○銀座三越 『山口晃展 東京旅ノ介』(2010年12月28日~2011年1月10日)
山口晃さんの個展を初めて見に行った。意外と小さい作品なんだな、というのが第一印象。あの緻密さだし、原作品は、もっと洛中洛外図屏風みたいに大きいのかと思っていた。私は彼の作品を見ていると、日本の古典文学でいう「引き歌」を思い出す。どこかで見たことのある、懐かしいパーツで人目を引きながら、全体としては、全く見たことのない風景を創り出してしまう手法である。
冒頭には『東京圖 六本木昼圖』(2002年)や『百貨店圖 日本橋 新三越本店』(2004年)など、東京のランドマークをモチーフにした作品が並ぶ。金雲に縁取られた画面に、古今の風俗の人々が仲良くひしめく様子は、新春に似つかわしくおめでたい。こういうのって、画家が勝手に着想して描いているのか、頼まれたのか、どっちなんだろう、と思っていたら、あるトークイベントで「三越さんに『山口さん、暗いのはあきまへん』と言われまして、賑やかに描きました」と語っていらっしゃるのを発見した(※フェリシモ:神戸学校)。
戦国武将をモチーフにしたクール系の作品群には、代表作『最後の晩餐』も。桔梗紋を背にした武将が明智光秀であるらしいことは分かったが(これも「へうげもの」つながり)、ほかの人物は? たぶん何か典拠にしている肖像画や史料があるんだろうなあと思う。いや、ないのかもしれないけど…。
それから、絵葉書大の小品を主とする『日清日露戦役擬画』シリーズ。これを見て、記憶によみがえったのは、2005年、ていぱーく(逓信総合博物館)で行われた特別展『梨本宮妃殿下コレクション~日仏絵はがきの語る100年前』。日清日露戦争当時って、まだ写真よりも絵画が重要なメディアだったので、写実的だったり風刺的だったりする、さまざまな戦争絵画が残っている。山口さんは、それらに触発されたのじゃないかな、と思う。でも黒鳩の冑をかぶったクロパトキン(たぶん)とか、説明がないと分からないだろうなあ、と思う。
後半では、日本経済新聞の連載エッセイ「美のよりしろ十選」を紹介。山口晃さんが、日常風景の中で「美のよりしろ」と感じるものは、「ハンディカムの蓋を開けたところ」「浜松町-羽田モノレールの車内」「波板(半透明の建築材)」「寺にある小屋(拝観券やお札類の販売所)」「電柱」等。モノレール車内の座席配置に「桂離宮の新御殿上段の間の桂棚」を思い起こし、「波板」について「小堀遠州あたりに託すと、さぞかし奇麗さび極まるしつらえに結実させてくれるだろう」と述べる。一瞬、からかわれたかと思って唖然とし、それから、うーんと唸る。個人的には、「寺にある小屋」に膝を打ってしまった。そうそう、茶室みたいに見事な趣きの小屋ってあるよね、と。このエッセイ、早く本にならないものかな。全部読みたい。
山口晃さんの個展を初めて見に行った。意外と小さい作品なんだな、というのが第一印象。あの緻密さだし、原作品は、もっと洛中洛外図屏風みたいに大きいのかと思っていた。私は彼の作品を見ていると、日本の古典文学でいう「引き歌」を思い出す。どこかで見たことのある、懐かしいパーツで人目を引きながら、全体としては、全く見たことのない風景を創り出してしまう手法である。
冒頭には『東京圖 六本木昼圖』(2002年)や『百貨店圖 日本橋 新三越本店』(2004年)など、東京のランドマークをモチーフにした作品が並ぶ。金雲に縁取られた画面に、古今の風俗の人々が仲良くひしめく様子は、新春に似つかわしくおめでたい。こういうのって、画家が勝手に着想して描いているのか、頼まれたのか、どっちなんだろう、と思っていたら、あるトークイベントで「三越さんに『山口さん、暗いのはあきまへん』と言われまして、賑やかに描きました」と語っていらっしゃるのを発見した(※フェリシモ:神戸学校)。
戦国武将をモチーフにしたクール系の作品群には、代表作『最後の晩餐』も。桔梗紋を背にした武将が明智光秀であるらしいことは分かったが(これも「へうげもの」つながり)、ほかの人物は? たぶん何か典拠にしている肖像画や史料があるんだろうなあと思う。いや、ないのかもしれないけど…。
それから、絵葉書大の小品を主とする『日清日露戦役擬画』シリーズ。これを見て、記憶によみがえったのは、2005年、ていぱーく(逓信総合博物館)で行われた特別展『梨本宮妃殿下コレクション~日仏絵はがきの語る100年前』。日清日露戦争当時って、まだ写真よりも絵画が重要なメディアだったので、写実的だったり風刺的だったりする、さまざまな戦争絵画が残っている。山口さんは、それらに触発されたのじゃないかな、と思う。でも黒鳩の冑をかぶったクロパトキン(たぶん)とか、説明がないと分からないだろうなあ、と思う。
後半では、日本経済新聞の連載エッセイ「美のよりしろ十選」を紹介。山口晃さんが、日常風景の中で「美のよりしろ」と感じるものは、「ハンディカムの蓋を開けたところ」「浜松町-羽田モノレールの車内」「波板(半透明の建築材)」「寺にある小屋(拝観券やお札類の販売所)」「電柱」等。モノレール車内の座席配置に「桂離宮の新御殿上段の間の桂棚」を思い起こし、「波板」について「小堀遠州あたりに託すと、さぞかし奇麗さび極まるしつらえに結実させてくれるだろう」と述べる。一瞬、からかわれたかと思って唖然とし、それから、うーんと唸る。個人的には、「寺にある小屋」に膝を打ってしまった。そうそう、茶室みたいに見事な趣きの小屋ってあるよね、と。このエッセイ、早く本にならないものかな。全部読みたい。