見もの・読みもの日記

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露伴先生かたなし/しくじった皇帝たち(高島俊男)

2008-02-18 00:12:30 | 読んだもの(書籍)
○高島俊男『しくじった皇帝たち』(ちくま文庫) 筑摩書房 2008.1

 天下をパーにした二代目皇帝を論じた2編を収録。最初が隋の煬帝。悪逆非道、暗愚な浪費家として悪名高いが、史実は、特別ひどい皇帝だったわけではない。死んだあとで、悪いことは全て押し付けられ、あることないこと、こしらえられて、ダメ皇帝の代表のようになってしまった。

 もう1人は明の健文帝。太祖洪武帝(朱元璋)の後を継いで即位したが、叔父の燕王(のちの永楽帝)に皇位を簒奪される。ただし、燕王軍が南京に攻め入ったとき、健文帝は僧侶に変装して地下道から逃亡し、忠臣たちとともに39年の間、各地を放浪したという伝説がある。これを「健文出亡伝説」と言い、幸田露伴の小説『運命』は、これを題材にしたものである。

 ええ、知らなかった。実は『運命』読んでないのである。この作品は「一般に、露伴の生涯第一の傑作とされてきた」そうだ。しかし、その文章は、タネ本『明史紀事本末』を、ほとんどそのまま引き写しているだけである、と著者は指摘する。独自に付け加えた文辞もあるが、これがまた「漢文張扇」式で、けたたましいばかりで内実がない。史料の理解も粗雑だし、そもそも、あり得ない与太話を、露伴は頭から信じて『運命』を書いている、と著者の批判は留まるところを知らない。

 史談の名手といわれる露伴先生にもこんな瑕瑾があったとは。それ以上に、21世紀の今日まで、誰も同様の指摘をしなかったことが不思議である。和漢洋の文献を自在に扱う能力は、露伴の世代で消滅し、その後は、露伴の読者といえども、原点の漢文資料まで目配りすることができなくなってしまったからだろうなあ。

※露伴の『運命』は、青空文庫で読める。ありがたい。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000051/files/1452_16991.html
コメント
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