見もの・読みもの日記

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大皿小皿+「つきしま」異本/やきもの勉強会(根津美術館)

2017-07-21 21:34:22 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 企画展『やきもの勉強会 食を彩った大皿と小皿』(2017年7月13日~9月3日)

 タイトルに「勉強会」とあるので、「はじめての古美術鑑賞」シリーズの企画かと思っていたら違った。ホームページを見ると「毎日の生活の中で使っている『皿』に焦点を当て、大きな皿や小さな皿が食卓で使われる文化とその時代を考えてみました。人々はいつ頃から皿を使うようになったのでしょうか。『盛る』という食事の文化が現れたのは、いつ頃のことでしょうか」とあって、色や形を鑑賞するだけでなく、文化史的な背景を考えるという趣旨から「勉強会」を称しているらしい。もちろん、ただ見えるものを楽しむだけでも構わない。

 展示の冒頭にあるのは中国古代の陶器皿で、ははあ、時代順に並んでいるのだな、と思う。ここで興味深いのは「大皿はいつから?」という問題提起である。古代の土器の時代には、大皿が見られないそうだ。それって、大皿を焼ける技術がなかったからじゃないかな? 6世紀~9世紀につくられた皿は、確かにどれも小さくて、現代の食卓でいうしょうゆ皿くらいである。余談だが、一人暮らしの私は、おかずを一品ずつ別の皿に盛るのが習慣で、小皿や小鉢を愛用している。展示品の、蓮華文の白釉皿や青磁の鳥文皿など(9世紀、唐時代)、自分の食卓に欲しくて見とれていた。

 中国では12世紀頃になると、団子のようなものを山盛りにした大皿を描いた壁画があるそうだ。13~14世紀の南宋から元の時代には青磁の大皿がたくさんつくられ、特に元は「超大皿」の時代とも呼ばれることは、展示品を見ると納得できる。しかし、これらは本当に料理を盛って使ったのだろうか?

 会場には、さまざまな食卓を描いた絵画史料もパネルで紹介されていた。日本の『絵師草紙』では、家族めいめいが四角い盆に器を乗せ、盆を床に置いている。『慕帰絵詞』は、たぶん身分の高い人々の食事で、脚つきのいわゆる銘々膳を使っている。『春日権現記絵』では、塗り物らしき大きな器に団子のようなものを盛った様子が描かれる。『芦引絵』の僧侶の食事では、それぞれ高坏のような台を使っている。あとトルコのミニチュア―ルに描かれた食事風景では、テーブルの中央にスープ(?)の入った浅い大きな鉢があり、まわりを囲んだ人々はスプーンだけを持っている。めいめいの前に置かれた三角形のものは、ナプキンか? どう見ても皿ではない。

 不思議に思いながら、展示品を見ていくと、直径3~5cmの、まるで雛道具のような超ミニ小皿があった。「手塩皿」といって、皿が普及する以前、人々はてのひらに塩を置き、食べ物につけて食べていたので、その名残りだという。また、イスラム文化は大皿好みで小皿を使わなかったという説明があり、さきほどのトルコの絵を思い出して納得した。

 明清時代は精巧な皇帝の器がつくられる一方、味のある民窯の器も生産された。ここでも(というのは、日本民藝館のあとに寄ったので)呉州赤絵、呉州染付をたくさん楽しむことができた。『古染付四牛図皿』面白かったな。四頭の牛と牧夫の姿をいろいろなバリエーションで描いたもの。これ欲しい。

 続いて日本では、桃山~江戸初期には大皿がつくられたが、江戸中期には小皿が好まれ、後期には、中国の新しい文化の影響で、また大皿がつくられるようになったという。なるほど~この流れは初めて把握した。

 さて、上の階にあがって、展示室5は「舞の本」特集。『築島』(室町時代)『静』(室町時代)『高館』(江戸時代)という、全くテイストの異なる3種の絵巻が出ていた。驚いたのは『築島』で、日本民藝館所蔵の『つきしま(築島物語絵巻)』の別バージョンではないか!!! あまりにも絵の雰囲気が違うので、はじめ気づかなかったが、よく見ると、絵2(岩山を切り崩す)とか絵3(牢屋)、絵9(籠に入れられた人柱候補と屋敷の中の清盛)など、基本的な構図は同じなのだ。しかし、筆致は民藝館本ほどゆるくない。馬は馬らしく描かれている。面白いのは、絵7のように、墨画ふう(雪舟ふう)の山水の表現が見られること。かと思えば、隣りの絵6は、子どもの絵のように稚拙だったりする。

 むかし、矢島新先生が講演で「根津美術館にほぼ同じ図様の絵巻がある」と語っていたことは、かすかに覚えていたが、ついに見ることができて嬉しい。同じ講演で紹介していた東覚寺の十王図も、最近、三井記念美術館の『地獄絵ワンダーランド』で見ることができたし、見たいと思い続けていると、いつかは叶うものなんだな。
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