見もの・読みもの日記

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怖くて愛らしい幽霊たち/福岡市博物館所蔵 幽霊・妖怪画大全集(そごう美術館)

2013-08-31 12:37:30 | 行ったもの(美術館・見仏)
そごう美術館 『福岡市博物館所蔵 幽霊・妖怪画大全集』(2013年7月27日~9月1日)

 福岡市博物館が所蔵する吉川観方コレクションを中心に、肉筆画や浮世絵版画の幽霊・妖怪画約160点を展示。「妖怪画」はバリエーション豊富だから展示になりやすいが、「幽霊画」をこれだけ集めた展覧会はめずらしいと思う。

 吉川観方(よしかわ かんぽう、1894-1979)の名前は、うっすら記憶にあった。調べたら、2011年の奈良県立美術館の館蔵品展『安土桃山~江戸時代に生きた人々』に、このひとの名前がある。京都出身の日本画家で、風俗研究家として絵画、染織、工芸など約12,000点にのぼる風俗関係資料を生涯にわたり収集した人物だという。どういう事情か、観方コレクションは、数か所に分散して引き継がれたようだ。

 この展覧会の楽しみは、ひねりを利かせたキャプション(作品名)とその解説。いま図録を眺めなおしても、にやにやしてしまう。谷文晁の幽霊図の「フフフ 余裕のまなざしである」に噴き出す。円山応震の妖怪図の「ふう…妖怪って疲れるんだぜ」もじわじわ来る。源頼光の蚊帳を引き剥がす土蜘蛛の錦絵(月岡芳年)の「掃除の邪魔よ! なんだとっ!」もツボに来て、もう土蜘蛛がメイドさんにしか見えない(→これ/国会図書館)。会場の主な作品には、さらに図中の人物に喋らせた楽しいキャプションが追加されていて(図録には未収録)いちいち熟読しながら悶絶した。歌川広重の『平清盛怪異を見る図』に「松ケンじゃねーぞ」とかね。橋本関雪の幽霊図は「わいは~でおま」と関西弁で独白していたけど、確かに横顔が明石家さんまに似ている(笑)。

 会場にガイジンさん(西洋人)の姿も見たけど、日本人の幽霊好き・妖怪好きは、彼らにはどう見えるのか、聞いてみたい。私が日本文化の誇るべき特徴をあげるとしたら、礼儀正しいとか清潔好きとかよりも、「異界との親近性」はかなり上位に来るのだが。

 日本画家であった吉川観方自身の作品はないのかな、と思っていたら、最後に『朝霧・夕霧』(昭和23年)二幅だけが出ていた。左にやぶれ団扇を手にしたお菊、右に鉄漿の化粧中のお岩が顔を寄せ合って、何やら小声で会話を交わしている風情。どちらも髪が抜け落ち、面相は恐ろしいが、白く透き通った肌の色は、美女の面影を残している。図録の冒頭で、福岡市美術館の中山喜一朗氏は、この絵を「怖い」「怖すぎる」と書いているけれど、そうかなあ。私は、時代に取り残された二人が静かに微笑みあっている姿が、抱きしめたいほど愛らしいと思うのに。忘れられていくものの悲惨と滑稽をやわらかなトーンで描いた作者の視線にも、共感と哀惜の念を感じる。

 なお図録には会場で見られなかった作品も多く収録。福岡市博物館→大阪歴史博物館と巡回してきた展示で、神奈川がいちばん小規模なんじゃないかと思う。そこは少し残念。

 横須賀美術館の『 日本の「妖怪」を追え! 北斎、国芳、芋銭、水木しげるから現代アートまで』(2013年7月13日~9月1日)も行きたかったんだけどなあ…。首都圏在住者でないので断念。

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