見もの・読みもの日記

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色彩から墨色へ/田渕俊夫展(日本橋三越)

2009-01-07 23:01:02 | 行ったもの(美術館・見仏)
○日本橋三越本店ギャラリー『田渕俊夫展』(2008年12月27日~2009年1月18日)

http://www.mitsukoshi.co.jp/store/1010/tabuchi/

 日本画家・田渕俊夫氏の「画業40年、東京藝術大学退任」を記念する回顧展である。院展初入選時の初期作品を含む「プロローグ」、岩絵具の美しさを極限まで引き出した「色彩に魅せられて」、そして近年の大作、永平寺、鶴岡八幡宮の襖絵など「墨色に魅せられて」の3部構成で、50余点を展示している。

 私は、田渕俊夫氏というと、反射的に「青みがかった緑色」を連想する。70年代の同氏は、細い線で描かれた繁茂する植物、それを霞のように覆う緑色、という作品(上記サイトの画像でいうと『明日香栢森』1976年)を、繰り返し飽きずに描かれていたように思う。今回の回顧展では、80~90年代の同氏が、「緑」だけではなく「赤」「青」「金」など、さまざまな色彩の美しさを作品にしていることを初めて知った。単に「色彩の美しさ」と言っては陳腐にすぎる。純粋な「赤」や純粋な「金」――ほとんど抽象化された「色彩」であると同時に、岩絵具の即物的な性質そのもの――に対して、全身全霊で「帰依」しているような敬虔さが感じられる。

 これだけ「色彩」の美学を極めながら、2000年頃から、同氏は水墨画に新たな挑戦を始める。画家って貪欲だなあ。私は、田渕氏の水墨画はあまり好きではなかった。表現が斬新すぎて、どこか安っぽいポップアートみたいだなあ、と思っていたのだ。これは写真から受けた印象である。今回、現物を間近に見て、墨の香りが匂い立つような生々しい迫力を感じることができた。モノトーンの画面から、さまざまな色彩が滲み出し、脳裡に広がっていくようだった。

 私がいうのもおこがましいが、同氏には、人目を引いたり、時流に乗るために奇を衒った作品というのは1点もなくて、地道に研鑽を積まれて、今日に至られたという感じがする。色彩から水墨画へ。このあと、もう1回くらい、思わぬ転身を見せてくれるのではないかと思う。
コメント
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