見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

中華ドラマ『大軍師司馬懿之軍師聯盟』、看完了

2017-07-27 22:49:08 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『大軍師司馬懿之軍師聯盟』全42集(2017年、東陽盟将威影視他)

 日本の中国古装劇ファンの間で早くから評判を呼び、公開が待ち望まれていたドラマ。本国では、6月22日から7月14日まで放映された。放映が始まるや否や、期待以上という評判が聞こえてきたので、ネットで視聴できるサイトを探し出して、本国の放映にあまり遅れることなく全話完走した。こんなことができるなんて、ほんとにいい時代になったものだ。

 主人公は三国時代(2-3世紀)の武将・司馬懿、字(あざな)は仲達。魏の曹操・曹丕に仕え、五丈原で諸葛孔明の蜀軍と戦ったことが有名であるが、本作では武将の面影はなく、風采のあがらない文官として描かれる。曹氏との権力闘争を制して魏国の全権を握り、没後、孫の司馬炎が晋(西晋)を建てたので宣帝と追号された。ドラマは、まだ部屋住みの書生にすぎない司馬懿と妻の張春華の間に最初の子供が生まれるところから始まる。難産に苦しむ張春華を救ったのは名医の華陀。その頃、曹操は頭痛に悩み、華陀を招いたが、官界からの引退を勧められて激怒し、華陀の交友関係を洗うように命じた結果、司馬懿の存在を知る。同じ頃、司馬家には郭照(阿照)という若い娘が、身寄りをなくして引き取られていた。阿照は、ひょんなことから曹家の二公子曹丕と知り合い、互いに惹かれ合って、ついに自らの意思で曹丕に嫁ぐ。

 こんな感じで、けっこう自由に史実や伝承を改変しながら、(史実よりも)緊密な人物関係を作り出して、視聴者を引き込んでいくところが巧い。その後も、ここは息抜きだろうと笑って見ていたエピソードが、じわじわ戦慄の大事件につながっていく展開の巧さに何度も唸った。そして何よりも登場人物が、善悪を超越して魅力的である。

 前半は、やはり曹操がいい。すさまじく酷薄であると同時に有能で先見性に富み、家族愛と人間味の持ち主でもある。ある意味、中国人の理想の「為政者」かもしれない。演者の于和偉があまりにもハマり役で、2010年の『三国』(スリーキングダム)で劉備を演じたというのが、見ていない私にはちょっと信じられなかった。前半では、父親との関係に悩む、おおらかでまっすぐな青年だった曹丕(李晨)が、権力の掌握とともに嫉妬や猜疑心にとらわれ、どんどん地獄に落ちていくのは後半の見どころ。日本の大河ドラマ『平清盛』で清盛を演じた松山ケンイチを思い出した。

 曹植(王仁君)は気弱で優しい青年だが、思慮が足りず、周囲の思惑に流されていく。曹植をかついで天下を取ろうとした楊修(翟天臨)の野心家ぶりも魅力的だった。このドラマ、剣を交える戦闘シーンは少ないが、文官たちが命をかけた頭脳戦・弁論戦を繰り広げ、息つく暇もない。前半は荀彧(王勁松)もよかったなあ~。『琅琊榜(ろうやぼう)』の言侯である。曹操との間に、信頼、尊敬、友誼を共有しながら、死を賜り、漢への忠節を守って死んでいく。

 曹家の骨肉の争いに比べて、司馬家はいつもわちゃわちゃと仲良しで和む。私は司馬懿の三弟・司馬孚(王東)が好きなのだが、若い頃に阿照に失恋してから、最後まで一家を構える描写がなかったので心配。幸せになってほしい。女性陣は、司馬懿の妻・張春華が劉涛(リウ・タオ)、『琅琊榜』の霓凰公主である。本作でも剣に覚えのある強い女性(強すぎるw)の役だが、愛する夫に容赦のない、粗野な田舎のおばちゃんキャラでもある。のちに司馬懿の側室となる柏靈筠(張鈞甯)との描き分けを強調するためなのだろう。

 卑賤の身から皇后となった郭照(阿照)を演じるのは唐芸昕、『隋唐演義』で覚えた女優さんで、美人ではないが愛嬌があって好きだ。ベビーフェイスなので、皇后となってからの威厳や複雑な心理を、今後どう表現できるかが気がかりではある。逆に、曹丕のもう一人の妻・甄宓を演じた張芷溪は、凛とした正統派の美人。これは誰からも愛されて当然と思ったのに、薄幸な生涯だった。

 主人公の司馬懿役は呉秀波(ウー・ショウポー)。智略に長け、行政の手腕もあるのだが、目立つことはしない。「戦々兢々、如臨深淵、如履薄氷」(出典は詩経)が信条。権力者の前で、眠り猫のように背を丸め、深々と跪拝する場面が何度もあって印象的だった。でも、そうやって慇懃に振舞い、相手を立てながら、粘り強く自分の主張を通していく。泰平の世を望んでいるけれど、根本は司馬家の幸せのためというのが、最近の大河ドラマ『真田丸』や『おんな城主直虎』に描かれた国衆の姿を思わせなくもない。本作は、郭照が皇后に立てられ、曹叡(甄宓の子)が皇太子となり、司馬懿は罪を得て官職を離れ、田舎に帰るところで終わるが、『軍師聯盟』第二部「虎嘯龍吟」が着々と準備されているらしい。待ち遠しい!

 本作の魅力だが、脚本は言うに及ばず、美術が素晴らしい。武具、調度品、衣装も素敵。いろいろ美味しそうな食べものが出てくる。劇伴音楽がとてもいい。それから、ネット(主に楓林網/Maplestage.com)で視聴していたのだが、毎回「軽松一刻(ちょっと一休み)」と称して、本編の出演者によるCMが入るのが楽しかった。ネット配信ではCMがスキップされがちというけど、こういう楽しいCMなら何度でも見る。

※後編感想はこちら→『軍師聯盟之虎嘯龍吟

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする