トヨタの品質問題には色々考えさせられる。事件が伝えるメッセージを私なりに少し範囲を広げて読み解いてみたい。
トヨタ大失態の意味
トヨタのリコールは私にはショックだった。日本が世界に誇る最高にして最良の企業が、品質問題を長く隠蔽したと言う、まるで三流企業の仕業をやらかしたという信じられないニュースだった。人命に関る問題なのに対応の遅いと米国メディアや議会から強烈なバッシングを受けている。
数年前に三菱自動車が品質問題による死亡事故を頻発させた時、私は三菱自動車固有の体質に関るとの印象を持った。当時の報道もそういうニュアンスがあったように思う。だが、トヨタとなると話が違う。単に一日本企業が問題を起したのではない、日本最高の企業がズッコケたのだ。日本の報道にもトヨタの行方を按ずるニュアンスを感じる。
それは驕りか、トヨタ体質か
一昨年のリーマンショック後世界中で自動車が売れなくなり、特に燃費の悪い米国の自動車産業が痛撃を受けた。追い風を受けたトヨタが世界一の自動車メーカーになって1年も経たず『高転げ』た。Dハルバースタムの「覇者の驕り」は米国の象徴であるビッグ3と競争し、日本車が受け入れられるまでを懇切に描いた名著だが、今度は世界一のトヨタが文字通り「覇者の驕り」で品質問題を隠蔽し形勢逆転したと見られている。
一つには何であれトヨタの秘密主義が原因している気がする。かつてトヨタのIT利用について調べた時、個別機能で見ると最高のシステムを作りながら、夫々のシステムが連携しておらず全体として機能させるために大変な苦労をし、何年もかけて次世代システムの再構築していることを知った。トヨタ生産方式は公表し世界中に貢献したが、何故システムは秘密にするのか理解できなかった。だが、当時の調査では社内情報を出さないのもトヨタの一方の姿だった。
米国がトヨタ叩きをする理由
一方で今回トヨタを追及する米国のメディアはかつて米国風のやり方を経験した私からみても、チョット過熱気味でやや感情的のように感じる。世界一の企業なら問題があればトップが出てきてさっさと説明して当然、ましてや不都合を知っていたのに長く隠蔽するなど言語道断、という報道には米国的価値観から見て許せないという怒りのようなものを感じる。
多分、それに加えて、先日投稿した「報じられないニュース2010」(http://blog.goo.ne.jp/ikedaathome/d/20100120)で指摘したように、米国民の巨額な税金を使った景気刺激策C4Cで最も利益を得たのがトヨタだったことも一因と私は疑う。そうとは言わないが、「江戸の仇を長崎で」痛烈にやり返しているかのように。それでも米国で商売している以上トヨタは非難を甘受すべきである。
日本人論A: 成功に驕り、問題先送り
事件の背景を語る時、モルガンスタンレーのRフェルドマン氏の日本人論が参考になる。日本人の陥りがちな問題対処方法をCRICと言って、表面を糊塗して根本を見直さないと指摘している。即ち、危機(C)に反応(R)して小手先の改善(I)をして何とかなると怠慢(C)で根本を解決しない傾向があると。脱線するが、政治の世界では根本解決を目指して政権交代後、今はまだ反応と改善を繰り返して先行き不透明、ちっとも危機が去らない最悪の事態から抜け出せない。
日本がまだ高度成長時代の時、「日本は今の繁栄を子孫の時代にも持続できるだろうか」と、英国病で苦しむある英国人の問いかけが今でも記憶に残っている。その時は負け犬の遠吠えと思いながらも、引っ掛かりがあった。それは当時の日本人に驕りがあることが私にも秘かに感じられたからだ。その後、日本はバブル崩壊と失われた10‐20年を経てかなり酷い状態になった。たった一代も持たなかったということだ。当時言われた「日本人の勤勉さ」に基づく優位性は崩れた。
日本人論B: サムライ魂
先週土曜日に長男の結婚式で最後に両家を代表してスピーチをした。久し振りに沢山の将来ある人達の前で話せる機会だったので、場違いだが彼らを次世代リーダーに見立てて挨拶の中で期待を述べた。人気テレビドラマ「坂の上の雲」と「坂本竜馬」を例に、幕末から明治維新にかけ忽然と若者が現れ日本を救った。だが近代史を辿れば日本は特別で、他の国ではそんなに都合よく行かなかった、我々は感謝すべきと。
何故日本は特別だったか、私はサムライ魂という遺伝子が何代にも渡って伝えられてきたからだと思う。立役者の多くは貧しい下級武士出身だった。極貧の中でも何世代にも渡って伝えられた何百何千の「サムライの遺伝子」が300年間伝えられ、時が来て国の為に立ち上がった(その多くは犬死だったかもしれない)。
次世代を担う人達の出番はなくともしっかり遺伝子を後世に残して欲しいと、無理やり挨拶にもぐりこませた。今蔓延るポピュリズムがこの精神を劣化させているように感じる。トヨタの中もそういう化学変化が起きているのかも知れない。世界のトヨタには最早極貧の下級武士はいない。失うものが多すぎて、目先の利益を優先し今回の失敗に繋がったのかも。
頑張れトヨタ!
今の政治が格差や貧困などの弱者救済に熱心だが、何故極貧の下級武士が日本を救えたのかその本質を考えよというメッセージを伝えたかった。弱者救済を訴える一方で少しの成功でも驕り華美に走り、いとも簡単に進むべき道を見失う、そんな馬鹿な姿を追いかけるテレビ番組を見るのは実に苦々しい。だがバブルが弾け世界同時不況になってもまだ続いている。
ということで私についていうなら、正気を保つ為に心がけていることがある。私には普段の質素な生活態度を維持することが、浮き沈みがあっても正気を保つために最も簡単で有効なやり方のように思う。
トヨタが失った信頼は容易には取り返せないだろう。ナショナル(松下電器)が人命に関るかもしれない不良製品が出た時、巨額の機会損失が出ると予想されたが、全広告を止めてリコールに集中して実施しブランドを守り信頼を高めた。その時にあるべき姿が決まったはずだった。トヨタに出来ないはずがない。遅すぎるということもない。但し、今となればここまでやるのかと誰もが驚く踏み込んだ対策が求められるだろう。頑張れトヨタ!■