見もの・読みもの日記

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『長谷雄草紙』お見逃しなく!/源氏千年と物語絵(永青文庫)

2009-01-19 22:11:54 | 行ったもの(美術館・見仏)
○永青文庫 冬季展『源氏千年と物語絵』(2009年1月10日~3月15日)

http://www.eiseibunko.com/

 どうなんでしょう、この展覧会タイトル。人によって反応は異なると思うが、私は、ああ、また源氏千年紀か、と思って、スルーするところだった。ところが、ふと見たチラシに絵巻『長谷雄草紙』の写真を発見し、たちまち、頭に血がのぼってしまった。平安朝の高名な学者、紀長谷雄(きのはせお)が朱雀門で鬼と双六をして勝ち、絶世の美女を手に入れるが、百日の禁を破って抱こうとしたため、女は水になって消えてしまう――という妖しくエロチックな物語を知ったのは、80年代、澁澤龍彦か荒俣宏か小松和彦あたりの本だと思う(澁澤龍彦がこれを題材とした創作小説「女体消滅」は『唐草物語』所収)。以来、長年、見たい見たいと思い続けていた絵巻なのだ(→大絵巻展)。

 ありがたいことに永青文庫のホームページには、詳しい場面替え表が掲載されている。全場面見るには8回通わなければならないのか…。どうしても見たいのは「4」と「6」だが、何かと忙しい年度末、断れない休日出勤はあるわ、秘仏ご開帳もあるわで、先の予定が読めない。とりあえず初回を見に行ってきた。巻頭は「見知らぬ男、禁裏に出向しようとした長谷雄を訪ね、双六の勝負を挑む」という、平々凡々とした場面。絵師の筆は、お世辞にも巧いとは言い難い。けれど、この下手さが、尋常ならざる物語が進むにつれて、次第にいい味になるんだよな~。

 ほかにも興味深いものがたくさんあった。永青文庫は旧熊本藩主細川家ゆかりの美術館であるが、細川家の始祖・幽斎(藤孝、1534-1540)が、戦国武将の身で、同時に当代随一の源氏学者であったことは、恥ずかしながら初めて知った。そうであれば、永青文庫が「源氏千年」を祝うのは当然すぎる話である。幽斎が筆写した『源氏物語(紅白梅蒔絵箪笥入)』は、本文の横に丹念な注釈が書き込まれている。注釈は本文の10分の1ほどの細字だが、実に読みやすい筆跡である(話題の東大生のノートみたい)。

 江戸前期の『源氏物語(土佐派表紙絵付)』は、なんと表紙に絵が貼ってある! これは珍しい。地の表紙は金を散らしたような深黄色。そこにほぼ方形の2枚の紙を、ややずらして重ね貼りする。下側は金泥の草木文。上側に土佐派らしい人物風景図が描かれている。もとの色合いは分からないが、金・銀と墨線しか残っていないので、まるで蒔絵を見るようだ。昨年秋、熊本大学で初公開されたばかりというから、東京ではこれが初お目見えかな(→熊本大学附属図書館報[PDF])。

 『秋夜長物語絵巻』も初見だろうか。稚児と僧侶の恋物語。天空高く張り出した石山寺の縁先に寝そべった僧侶が、運命の恋人となる稚児・梅若を夢に見るところ、浮世離れした雰囲気が面白い。江戸時代の『絵入平家物語』は実に美麗だった。嫁入り本だろうというが、源氏や伊勢ならともかく、こんな勇ましいものを持って嫁入りすることもあったのか。あと、平家物語に取材した三所物(みところもの。刀剣のアクセサリー。目貫=めぬき、笄=こうがい、小柄=こづか)『源頼政鵺退治図』や、目貫『錣引(しころびき)図』がひそかにカッコよくて、思わず微笑んでしまった。

 もうひとつ、2階でお目にかかった意外な作品を記録しておきたい。『熱国之巻』で知られる今村紫紅の3幅対『三蔵・悟空・八戒』。のほほんとした雰囲気に心なごむ。今後、私のお気に入りとなりそうである。

 なお、永青文庫では昨年11月から、敷地内にある旧細川護貞邸を別館サロンとして公開している。おそるおそる入ってみると、セルフサービスの湯茶も用意されていて、陽だまりの庭を眺めながら、ゆっくりくつろげるスペースになっている。壁際には、細川護熙氏、息子の護光氏の陶芸作品が展示されている。細川護熙さん、いい作品つくるなあ。作業着姿の写真も、総理の頃よりずっといい顔をしていると思った。
コメント
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