見もの・読みもの日記

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岡倉天心を読む/ワタリウム美術館

2005-06-22 14:31:17 | 行ったもの(美術館・見仏)
○ワタリウム美術館『岡倉天心展-日本文化と世界戦略』

http://www.watarium.co.jp/

 岡倉天心というのは、なんとなく困った存在だ。古美術好きの私にとっては、日本の伝統美術の再認識と復興に尺力してくれた大恩人である。フェノロサとともに、法隆寺夢殿の扉を開き、救世観音を「発見」したときの逸話はあまりにも有名で、あまりにもカッコいい。

 英語に堪能で、ボストン美術館の中国・日本美術部長を努め、英文で日本文化を紹介する本を書いた。(今回初めて知ったのだが)中国では西安から成都・重慶に至る大旅行(偽の辮髪を付けて!)を敢行し、インドでは国民詩人タゴールと親交を持ち、インド人女性とラブレターを交わすなど、言葉どおり東奔西走し、当時としては突出した国際派であったと思われる。

 しかしまた、著書『東洋の理想』の書き出し「アジアは1つ」は、あまりにも大東亜共栄圏の政治スローガンそのままである。この点、私はどうしても警戒心を解くことができない。

 そんな混乱した印象を抱きながら、この展示会を見に行った。会場には、天心の書簡、原稿、作品などが展示されていたが、多くの観客は、むしろ天心そのひとの生涯を解説した説明スクリーンを熱心に読みふけっていたように思う。

 とにかくおもしろいのだ。貿易商の家に生まれ、幼い頃から英語学校に通っていたが、たまたま道標の漢字が読めなかったので、両親が「これでは日本人と言えない」と嘆いて、漢学の塾に遣られたとか、学生結婚の妻と、卒業間際に喧嘩して、政治学をテーマに書いていた卒業論文を燃やされてしまい、慌てて美学の論文を書いて提出したとか。

 美術学校の創設に当たり、奈良時代の朝服を真似た制服を定め、愛馬「若草」にまたがって登校したとか(会場に写真あり)。アメリカでは、180センチ近い長身を和服に包み、超然としていたとか。九鬼隆一夫人・波津子との三角関係とか。

 下手な小説家ではとても創作できないような、波乱とエピソードに富んだ生涯である。岡倉天心という人物が全て分かったとはとても言い難いが、その幅の広さと深さには、少し触れることができたように思う。
コメント (2)
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