見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

息苦しい時代に/「悩み」の正体(香山リカ)

2007-04-03 23:08:33 | 読んだもの(書籍)
○香山リカ『「悩み」の正体』(岩波新書) 岩波書店 2007.3

 年度末のゴタゴタが終わって、しばらくぶりで本屋に行った。いろいろ面白そうな本が目についたが、回復期の病人食みたいなもので、軽めのエッセイから入ろうと思った。

 本書は、精神科医である著者が見聞した、さまざまな現代人の「悩み」について論じたものだ。なんとなく自分の周りを見回しても覚えがある。たとえば「成長と進歩」や「自分らしさ」を追い求めて、忙しく仕事をし続けていないと不安にかられる女性たち。自分に鞭打ち、過剰なまでに他人に尽くすことで「私は誰かのために役立っている」という充足感を得ようとする女性たち。それは正しい「悩み」なのか?

 「立ち止まってはいけない」とか「何かしなければ、他人に大切にされない」とか、あるいは「子どもがいないのは不幸なことだ」「老いるのは恥ずかしい」という強迫観念から自由になって、自分を肯定しようと著者は言う。しごく当たり前の主張である。しかし、こんな当たり前の主張を、あらためて言わなければならないほど、現代人に蔓延する「悩み」の根は深いらしい。

 著者の紹介している事例によれば、最近は典型的なうつ病(それなりに「安定した病」で治療計画も立てやすい)ではなくて、気分や状態がめまぐるしく変わるタイプのうつ病「気分変調症」が増えているそうだ。また、うつ病の部下のフォローに責任を感じた上司が、「二次性うつ病」にかかるケースも増えているという。いやな時代である。

 同じことなら、著者のいうように、人生を豊かにしてくれるような「悩み」を悩もう。安心して、ゆっくり悩もう。でもこれは中年の開き直りかもしれない、と著者と同い年の私は思った。

コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする