見もの・読みもの日記

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縄文からモダンキッチン/天下無双の建築学入門

2005-06-12 09:34:21 | 読んだもの(書籍)
○藤森照信『天下無双の建築学入門』(ちくま新書)筑摩書房 2001.9

 藤森照信氏は、1980年代、近代洋風(および擬洋風)建築を語る「建築探偵」として、私の前に現れた。赤坂離宮、駒場公園の旧前田侯爵邸、松本開智学校など、有名どころの魅力再発見に加えて、小笠原伯爵邸(今はレストランになっている!)とか、会津のさざえ堂なども、藤森先生の著作を通して知った「物件」である。

 その後、著者は、京都の桂離宮、長野の仁科神明宮、韮山の江川邸の土間、福井の大滝神社の複雑な屋根の造りなど、伝統的な和風建築にも、新鮮な視点を持ち込んで、評論の対象を広げていく。

 一方、実際の家造りでは、漆喰・割り板などの自然素材を多用し、屋根や壁面に植物を植えるなど、自然と共生する建築を目指した。キーワードは、主宰する素人建築集団の名前にもなっている「縄文」である。

 本書は、そうした著者の履歴を総ざらえしたような建築学と建築史の入門書だ。さらに本書には、これまでの著者の単行書では比較的語られることの少なかった、新鮮な、そして重要な一連のエッセイが加わっている。それは、我々がいま、実際に住んでいる普通の近代住宅の出自について、問いなおすものだ。

 ダイニング・キッチンという日本独特の間取りは、いつ誰が発明したものか。ステンレス流し台は誰が作ったか。雨戸は日本以外の国にもあるものか? ヴェランダは? 日本人は引き戸とドアーをどう使い分けてきたか。日本のドアーと他の国のドアーの違いは何か。世界各国の冷房事情と暖房事情はどうなっているか。なぜ日本の近代住宅はこんなに「明るい」のか。等々。

 時には戦後の公団関係者の証言を引き、時には江戸、時には室町の書院づくりに起源をさかのぼり、時には縄文の記憶に想像をめぐらせ、縦横無尽に論が展開する。

 専門家にとっては初歩の初歩なのだろうが、建築学の門外漢にとっては、桂離宮や法隆寺などの「名建築」を論じたものよりも、かえって「目からウロコ」の感があって、面白かった。林丈二さんのイラストも楽しい(もう少し大きくてもいいのに)。
コメント
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