見もの・読みもの日記

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対立を生む社会空間/思想地図 Vol.2:特集・ジェネレーション

2009-01-05 21:37:58 | 読んだもの(書籍)
○東浩紀、北田暁大編『思想地図』Vol.2:特集・ジェネレーション(NHKブックス別巻) 日本放送出版協会 2008.12

 2008年4月に創刊された『思想地図』は「叢書」NHKブックスの別巻であって、同時に「雑誌」を名乗るという、ユニークな出版物。第2号は「ジェネレーション」を特集し、家族、労働、世代間対立などの問題を扱う。

 しかし、本書に掲載されている若い世代の論考は、どれも抽象的・哲学的で、あまり胸に響かなかった。もちろん、本書は、社会政策や経済政策を提案する場ではない(題名が「思想地図」なんだし)。とは言え、年末年始のニュース報道で、今日を生きるための衣食住にも事欠く、「ロスジェネ世代」の生々しい姿を見てしまうと、抽象的な思弁が許される論者たちの「特権的な」立ち位置が、なんだか空々しく見えてしまうのだ。

 その点では、団塊世代の代表として登場する上野千鶴子氏は、いっそ見事なヒール(悪役)ぶりである。同氏は、著書『おひとりさまの老後』の中で、団塊世代は親から何も受け継がず、独力で全てを築いたのだから、自分一代で全てを使ってしまおう、と提唱しているそうだ。東浩紀氏は、これを「誠実な暴言」と批判的に受け止め、北田暁大氏が上野氏に真意を聞くインタビューを試みているのだが、受け答えはケンもホロロ。私が団塊ジュニアだったら殺意を抱くと思う。

 後半は、第二特集「胎動するインフラ・コミュニケーション」と題し、2編の座談会が組まれている。こっちのほうが、問題の抽象性と具体性のバランスがよくて、面白かった。印象的だったのは、東氏が触れている『ある島の可能性』という小説。登場人物の20代女性は「人員削減計画に反対してデモを起こすなんて、気温の低下や北アフリカのバッタの大群の襲来に反対してデモを起こすくらい、ナンセンス」だと考えている。つまり多くの現代人は、市場経済を自然環境のように感じているのだ。これは、とても共感をもって読んだ。問題は、社会空間=アーキテクチャ(環境)の捉え方にあるということだ。

 最後に、最も興味深く読んだのは、鈴木健氏の論考「ゲームプレイ・ワーキング」。人間が「遊ぶ」ことでコンピュータの精度を高め、付加価値を生み出していくという「ヒューマン・コンピューティング」の実例が紹介されている。「reCAPTCHA」というシステムでは、OCRが読み取りに失敗した単語画像データをCAPTCHAとして配信することで、図書館などの学術文献のデジタル化を助けているそうだ。かつてコンピュータは人間だった、という指摘にもハッとした(20世紀半ばまでは、天文学などで必要とされる膨大な計算も人間が行っていたのだ)。人間と電子コンピュータは、意外と持ちつ持たれつで、助け合っていけるものなのかもしれない。
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