海岸から15km、標高200m程の山間の村まで行った
本格的な雪景色を撮ろうと張り切ってカメラを持って行ったのに、バッテリーが入ってない
充電中で取り外していたのを忘れていた
それじゃ携帯で・・・と思ったら、携帯も会社に置き忘れで、どうにもこうにも
しかし山間部にもかかわらず路肩の積雪は50cm弱しかない
そのうちに尿意をもよおしてきた、積雪は無いものの寒さが半端でない
車内の暖房もだんだん威力が無くなってきて、重ね着の下半身もどんどん冷えてくる
野も田も雪一色で、立ちションするにはどこでもOKモード、こりゃそうするしかないか・・
雪と立ちションには若い日の思い出がある
結婚して間もない頃、信州の古本屋のA夫婦と知り合いになった
春から秋は古本販売であちらこちらの町を移動して売って歩き、冬はスキー客の
ペンション経営という自由業
自身も大学時代は国体やら全日本のスキー競技に参加したスキーヤー、奥方も同じで
その長野県の選手合宿で知り合ったとか
当時魚屋を経営していた私はその信州のスキー場のホテルに魚を納入していて
時には一泊でそのホテルに泊まり、ホテルのオーナーの息子と酒屋の倅と、Aさんの
ペンションに入り浸って一晩中呑み語りをしていた
Aさんはなかなかのナイスガイ&スポーツマンでしかもミュージシャンでもあるから人脈も有り
出入りしていた人の話では井上陽水や小室等とも親交があり、まれにここに来ると言っていた
真偽はわからない、だが新婚当時の女房殿が大事にもってきたローカル的なフォークグループの
レコードのメンバーと、この店で一緒に飲んだ
その時は焼酎の一升瓶と、越後の酒の一升瓶を車座の真ん中に置いてコップ酒
私はそれほど飲めない頃だったので、このように、つぎっこなしの手酌ルールはとてもありがたかった
信州人はこのようにクールで理屈っぽくて革新的で、若者は反体制的な人が多く、北陸人、越後人とは
ほぼ正反対な生き方の様に見えた。
そのうちにピアノにフォークギターにドラムにと楽器が置いてあるこの部屋でにわかセッションがはじまった
Aさんは話しに違わず、なかなかの歌前で満喫させてくれた
私も加わってPPMやブラザースフォー、ジョンバエズ、ボブディランなどの曲をサブ的に応援してわいわいと
やり始めたのだ、なにしろ二流とは言えレコードを発売しているプロもいるのでかなりの盛り上がりになった
自分もすっかり酔ってしまって、このメンバーの中に混じるとかなりの腕前になった錯覚を起こした。
夜もしんしんと更けて夜半過ぎ、トイレに行きたくなって立ち上がり窓の外を見たら明るかった
なにげにトイレでは無く、外に出てみた
そこはもう標高1200mのゲレンデで一面が真っ白な世界、斜面が上にも下にも伸びていてそれは凍えて
テカテカと輝いていた、頭上を見上げると満月
寒さも感じずに僕はどんどんゲレンデの中央に向かって歩いた
ゲレンデはすっかり凍り付いていて1cmたりとも靴は沈み込まず、転ばぬ様に注意深くなおも歩いた
ペンションが少し遠くなったところはまさにゲレンデのど真ん中
やおらジッパーを下ろして、ゲレンデのど真ん中に放水をはじめた
なんという贅沢な「立ちション」 生まれて初めて経験するワイルドで開放的な・・・・
凍り付いたバーンの一点に穴が広がって、それは地球の裏まで届く様な勢いで
真っ直ぐに中に向かって行った
空は満月、辺りは人っ子一人いない一面の雪野原、ゲレンデの端にはディズニー映画のようなかわいいペンションが
建ち並びこぼれる窓明かり
そのまま背を下に大の字になってゲレンデに寝転んだ、何とも言えない現実離れした開放感
僕はすっかり酔っていた、こんな気持ちよい空間に体を任せたのはこれが最後だった