見もの・読みもの日記

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江戸の動物たち/府中市美術館

2007-04-08 21:53:34 | 行ったもの(美術館・見仏)
○府中市美術館 企画展『動物絵画の100年 1751-1850』

http://www.art.city.fuchu.tokyo.jp/

 動物を描いた絵を集めてみました――というのは、この規模の美術館として「いかにも」な企画である。安上がりなわりに、春休みの子ども連れにはウケが良さそうだし。とまあ、初めて本展のタイトルを見たときは、やや意地の悪い印象を持った。

 しかし、実際に行ってみて、よく練り上げられた企画だということが分かった。本展が取り上げる1751年から1850年の100年は、その中間に寛政~文化文政期を挟み、ペリー来航(1853)の直前まで。日本の「近世」の確立期であると同時に、雪崩を打つように、あわただしい「近代」に突入する直前の100年である。

 この時期、日本文化には、さまざまな「新しいもの」が加わり、前時代に比べて格段に内容が豊かになった。動物絵画では、たとえば描かれる動物の種類。ニューギニア産のカンムリバトやヒクイドリも、実際に日本にもたらされていたらしい。

 絵画技法の上では、清の沈南蘋が中国からもたらした写生的な花鳥画が、日本画壇に大きな影響を与えた。続いて、西洋絵画に学んだ司馬江漢らが出た。これらの流れを受けて生まれたのが、円山応挙の(古くて新しい)「写実」なのである。なるほど~。やっと、この時期の絵画史が整理されて頭に入った。

 応挙筆『木賊兎図』(絹本著色)は、白い兎が2匹と黒い兎が1匹(ただし鼻の頭から首にかけては白い)を描く。身を寄せ合うようにうずくまった3匹の背後には、一叢の木賊(とくさ)があるだけ。広い空間が不安と緊張を誘い出し、小動物の可憐さを引き立たせる。実はこの作品の展示が今日(4/8)までだと気づいて、慌てて見に行ったのである。行ってよかった。白兎の輝くような毛並み、黒兎の、つつきたくなるような柔らかそうな頬っぺたが、微笑ましい。

 兎を描いた日本画って、あまり無いよなあと思っていたら、もう1枚、源の『双兎図』というのも出ていた。こちらは墨画淡彩。後ろを向いた黒兎がタマネギみたいで可愛い。

 長沢蘆雪は相変わらずいいなあー。虎もいいし、スズメもいいし、朝顔の蔭に佇むイタチもいい。悪童にぶら下げられた仔犬もいいが、私は『鷲・熊図』を推す。向かって左画面が熊図。太い鈎爪は恐ろしげだが、当人は酔っ払いの親父みたいに情けない表情で、半身をひねって寝そべっている。つやつやした黒い毛並みが、うちのぬいぐるみのクマ(アメリカ生まれ)にそっくり。右画面の鷲は、眼光鋭く、巻毛を思わせる羽毛が、西洋古典画の武人みたいである。

 ”熊”というのも、伝統絵画では珍しい主題だと思う。いや、”猿”だって、中国ふうの猿猴図(テナガザル)はあっても、ニホンザルはいつから描かれたのか。いろいろ考えると、興味は尽きない。

 さまざまな画家の描いた”虎”を集めたセクションは楽しい! これ、一度やってもらいたかった企画である。本展の蘆雪『虎図』は、わりとリアルである。しかし、動物の専門家によると「あれは猫の目」だそうだ。桑山玉洲の描く虎の目も変だよなー。鍋の蓋を貼り付けたみたいだ(アンデルセンの童話じゃないけど)。しかし、なんとも言えない迫力。宋紫山の『虎図』(双幅)も、七色に光る目が妖怪じみている。北斎の『竹林に虎図』は、人虎伝説を描いたのじゃないかと思われて変。仙涯の『虎図』は、よくぞこんなの見つけてきた、と思った。必笑。

 数は少ないが展示替えがあって、来週から後期に入る。蘆雪の『牛図』見たいなあ~。また行っちゃおうか、思案中。
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