーター、ケインズまで、時々の経済状況と政治家との関りあいが描かれ、現代の問題解決策を示唆している。折に触れて日本の経済学者の短い批評が面白い。
(2.0-)経済論戦は甦る 竹森俊平 2002 東洋経済 デフレ下では構造改革よりデフレ対策を優先せよと大恐慌の例を挙げて主張、折に触れてシュムペーターの創造的破壊とフィッシャーのリフレ主義を対比させる。タイタニック号の沈没を喩え等読み物として面白いが、論理展開の根拠が薄弱で説得性に欠けるように感じる。
(2.0-)奇妙な経済学を語る人びと 原田泰 2003 日本経済新聞 誤解を恐れずに言えば官僚出身なのに叩上げの経営者のような直感的で直截的な決め付けで持論を展開している。中国脅威論に反論、円のアジア統合通貨化を切り捨て、過大評価された銀行の役割等等、一方デフレはお札を刷りさえすれば解決すると主張。地方経済の建て直し論など共感する指摘も多い。
(1.5-)新・日本経済入門 石森章太郎プロ 2005 小学館 副題が「中国がクラッシュする日」で、中国の不動産バブルが何時か崩壊するが、損をするのは外国企業・投資家という警告。漫画で読む経済書を始めてみたが、判り易く素早く読めるが内容は表面的で限界がある。
(2.0)貯蓄率ゼロ経済 櫨浩一 2006 日本経済新聞 貯蓄を種籾に喩え高度成長からバブル、失われた10年まで全てを我国の高貯蓄率で説明し、最近の貯蓄率低下は老齢化の進行による自然な出来事と説き、今後徐々に貯蓄率ゼロに向うと予測。将来は高齢になっても働くのがベストという。しかし、日本を世界から切り離し孤立する解決策というのは現実的ではないように思う。
(2.0)バフェットの銘柄選択術 Mバフェット、Dクラーク 2002 日本経済新聞 世界第2位の資産家バフェットの株式投資実践講座入門編、平明で私のような素人投資家には参考になる。理屈は簡単、設備投資が不要で強いブランド商品をもった銘柄を安い時に買い長く持てというもの。
(3.0-)アメリカの秘密戦争 セイモア・ハーシュ 2004 日本経済新聞 9.11からブッシュ政権前期のアフガン・イラク戦争を丹念に寄せ集めた断片的な事実で語らせる「調査報道」の佳作。アブグレーブ刑務所虐待やイラクの大量破壊兵器保有の情報操作の経緯はいまだ生々しい。上記リフキンやBウッドワードなど調査報道スタイルのNF物は読み難いが豊富な事実で中身が濃い。
(1.5)米中石油戦争がはじまった 日高義樹 2006 PHP この本の価値は米国のタカ派の一部がどう考えているか分かることにある。根拠が明確でない前提に基づき議論が展開するが、一部に興味ある情報が面白い。例えば中国の旺盛な米国不動産投資、72%が将来を楽観視など。
(2.5)能力構築競争 藤本隆宏 2003 中央公論 もの作りを「設計情報の転写」と定義し、転写の難しさによって産業を分類、転写困難で一旦書き込むと消え難い摺り合せ型産業の代表として自動車産業の競争力を、色々な角度からコンセプチュアルに分析したもの。擦り合せ型産業の強さは生産開発現場の総合力、その能力構築競争力にあると指摘、あるべき姿を示す好著である。
(*)エンカウンター・グループ カール・ロジャーズ 1973 ダイヤモンド 集団カウンセリングの草分けとなった著者の個人体験の記録。
(1.5)内部告発者 滝沢隆一郎 2004 ダイヤモンド リアルなシチュウエーションの下で重苦しい展開から最後にどんでん返しが来る”経済小説”だそうだ。最後のバタバタはもっと丁寧だといい。
(1.5)オレたちバブル入行組 池井戸潤 2004 文藝春秋 バブル時代に主人公のような胆の据わった奴がいたか思い出せないが、結構面白い。■