見もの・読みもの日記

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週末奈良紀行(1)吉野蔵王堂

2005-06-27 23:50:36 | 行ったもの(美術館・見仏)
○金峯山寺蔵王堂(奈良県吉野郡吉野町)

 思い立ったが吉野路。この数週間、6月のカレンダーを見るたびに、ああ、蔵王堂の秘仏・金剛蔵王大権現のご開帳も、いよいよ、この月末までだなあ、と思ってやきもきしていた。今年1月、三尊の威容に接したときの感動が忘れられなくて、扉の内側にお隠れになる前に、どうしても、もう一度、お姿を目に焼き付けておきたいと思ったのだ。

 現実的には、この週末が最後のチャンスだった。金曜の夜、まだ奈良のビジネスホテルが取れそうだったので、覚悟を決めてしまった。財布を見たらほとんど所持金がなかったので、慌ててコンビニで預金を下ろして来た。これで新幹線の切符も買える。

 というわけで、土曜日の朝、東京を出発。新幹線と近鉄特急を乗り継ぎ、昼過ぎに吉野に到着した。この旅行、とにかく蔵王大権現のお姿をしっかり目に納めることが目的だが、できれば1月に断念した奥千本の西行庵にも行ってみたい。万葉の故地・宮滝に行ってみるのもいいかな、などと、さまざまな欲念に思いを乱しつつ、蔵王堂に向かう。

 ご開帳の結願が近いせいか、蔵王堂は結構な人出だった(お寺の方が「今日は桜の季節並み」とおっしゃっていた)。1月に来たときは、ガランとした外陣の畳に、好きなように座って、三体の蔵王大権現のお姿を、飽かずに眺めさせてもらったものだが、この日は人が多くて、なかなかお姿を拝める前列に進むことができない。また1月は、別の蔵王大権現像の「ご帰還」に当たっていたため、関係者は大忙しで、拝観客はほとんど放置状態だった。この日は、お寺のお坊さんが、交代で30分ほどの説法をしてくれている。

 これがなかなか聞き応えがあった。蔵王堂の柱は、きちんと製材されたものでなく、わざと自然の風合いを残していること、杉だけでなく、ツツジや梨の木など雑多な用材が混じっていること、これは山林を堂内に再現しようとしたもので、大自然そのものに霊力を見る修験道の思想に通じている、というお話が興味深かった。

 また、「どうぞお参りしてお帰りください」とお勧めになったあと、「自分はお参りに来たのではない、何か知らんが、めずらしい仏さんのご開帳を見に来ただけや、という方もいらっしゃると思いますが、それで結構やと思います。今日ここにいらしただけでも、皆さんには蔵王権現さんとのご縁があるのです」「今生だけではない、過去も未来も、きっと蔵王権現さんにお守りいただけます」とおっしゃっていただいて、なんだかとても嬉しかった。

 そうだなあ。縁がなかったら、こんなふうに突発的に、引き寄せられるように、東京から吉野まで来ないよなあ。たぶん。

 それから、1年間に渡る「世界遺産登録記念」の特別ご開帳に触れて、「世界には、人類には、さまざまに異なる文化がある、それを互いに尊重しよう、というのが世界遺産の意義ではないか」というお話も、深く私の心に残った。

 こうして1時間近くもお堂にいたのだが、奥千本に向かうバスの時間が迫ってきたので、最後は慌しく蔵王堂を後にした。次に来るときは、ご本尊のお姿は拝めないかもしれないが「必ずご縁がある」とおっしゃっていただいたことを信じたいと思う。
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